4-13 薄暗い中の、来客
-------N.A.Y.562年 8月15日 深夜---------
パーティカルロイド粒子によって、九龍城国内周辺は明るいが、九龍城国でも明るくない所は必ずある。
メインストリートから外れると粒子灯がないところも結構あって、下手をすれば闇夜に飲み込まれてしまうときもある。
この場所も例外ではなかった。
真っ暗だが、赤いコートを羽織っている小柄な女性は、待ち合わせの為に階段に腰を下ろしていた。
「随分と遅いアル……」
彼女は、九龍城国と言われているところは安全性は皆無に等しいらしく、信じる者は己のクンフーのみだと聞かされていた。
先ほども二名ほど謎の人物に絡まれたが、瞬時にカタをつけてやった。
NPO法人のやつらだったら、もっと粉々にしてやりたかったが、ビザもとらずに入ってきたのだから、事を荒げるわけにもいかない。
彼女の得意な空中戦は、尋常ではないくらい速度が速い。
相対性理論を信じているので、地面から離れれば離れるほど速度が増していく。
彼女が座っている傍に一つの影が後ろから近づく。
先ほども絡まれていたので、少し警戒した。
その影は、依頼者だった。
「お前が、レイリンか?」
暗すぎてよく見えないが、暗がりの中でも細い顔に丸いサングラスをかけている。
上半身の服は、革のジャンパーだろうか?
「そうアル、レイリンよ。それで、入り口はここなの?」
彼女は階段先にある高圧式の扉に視線を向ける。
男は否定した。
「いや、違う。そこは正式な入り口だ。そこを通れるのは傭兵集団や国の管理者しか通れない」
「じゃ、どこが入り口アル?」
「まあ、ちょいとした裏口だ」
男は、踵を返し入り口とは異なる方向へ向かう。
「どうした? ついてこないのか? ついてこないとギャラ前払いは払わねぇぜ」
彼女は男へと振り返る。
極悪NPO法人から大借金をさせられ、今だ払い続けている。
背に腹はかえられない。
彼女は一歩階段を登り始める。
「どういう入り口アル?」
レイリンと男は同時に階段を登る。
登り終えたら、裏通りのコンクリート製の民家が建っていて、道が遠くまでメインストリートまでのびている。
男はすぐ隣の、右手の民家らしき木製の扉を叩いた。
木製の扉から男の声が聞こえた。
「黒龍会は?」
丸いサングラスの男は口を開いた。
「あらゆる手段をもって、目的を達成する」
木製の扉が開くと、そこには裏九龍城国からやってきそうな感じの男が一人立っていた。
着ている服もところどころが切れていて、見るにたえない。
革ジャン、サングラスの男は、唇の端を歪ませながら、場所を案内していく。
「国が把握していない、裏九龍城国への道はごまんとある。そして、他の会の縄張りごとで、出入り口は全く異なるわけだ。
俺達は黒龍会だ。黒龍会の縄張りは、黒龍省のみだ。持っているエリアは狭いがかなり勢いのある会だ」
男に案内されるがまま、レイリンも歩いている。
扉をくぐると、目の前は真っ暗だった。
男は携行式のランタンをかかげながら、階段を下りて行っている。
どれくらい下ったのだろうか?
地下4階ぐらいの長さだろうか? ずっと階段を下りて行っているような気がする。
そして、男は案内しながら降りて行っていると、奥側がうっすらと扉が徐々に近づいてきたのだ。
「いつまで、降りて行くアル? 田 文海?」
「なあに、ここの扉を潜れば、闇市場だ」
「随分、深いアル。裏九龍城国……」
「なぜこんなに深いのかは知らない。だが、俺たちはここでの商売がうまくいけばいいだけだ。
そして、頼むぜ五行拳使いの凄腕フリーランサー……」
男は鉄製の扉に手をかけ、ドアノブを下げる。
「ようこそ、裏九龍城国へ……」と、扉を押して二人は闇への入り口を潜ったのだった。
レイリン
年齢24才ぐらい
女性
身長160センチぐらい
肌の色 黄色
瞳 黒
人種 中国(湖南省長沙市)
利き腕 右手
クンフースタイル 形意拳(五行拳のほとんどで対応)
一人称 私
所属部隊 黒龍会(一時的)
黒龍会に雇われた、フリーランサーの女性。
ルェイジーと同じ方言を使っていて、中国、湖南省長沙市の農村の産まれ。
奨学金を出したNPOが超悪徳だと判明。
借りた奨学金が数十倍に膨らみ凄まじい負債をかかえることになった。
五行拳の使い手。
自身が速くなればなるほど相手よりも上回るという独自の考え方を持っている。
頭脳派なため、相手の挙動に対して、どの様に動けばいいのか
たえず頭のなかでイメージしながら戦う。
その為、形意拳を踏襲しているが、形意拳の中の五行拳のみで戦う。
黒龍会所属。
男性。
身長158センチ。
瞳は薄茶色。
髪は、黒髪で、革のダブルジッパー(斜め)のジャンパーを羽織っている。
胸元には黒龍会のバッヂをしている。
会長に忠誠を誓う男性。
実は、黒龍を守るための一族の末裔。
ツィイーの事を慕っており「姉さん」と呼んだりしている。
暗闇でもサングラスをしており、暗闇に慣れ過ぎたせいか、光が弱点。
今回、レイリンを手招きした人物でもある。




