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347話 事象介入開始


「いっつつ……な、なんだぁいったい?」


 突然起きた衝突事故に倒れたゼロは、何が起きたかもわからず混乱しながらもゆっくりと起き上がろうとするが。


「うきゅ~……ぶつかっちゃったぁ」


「っておわっ!? 誰だお前!」


 自分に覆い被さるように倒れていた少女の姿を見てさらに困惑してしまうのだった。

 私は端から見ていたのでわかるが、先ほどの衝突事故はこの薄桃色の髪を大きなリボンでツインテールにしているのが印象的なこの少女が勢いよく突っ込んできたことによって起きたものなのだが。


「はわわ! ご、ごめんなさいです! ウチ、急いでたから前が見えてなくって、それでそれで……」


「い、いいから早く上からどいてくれ」


 ゼロがわかりやすく動揺し赤面しているが、これは……うむ、少女のふくよかな二つの膨らみが体に密着してるからだな。

 こういった羞恥心の感情もこれまでの改変前にはみられなかったものだから興味深いな。


「ゼロ……」


「あ! いや違うんだティーカ、これは……!」


 こんな状況で違うもなにもないとは思うが、必死に弁解しようとしてるゼロが面白いのでもう少し手を貸さずに見ているか。

 と思っていたのだが……。


「くそっ! 逃げ足の速い娘だ」

「だが確かにこちらの方へ走っていったはずだ」


(奥から二人……この少女が走ってきた方向からだな)


 遠くを確認すると、同じ格好をした二人の男性が何かを探すように辺りを見回しながらこちらへ走り向かってきている。軽くだが武装もしているな。

 この状況からみてあの二人の狙いはやはり……。


「わわ、ヤババ! ほら立って! こっちこっち!」


「は? いやなんでおれまでっておい話聞けってぇ!?」


 とまぁ、止める暇もなく少女の勢いそのままゼロが路地裏まで引きずり込まれてしまったわけなんだが。


「追いかけるしかないですね」


「みたいだな」


 その後を追って私とティーカもそそくさと路地裏へと進んでいく。


 そうしてどうにか先ほど少女を探していた二人組が去っていくのを見届けると……。


「ふぅー助かった助かった。まだ何も成せてないのに真っ先に捕まっちゃうところだったよー」


「だったよー……じゃねぇっての! いったいなんなんだよお前は!」


「わっ! アハハ~……ご、ごめんね。ウチすっごい焦ってたからさ、ついつい巻き込んじった」


 なんというか、ノリの軽い子だな。こういうタイプはこの世界では初めて出会うから逆に新鮮だ。


「そもそもなんで焦ってたんだよ。しかも、こんな街中で誰に追われてたってんだ」


「それはぁ……ちょっと言えないかな。まぁ深い深いワケというものがありまして」


「なんだそりゃ」


「とにかく、変なことに巻き込んじゃってごめんね。ウチは急いでるで、ここらでバイバイ」


「あ、おい……なんだったよいったい?」


 なにもかもが謎だらけの少女だったが、結局その謎は何一つわからず終わってしまった。

 不思議な子ではあったが、ただのちょっとしたイベントのようなものでしかなかったんだろうか。


「……あの人を追ってたの、お城の兵士達だったわ」


 お城の兵士? それはつまり……。


「私達がこれから会いにいく王様のとこのということか? どうして一人の少女がそんなのに追われることに……?」


「それはわたしにもわからない。ただ見たままを伝えただけだから」


 ティーカもこの世界のすべてを知ってるわけじゃないだろうしな。

 先ほどの出来事は、この世界が変わったことで起きるようになった日常の一部……と考えるべきなのか。


「だったらおれらもさっさと城にいこうぜ。追ってたのが兵士だってなら、もしかしたら話が聞けるかもだしな」


 まぁそれが一番手っ取り早いだろうから私としても異論はないのだが。


「そういや結局、私達はなにしに城にいくんだ?」


 先ほどはそれを聞こうとした瞬間に少女がぶつかって中断されたからな。今のうちにしっかり聞いておかないとずっとモヤモヤしたままで落ち着かないぞ。


「おれ達がこの国を襲った“転史(てんし)”を打ち倒したことに関して、しっかりと感謝を伝えたいんだと。あと、他国の王族としてティーカといろいろ話したい……って感じだったっけか」


「そう、わたしは特に話すことはないと思うのだけど、あちらがどうしてもと言うから」


 テンシ……そうか、この世界の結果系ではまた私達がテンシを打ち倒したということになっているんだな。

 私にはそんな記憶はまったくないのでいささか違和感があるが、ここは話に乗っておこう。


「そうか、私達がな……」


 しかし王族か……。この世界での王というのがどれほどの知識と理解があるのか少々気になりはしてたので丁度いいと言えば丁度いいか。


「王様っていっつも美味いモン食ってんのかな。もしかしたらそういうのも食わしてくれるかもしれないから、今から楽しみだぜ」


「ゼロったら、相変わらずなのね」


 まったく、偉い人に会いにいくって意味を理解してなさそうなお気楽さだな。

 ゼロがこんな調子だからこそ、私達の旅も楽な気分で進められてるってところだよな。


 ……ただ、私の中には一つだけゼロに対して不安なところがあった。それは……。


(ゼロは本当に……何も変わってないのか)


 事象の改変で確かにゼロも肉体や認識に変化は現れている。

 しかし私は一度見ている、無力さと歪んだ愛を目の当たりにしたゼロが苦痛の末に絶望した姿を。


(あれは本当に……なかったことになったのだろうか。あるいは……)


 未だこの世界の真相はわからないことだらけだ。

 それでも一歩一歩進んでいくため、まずは王様が待つとされる城へと向かっていくのだった。




「で、これがそのお城ってか」


 たどり着いたのは周辺を塀に囲まれた巨大な建物だ。

 まぁ城という割には少し豪華な建物というようにも見えるが、それもまた私とこの世界との認識の差によるものだろう。


「あ! 皆さん、お待ちしてましたよ。どうぞ中へお入りください」


 と、私達が近づくと一人の女性がこちらへやってくる。

 友好的な女性だが私には彼女との接点などないのでどう対応すべきか少々悩んでいると。


「お、クルセディオの人だな。お言葉に甘えて中に入らせてもらおうぜ」


 またまたゼロが私の知らないこの世界特有の固有名詞をさも当然のように使っているわけで。


「ゼロ、クルセディオってなんだ?」


「は? いやいやなに言ってんだムゲン。あの人達とは一緒に戦った仲だろ。まだ寝ぼけてんのかよ」


 そうは言っても知らないものは知らないんだからしょうがないだろう。


「しょうがないですよゼロ様、皆さんは“転史(てんし)”との戦いの最中に駆けつけてくれた救援でしたから。あの激しい戦乱の最中、ムゲン様も我々の名を覚える余裕もなかったのでしょう」


「いやぁ、あん時は女性の部隊が最前線で戦っててビックリしたもんだぜ」


「はい、我々クルセディオはかつてモフモフ族と呼ばれた種族の体の強さと転人の魔力の高さが色濃く現れた女性達で構成された部隊ですから。これで少しは思い出されましたでしょうか?」


「ん~……ま、だいたいオッケー。思い出したってことにしといてくれ」


「相変わらず適当だなぁおい」


 思い出すことなど最初からないが……たどり着いた際に戦闘に参加したこと、手を貸したのが女性ばかりの部隊だったこと、最終的にテンシとの戦いであったことなどなど。そうか、この事象でもやはり似たようなこと(・・・・・・・)は起きていたってわけだ。

 もしかしたら、この事象操作はこれまで見てきたものとはまた何かが違うのかもしれないな。


「しっかし、まだその"様"ってつけて呼ばれるのは慣れないなぁ」


「ふふ、皆さんはこの国を救った英雄なのですから。尊敬されるべき方々なので当然ですよ。さ、それではこちらへ」


 そうして門が開かれ、城の中へと案内され向かった先には。


「お待ちしていた。私はサルガス、この国の王だ……というのは今さら言う必要もないか。あなた方が我が国を救ってくれた大恩、この国の王として誠に感謝を伝えたい」


「いやいやそんな、おれ達は偶然居合わせたってだけで、そこまで大層なことはしてないですよ。な、なぁムゲン」


 ゼロのやつ、いきなりめっちゃ腰低くなったな。だがこれも、この世界に階級制度というものが存在ということのわかりやすい証明ってとこだな。


「ま、私達にも目的があっただけのことだしな。で、そんな目的のために今も先を急いでいる私達をここまで呼んだのは、わざわざお礼を言ってくれるためか?」


「っておおいムゲン!? なにいきなり失礼かましてんだお前!」


 時と場合によっては私も社交辞令は重んじるが、そうでない場合は私は回りくどい言い方をされたくないんでな。


「それもそうね。わたし達の旅の目的はサルガス国王も十分ご理解のはず。引き留めるなら、それなりの理由を提示してもらわないと」


「いやティーカまで……。も、もうちょい冷静になろうぜ二人共」


 むしろゼロこそもっと堂々としてもらいたいけどな。

 これまでのゼロはたとえ相手が誰であろうと物怖じしないようなやつだったというのに。世界に新しい概念が追加されると、考え方も変わるもんだ。


「なるほど……いや失敬。ティーカ姫にまでそう言われてしまうとこちらも言い返す言葉もない」


「わたしのことを姫と呼ぶのはやめていただけますか。あまり好きではないので」


 ティーカの奴、これまで見たことないほど不機嫌だな。自分が姫と呼ばれることが本当に嫌ってことか。


「わかったわかった。ではティーカ殿、それにお二人も、早速本題に入らせていただこう」


 そう言ってサルガス王が取り出したのは、一つの封書のようなものだった。

 少々色褪せているところから見ると相当のk年季物のようだが、保存状態が悪くなかったからか綺麗に形は保たれているな。


「これは、約500記録前から我が王家に代々受け継がれてきた封書だ。この国が窮地に見舞われた際、それを救う英雄が現れたならその者にこの内容を伝えるように……とな」


「それって、まんま今の状況……でいいのか? おれ達、本当に偶然居合わせただけだってのに」


「本当に今がその状況なのかは誰にもわからぬ。だがこの国が滅亡するほどの危機に見舞われたのはこれが初めてのはず。だからこそ、私は君達こそ伝えるにふさわしいと判断したのだ」


「な、なんかよくわかんねぇけど、光栄なことってことで喜ぶべきなんだよな」


「かもな。……あの封書の内容にもよるだろうが」


 それに、500記録前というとこの国が新たに生まれ変わった時代……つまり私が夢で見たあいつらと繋がっている可能性があるということだ。


「それでは読み上げよう。オホン『この手紙を読んでいるということは、お前はようやくこの地を訪れたということだろう』」


 この文面、まるで誰かに宛てたような始まりかただ。しかもこの言い回しの感じはもしや……。


「『おそらくお前の頭には多くの疑問が浮かんでいるだろう。俺から答えを与えることはできないが、すべての“鍵”を集め旅の終点にたどり着けば、すべて明かされるはずだ。まぁ、お前ならその前に答えを見つけられるかもしれないがな』……と、書かれているのはここまでのようですが」


「えっと……なんだこれ? なんか、誰かへの手紙みたいな感じだったけど、“鍵”の話も出てきたしどうなってんだ?」


 ……間違いない、これはあの夢の後にこの地に残ったレイが私宛てに残したメッセージだ。

 だがどうしてこのような形で? それに私がこうしてテンシの襲撃から国を救うことを見越した上で手紙を残している。


(この前のカロフもそうだったが、私をどこかへ誘導しているのか……?)


 いくら考えたところでこの疑問に答えは出ない。だが、レイはそれも見越した上でこの手紙を残したことは文章からも読み取れる。

 すべての“鍵”を集めた先にある旅の終点に答えはある……か。


「うむ……私にもよくわからないが、これで我が国に代々受け継がれてきた責務は果たさせてもらった」


「……その封書、他には何も書かれてないの? たとえば、他の“鍵”の在りかは」


 と、ここでこれまでだんまりだったティーカが身を乗り出してきた。

 ティーカはあの手紙に次の鍵の在りかが書かれていると思っていたのか。

 ただ……


「それってそんなに重要なのか? ティーカは自分で鍵の場所がわかるはずだろ?」


「そこまで……万能じゃないから。遠すぎて感知できない。世界が……広がりすぎてる」


 遠いと感知できなくなる? 確かに、これまでの二つはどちらも近場だったからな。

 ただ、世界が広がりすぎてるというのはどういう意味だ?


「えっと、それじゃあこれからどうすんだ? 鍵の場所がわからないってなると、闇雲に探すには無理があるぜ」


 確かに、どこにどう存在してるかもわからないものを探せと言われてもどうしようもないよな。

 レイの奴、鍵を手に入れろというのならせめてヒントくらい……。


「む! 待ちたまえ、封書の端に小さくだがまだ何か書かれているのを見つけたぞ! これは……『海を越えろ』これだけか?」


「おいおいそれだけかよ……。そんな一言だけ信じてこの先進めってか?」


 レイのやつ、ヒントを残すならもっと分かりやすくしろっての。

 私は信じてもいいが、根拠もなく二人が納得してくれるか……。


「貴様! 大人しく捕まれ!」

「あわわわ! 離しなさいよー! 別にいいじゃない少しくらいー!」


 っとなんだ? 急に扉の向こうが騒がしいぞ?


「衛兵、何事だ!」


「申し訳ありませんサルガス王。ですがこのくせ者が城に忍び込み、先ほどまでの話を盗み聞きしていたようで」


 ただ、そう言って衛兵に捕らえられて引きずられてきたその"くせ者"は……。


「あ、お前! あの時のぶつかってきた女!?」


「えへへ……ま、また会ったね~」


 あの時街中で出会った、兵士に追われていた謎の少女だった。




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