1章 ー01
「いつにこの日が来たね、リリア」
「そうですわね、お父様」
貧乏貴族であるお父様は少しでも領民の為にと、長年、麦の改良に心血を注いできた。
その成果が認められ、王城に呼ばれたのだ。
「それにしてもどうしてお前まで呼ばれたのだろうね?」
お父様は不思議そうに私を見る。
「どうしてでしょう?私が手伝っていたからかしら?」
「それだったら息子のケビンも呼ばれても良いんじゃ…?」
「そうですわね。でもまだケビンは9歳ですし……」
私達は目を合わせて首を傾げる。
「王様がお呼びだ。入るが良い」
立派な鎧を着た人に言われて、私達はおずおずと謁見の間に足を踏み入れた。
玉座に続く赤いカーペットを見ながら前へと進む。
名前を呼ばれるまで顔を上げてはいけない。
不敬罪に問われるらしい。
「良く来た。オスカー・エスコリーネ。そして、その娘、リリアよ」
腹の底から出しているような威厳のある声。
これじゃあ、顔を上げたくても無理だわ。
「この10年前から我が国は毎年酷暑となり、麦の収穫が随分減っていた。しかし、エスコリーネ家の改良した麦は酷暑に強く、飢饉に成らずに済んだ。王として礼を言う」
「勿体なきお言葉…!」
お父様…!
地道にコツコツと、暑さに強く麦焼けしない代わりに、実りの少ない麦を改良した甲斐があったわね!
私も麦の実を数えたり、受粉したりと手伝った甲斐がありますわ。
人は努力が認められると泣きそうになるのね。知らなかった。
私は涙が零れ落ちそうになるのを必死に我慢する。
「ところで、オスカーの長女、リリアは18歳であったな」
え?私?
王様の声が心なしか柔らかくなった気がする。
「はい…」
お父様も不思議そうな声を上げる。
「今回の功績の件の褒美として、我が息子である第三王子との婚約を言い渡そう」
はい?
なんですって?
「アルフレッド、入って来なさい」
「はい、仰せのままに」
入って来たのは煌めくハチミツブロンドに澄んだ青空のような瞳をした兄弟の中で一番格好良いと名高い第三王子だった。




