4-15 闇夜の遠足。その1
-------N.A.Y.561年 8月16日 10時20分---------
一方そのころ、ルェイジー達は昨日歩いてきたルートで通路を歩いていた。
先頭はルェイジーとチンヨウに、後方はチャオとユー。
ランタンを持っているのは、チンヨウとユーのみだ。
二人が歩くたびに、パーティカルロイドシェルに組み込まれているランタンが揺れる。
チャオは、唇を尖らせたままだ。
「ったくよぉ、なんで俺がユーのとなりなんだよ……」
ユーは、笑顔で右隣りのチャオを見下ろす。
「何か言った? おねーさん、また相手しちゃうわよ?」と、チャオに向けて胸を突き出す。
「や、あや、わかった、頼むよ。俺一睡もできてねーんだよ……」
チンヨウは微笑させる。
「なるほど、拳龍会の狂犬もまさか女性の胸には弱かったなんてな」
「チンヨウシェンシン、それセクハラになっちゃうわよ。うふ! ね、チャオくん!!」
「うるせー!! 俺は強くなるだけで手いっぱいなんだよ!」
「ま、黎 文涛老師もある意味安心だろう」
ルェイジーは隣でチンヨウに話しかける。
「ウェンタオ老師、強いアルか?」
「ルェイジー君はしらないだろうけど、裏九龍城国の会長全てがクンフー使いだ。
特にウェンタオ老師は、裏九龍城国内の排気ダクトを全て理解している。
今回のあやつにとっては、排気ダクトが全てのカギを握っていると言っても過言ではないだろう。
そして、その中でもウェンタオ老師は、九龍城国が建国されるきっかけを作った九大英雄の一人だ」
「英雄? ルェイジー九龍城国に来てから、まだ短いアルネ。歴史、あまり詳しくないアルネ!」
「かつて、九龍城塞と呼ばれていた時代があった。
中国でもなくイギリスでもない、スラム街であり違法建築の集まりで、中国やイギリス側では膿やゴミなどと言われていた。
そして、中国政府は強制撤去の作戦を行うが、我々九龍城塞は抵抗した。
抵抗するためには、九龍城国内で様々な仕掛けが必要だったんだ。
ウェンタオ老師は、その中でも空調ダクトを操る専門家だったんだ。
その抵抗をきっかけに、九龍城塞内の内乱は一気におさまり、パーティカルロイド技術を持ってきた、
初代老龍がパーティカルロイド技術を発展、広めたのだ。
内乱がほとんどだった九龍城塞はここが国へとなった瞬間だったそうだよ。何せ、銃に対して素手で対抗できたのだ。
それは、イギリスと中国は本当に恐怖に感じただろう」
ユーは右手の人差し指をたてて、ウィンクさせる。
「おねーさんが更に捕捉するよ。老龍の技術は本当にすごかった。
当時はクンフーはあったけど、クンフーを更に進化させたのが、パーティカルロイドのバリア技術よ。
バリア技術は一枚でも驚異の技術で、持続時間も本当に短くても、銃を所持している相手に対して、クンフーのみだけで戦える技術をアプローチしたのよ!!」
「アイヤ!! アプローチって何アルネ?」
頭の後ろに両手を交差させて歩いているチャオがルェイジーを小ばかにしたような口調で声を出す。
「ルェイジー、そんな言葉も知らないのかよー。ようは見せしめだよ!!」
「ルェイジーちゃんさ、目の前に人がいきなり消えて、他の場所に突如現れたら、どう思う?」
「アイヤ、驚くアルネ!!」
「そうね、それで、敵兵さんを倒したら、どう思う?」
「すっごく驚いて、やる気になるアルネ!!」
「そうそう、そういうことよ。皆の士気をあげることに大いに役立ったのよ」
「ルェイジー、理解したアルネ!!」
「でもさ、パーティカルロイドってそんなに凄いのかよ?」
「そうね、チャオくんはみたことある?」
「ないよ」
「バトルドレスによるバリアは凄いわよ。薄くて硬くて、半円球状になるのも理由があるの」
「ルェイジー知ってるアルネ!! 直線状を描きながら、弾丸は横にクルクル回っているアルネ!!
硬くて丸いところに当たれば、弾丸はそれていくアルネ!!」
「そういうことよ、つまり、兵士さんが鋼鉄のヘルメットかぶっているのは、さすがに分かるわよね?」
「ああ、銃持っている軍の奴らだろ? 俺はさっさと近づいて、顎に掌底打ち込んでやるけど」
「そうね、バリアシステムは、あの帽子みたいのが全身を覆ってくれる訳よ」
「ルェイジーもなるべく使われないようにしているアルネ!!」
「何でだよ?」
「パーティカルロイド粒子が切れてしまうと、バリアが出なくなるアルネ!!」
「そうね、結局無限エネルギーなんて存在しないから、パーティカルロイド粒子を溜め込んでいても、粒子は少しずつ放出してしまうの」
「ユーおねーさん、なかなか詳しいアルネ!!」
「な、なはは、おねーさんこれでも調理師やりながら、何とか技術開発とかで就職したいのよ。
そして、衣服にため込むパーティカルロイドの素材は、パーティカルロイドシェルなんて言われているわね。
パーティカルロイドシェルは、パーティカルロイドコアからシェルへと移せるわけ。
シェルも様々な企業が作っていて、アルファインダストリアーズ、オメガコーポレーション、クトゥルフ、それとハミルトンアヤGTC」
「アイヤ!! 綾さん、さすがアルネ!!」
チャオは、腕を交差したまま話し続ける。
「知り合いなのか?」
「ルェイジーの上司、銀龍と金龍、とっても仲良しアルネ!!」
「あらま、お知り合いというのはスゴいわね。おねーさんも感心しちゃう。ちなみにGTCはジェネラルトレーディングカンパニーの略ね」
「じぇねらる……?」
逆に常識人であるチンヨウがルェイジーに教える。
「つまり、総合商社のことだよ。ま、色々と全部扱えるところという意味になるかな?」
「アイヤ!! じゃあ、中華料理も扱えるアルカ?」
「……おねーさんには分からないけれど、扱えるんじゃないの?」
「綾さん、頭いいアルネ!! すごいアルネ!!」
「まあ、子会社も沢山持っているみたいだし、さすが、ユグドシアル大陸の中でもトップの女性社長ね」
会話に沢山の華が咲き乱れようとしたところ、全員が一斉に足を止めた。
五爪龍会……最も権威の高い組織。拳法だけでなく、拳銃なども所持している。
構成員は、バラバラの格好しているが、
必ず五本の爪を立てている龍のマークが入っている。
縄張りは闇市場の一角。
黒龍会……構成員のかっこうは、黒いスーツに龍の爪の形をしたバッヂを必ずしている。
縄張りは黒龍省の真下
神龍会……裏取引などの情報を主に生業として存在している。CIA的な役割。
九龍城国治安維持部隊ともつながりがある。
拳龍会との取引により空調などの安全な道も知っている。
白い中国服を着ているのが、トレードマーク。
銅龍省と紅龍省の真下。
拳龍会……中国拳法しか扱わない組織。
緑色の中国服を着ていて、空調のプロフェッショナル。
今回の事件のキーになっている。
縄張りは、青龍省と黄龍省の真下。
牙龍会……闇医者が多く、医療関係者が多い。
表側に存在している、牙龍省とはあまりかかわりがない。
構成員は病院服でも戦闘できるスタイルになっている。
地下格闘闘技場を持っていて、選手がケガをしたら治療するという役目も担っている。
縄張りは、牙龍省と白龍省の真下。




