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賢者サマのおふね◇キオウのこと  作者: 神代きい


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記憶の中にいる人◇行動開始

 アゼルスは息子の言葉に複雑な表情を浮かべていた。

「でもな、キオウ――」

「父上が何を言っても、俺は今すぐに父上をショウカに帰すだなんてできない。見殺しも同然だ」

「だが…」

「父上は、あの内戦を止めたい?」

「それはもちろん…」

「なら、どうにかしよう」

「…その『どうにか』とは、お前ならどうするのかな?」

 ズバリ。

「どっちかを諦めさせる」

「…実に簡単に言ってくれるね」

 アゼルスは目を細め、苦々しく自嘲した。

「アグナルと叔父上、どちらも身を引く真似はしないだろう。

 それに…、今の私にはあのふたりを止める力などない」

「力ならあるよ。父上には俺がいる。

 ――賢者である、この俺が」

「キオウ、お前…――?」

 通常賢者は人の世に深く関わろうとはしない。今回のようなケースなどもってのほかだ。

 それに…、今のこの子はショウカには長くいられないと聞いている。無理をすれば体調を崩す。この子を危険にさらすなど…、私は絶対にしたくない。

 そんな父の思いを悟り、キオウは力強く頷いてみせる。

「大丈夫。絶対に無茶はしない。約束する。

 ――母上の墓に誓う」

「…お前…」

 だから…、とキオウは優しく微笑む。

「俺は父上の力になる。…お願いだ、父上の力になりたいんだよ。

 俺は12年も父上を苦しませた。それどころか俺の勝手で父上の記憶を封じて、父上を更に苦しませた。

 …親不孝の償いを、させて欲しい」

「つぐ…? そんなことなど――」

 アゼルスは絶句し反論をしようとしたが――…。だがキオウの表情を見て、結局はため息混じりの苦笑が漏れた。

「…わかった。だが、絶対に無茶はしないでおくれ。いいね? 坊や…」

「うん、約束する。

 ――…うわ、今の『坊や』には痺れたなぁ。久しぶりに呼ばれて、すっげー気恥ずかしいや」

 照れ笑いの我が子に、アゼルスは「おいで」と両手を広げた。小さい頃のキオウにしたように。

 キオウはちょっと考えて――…、ぽんっ、と姿を変えてから飛びついた。いつも変化する姿より数年前の――アゼルスが知る頃の姿になって。

 あまりにも懐かしい姿の我が子。

 アゼルスは腹が痛くなるほどに笑い転げ、目尻の涙を拭いながらその体を愛情深く抱きしめた。

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