2-2 跳べ、朱雀部隊!!!
赤い土ぼこりが舞う中、相手の野営地らしきテントが三つ見えている。
恐らく、本拠地ではないだろう。
その周辺を哨戒兵が見回りをしているのだ。
朱雀部隊のいる方向から約400メーターーほど離れた場所、こちらもちょっとした木々があるので、しゃがみ込めば見えにくい。
相手側は旧暦の装備しかしていないと思われた。
小銃で恐怖する者など、今時いない。
相手の影が遠くの方で見え隠れしている、敵影をレイレイは見ていた。
風速は非常に強く、レイレイの赤い前髪が強く揺れ、右耳にある剣の形をしたイヤリングも揺れた。
ゴーグルの奥の瞳が青くなっている。
金龍のいわれの通り、全メンバーがゴーグルをしている。
なぜなら気功ユニットを利用して移動するので、あまりの風圧で物がよく見えなくなったりするからだ。
演習の時は、少しぐらい大丈夫だったので、皆していなかったが戦場となると話は別だ。
一瞬にしていくらででも戦況が後転することなど日常茶飯事だからだ。
「あいつらさ、哨戒兵だよね。何、あの格好? しかも、あの小銃一丁で私たちと戦うつもりなのね……。あーあ、可哀そう」
あまりにも歴然とした差に、レイレイは戦意喪失している。
左横にいるシャオイェンが、冷静に見ている。
「更なる詳細情報によると、歩兵たちにも最新鋭の武器を配布することは可能との事らしいですが、
あのビッグバンコステロというボスは、どうやら兵器にあまりお金をかけたくないとのことです」
「うえぇ、マジで? 超ブラック企業じゃない。兵士なんて使い捨てだっていうことだよね」
リームォがすかさず口を開く。
「ぶらっく、きぎょう……おいしい?」
レイレイは右横にいるリームォに笑顔で返す。
「リームォちゃん、ブラックって食べ物じゃないよ」
レイレイは、早速銀龍に報告した。
「銀龍ターレン、野営地と思われる場所を発見。敵影は約10名です。どうしましょうか?」
内耳から銀龍の声が聞こえる。
「おう、想像以上に速く見つけられたな。何事も初手が大事だ。奴らの戦力を根こそぎぶっ潰せ!!」
レイレイは「了解です」と、通信を切った。
彼女は、金色の武器を持っていた。
中世の剣のような形だ。
七星剣と言われている兵器で、短いので短器械とも呼ばれている。
勿論、単なる人を切断するような剣ではない。
パーティカルロイドを高出力で振動させ、装甲車だろうが、戦車だろうが、ぶった切れる。
ただし、バトルドレスの、ため込んだパーティカルロイドシェルが続くまでだ。
隣のリームォは空気が張りつめてきたので、察知したのか無言で小さい両手で持っているナイフみたいのを逆手に持つ。
持っている兵器は、胡蝶刀と言われているもので、オーソドックスなナイフのような兵器だ。
レイレイと同じようにパーティカルロイドシェル機能を持っている。
シャオイェンは、両手に中国刀を両手に持っている。
取っ手部分には、赤い布みたいな飾りがついていて、三人の中では一番大きい。
梅花双刀と言われている刀だ。
基本的には、クンフーを扱うものは全て徒手空拳が基本なので、武器などはしょせん消耗品でしかない。
壊れれば、捨てるだけという。
日本の刀とは真逆の性質を持っている。
彼女たちは兵器が使い物にならなければ、捨て置いていくのは無言のルールである。
レイレイは、ゆっくり立ち上がった。
二つに結っている、お団子頭の髪飾りが静かに揺れる。
そして、両足を軽くける動作をした。
まるで、スタートダッシュ前の短距離走のアスリートみたいだ。
「じゃあ、行くわよ、シャオイェン、リームォちゃん!!」
レイレイは、深呼吸をさせ、両方の眉を吊り上げ叫ぶ。
「パーティカルロイド起動!!」
そして、リームォ、シャオイェンも咆哮する。
「ききょう、ゆにっとょ……」
「オン!!」
音声認識され、全員、全身に青い幾何学模様が一瞬にして走り、消滅する。
レイレイは一気に前のめりにしゃがみ込み、テントへ走っていく。
その速度は、人間業ではない。
そして、赤い影三つは、あっという間に敵陣のテント前まで切り込む。
眼前に見えてきて三つあるテントのうち、レイレイが真ん中入り口手前にいる、一人の哨戒兵に近づく。
男が迫りくる赤い影が近づいたと気づいた瞬間、小銃が一瞬にして真っ二つになり、腹部から大量の血を流し既に息絶えている。
リームォは跳躍し、レイレイの上空を超え、軽い体を活かしテントを駆け上りながら、反対側にいる緑色の服をした男に乗っかる。
男は頭の上に乗った小さいものをどかそうと、あがこうとするが、両刃で喉元を切られ絶命。
異変に気付いたのか、テント入り口から急いで小銃を構えた男は、レイレイに容赦なく左腕を切断される。
右手で小銃で狙いを定めようとするが、小銃は既に真っ二つになる。背中から金色の剣が突き抜けた。
リームォと同じ方向に、テント裏側から攻めていたシャオイェンは、敵と視線が合う。
敵側は何とか小銃のトリガーを引くが、シャオイェンは刀を交差させる軌道を描く。
弾丸の軌道と刃はぶつかるが、全て弾かれる。
刀を振り回しながら近づく彼女には、弾丸など無意味だ。
あっという間に弾丸がつき、その瞬間、シャオイェンにバツ字切りにされる。
高出力なので、あらゆる、肉、骨などは意味をなさず、突き抜ける。
肉体など紙同然だ。
これで、合計四人を始末した。
言葉を交わす必要もなく、全員は正確な人数を身体で叩き込んで覚えている。
あと6人だ。
レイレイが高速で真ん中のテントを一周し、テントの四点を抑えている紐を全て切る。
相手側は戦闘準備に遅れてしまっていたのだ。
初動対処に遅れたので、天井から落ちてくるテントをもがきながら、どかそうとする。
テントが蠢く姿から、察するに中には二人いる。
リームォとシャオイェンは同時に二人を攻撃した。
リームォは確実にナイフを立て、うめき声が聞こえた後、シャオイェンはその二つを十字に切断した。
二人が朽ち果てた直後、右側のテントから男が出てくる。
すぐに、レイレイに銃口を向けるが、彼女の気功ユニットによって、即座に詰め寄られ、一瞬のうちに体が真っ二つになる。
超高出力のため、血や肉が焦げる匂いが充満する。
レイレイは、鼻腔をつく匂いなど、気にせず、堂々と右側のテントの中に入る。
敵側も一応プロだ。
男たちは、お互いに弾丸が当たらないように、照準をクロスさせて、レイレイを撃つ。
だが、レイレイにはそんなものなど通用しない。
パーティカルロイドユニットが初速度を計算し、ハニカム構造のバリアがはられ、弾丸はバリアに阻まれ空しく滑っていく。
男たちは、「ひいいいい!! 化け物!!」と、叫びながら、小銃を捨てて出ていくが、
入り口左右に、しゃがみ込んでいるシャオイェンとリームォにとどめを刺された。
一瞬すぎて、相手側も言葉が出ない。
残り1名。
完全に男は腰を抜かしている。
モヒカンで、鋼の帽子すらしていない、命知らずにもほどがある。
モヒカン男の目の前で、レイレイは七星剣の切っ先を男の顎に当てる。
高出力の粒子が、男の顎の皮膚、無精ひげを熱で焦がす。
モヒカン姿の男は、涙を流しながら「あちぃぃいいいいい!!」と叫ぶ。
レイレイの両目が、ぼんやりと赤く光り、リームォとシャオイェンの二人も兵器を持ったまま、
赤い瞳を揺らしながら、ゆらりゆらりと、モヒカン姿の男に近づく。
三人全員は、チャイナドレスが赤いだけなのか、血だらけなのかもう分からないぐらいに真っ赤に染まっている。
そして、レイレイはそのままの状態で通信した。
「銀龍ターレン、テントをほぼ占拠しました。規模は十人。我に損害なし」
二秒ぐらいしたら、銀龍から連絡が入る。
「わかった、よくやった」
「あと、1人いますが、コステロとかいうボスに通達事項はありますか?」
「ああ、首を長くしながら、洗って待っておけ!! と、伝えてくれ」
「了解です、銀龍ターレン」と通信を切る。
レイレイの瞳が、ゲスな男を見下げている。
冷徹な赤い瞳は、考えていた。
どれだけのものを奪い、どれだけの女性を慰みものにしてきたのだろう……。
一言、彼女は言葉を残す。
「ねぇ、腰を抜かしていないで、起きてください……」
男は、剣が熱いのでむりくり起こされる。
「ひぃぃいぃいい!! たすけてぇええええ!!」
「ねぇ、中国語ではなく、ユグドシアル語でせっかく話してあげているのに、会話になっていないわ」
男は、そのまま後ろにある旧式の通信機から、本部へ連絡する。
「た、助けてください!! コステロ様ぁ!!!!」
うるさいので、レイレイはすぐに男の耳元に剣を摺り寄せる。
高熱で、相手の耳が焦げる。
「いい? ボスにこう伝えてください。首を長くしながら、洗って待っておいてくださいと……」
男はそのまま内容を告げた瞬間、自身の下半身が地面と一緒に、目の前にあることに気づき、意識が遠のき、真っ暗になった。




