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舞氷の聖女

「だよな~」


圧勝したレイアは、嬉しそうに俺の手を振っていた。その笑顔につられて、俺も笑顔で手をふり返しながら、俺は呟いていた。


まず、ステータスそのものが相手と違う。

その上、相手は、魔法砲台のように、立ち止まって魔法を打つだけだったし。


この学校にいるほとんどの魔法使いは、基本砲台スタイルだ。自分はほぼ動かない。

他の人が敵を引き付けている間に、魔法を打ち込み、相手を倒すスタイルが一般的だ。


その中で、レイアの戦いかたは学校の教えとは真逆と言ってもいい。

相手に接近しながら、魔法を打ち込み、最後に魔法で殴るとか、今までの魔法使いの常識から行ったら、キチガイである。

原因は、間違いなく俺だけど。


一人で、数百体を相手にする事を常に目標に練習してる俺は、とにかく動きまくる。

昔の森の中での生活の経験から足が止まったら最後なのは身にしみてわかっている。

数体の魔物にタコ殴りにされて、逃げ回りながら、死にかける事が何度あった事か。


あの時は、とっさに必死で覚えていた魔法で地面を掘り、入り口に結界を張って、ただ下から槍で突く動作を半日も続けた。

絶望しかない状況で、あの時はなんとか生き残れたが、あの時の絶望感と、恐怖は今思い出しても、体がすくんでしまう。あんな経験はもうしたくなかった。


その経験も踏まえて、俺はとにかく動きまくる。

魔法を使いながらも、動いていたりする。

そんな俺と訓練というか、練習をしているのだから。

二人も自然と動かないといけなくなる。

常に動きまくる俺に魔法を当てるためには、彼女たちも激しく動き回らないといけなくなり、最初の方は、すぐに息が切れていたのだけど。


二人とも最近は走りながら魔法を使う事にも慣れてしまっていた。

そんな訓練をしていたのだが、一番性格的に合っていたのは、レイアだったらしい。


訓練の結果。とんでもない、魔法近接アタッカーが爆誕していたのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「負けないっ」


一回戦を圧勝したレイアを見て、私の心も燃え上がる。


シュンくんは、普通にカッコいい。本人はそんな事ないと言っているけど。


一つ一つの仕草も。黒い瞳も。黒い髪も。


魔物の攻撃を避ける仕草すら、切り取って保存したくなる。


私はシュンくんのお嫁さんになるんだっ!


ぎゅっと、家すら買えそうな高価な武器を握りしめ、私は闘技場に出て行った。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「魔法トーナメント 一回戦 ライナ 対 バイル 開始っ!」


ライナはじっと、武器を握りしめて動かない。相手は、まさかの3年生だ。

普通なら勝てるはずのない相手。


「1年だからと言って、手加減は無しだ。行けぇ~っ!」

バイル先輩の岩弾が、ライナに向かって飛んで行く。


威力も十分にありそうな、重そうな弾だった。


ライナはその場で魔法を発動させる。その場でゆらゆらと体を動かし始めた。


バイル先輩の岩弾が、魔法強化されたライナのすぐ側を通り過ぎていく。

ライナの横を通り過ぎ、ライナの後ろに着弾する岩弾。

絶対命中とされる魔法を避けられた事実に、唖然とする先輩を見ながらうっすらと笑いすら浮かべるライナ。


「シュンくん以外には、触らせません」


そんなライナの前には、すでに無数と言っていいほどの氷弾が浮かんでいる。

自分が発動させた魔法に、さらに杖の効果で発動させた魔法も上乗せされているらしい。

発動された氷の弾たちは今にも飛び立ちたいと震える。

ライナが、すっと杖を振り下ろすと。


無数の氷の弾は一気に解き放たれ、バイル先輩を吹き飛ばして地面に叩きつけた。


「勝者! ライナっ!」


ライナも結局圧勝だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――


「ははは。二人ともすごいではないか」


額に汗を流しながら、観戦していた校長は呟いていた。


「あれは、もう、Cランク冒険者です!下手をすれば、Bランクでも大丈夫なレベルですよ!」


担任は校長に詰めよっていた。


「なんで、新入生が爆炎魔法なんか使えるんですかっ!氷弾乱射なんて、高ランク冒険者しか使わない魔法ですよっ!」


「しかし、こうなると、3人は冒険者特殊登録を考えましょう。ギルドとしても、こんなに強い生徒を遊ばせている余裕はないですからね」


校長は、飄々とした感じからいきなり、鋭い眼光に変わり呟いていた。



―――――――――――――――――――――――――――


「「見てくれましたかっ?」」


試合が終わった二人は走って戻って来て、俺に笑いかける。


俺は、とりあえず、ライナのほっぺたを引っ張り、レイアにチョップをかます。


「レイアは、走り過ぎだっ!ナイフの間合いまで接近しすぎるなっ!詰めすぎるなって何回も言ってるだろっ。レイアは、魔法使いなんだからっ!もう少し離れても大丈夫だろっ!ライナは何で、あんな危ない避けかたをやったんだっ!ちょっとヒヤッとしただろうがっ!」


「シュンくんが厳しいです。がんばったのに。」


「あれは、相手がつっかえ棒みたいに動かなかったから、殴りやすそうだなぁと。」


二人とも涙目になりながら、反論して来るが、まったく気にしない。


危ない戦闘方法を続けて行ってもらう訳には行かないのだ。


「当たり前だっ!魔法を紙一重で避ける癖がついたら、手足無くなるぞっ!レイアは、接近戦をがっつり出来るようになるまでは、腕二本分より近い接近は禁止とあれだけ言っただろっ!」


二人とも怒鳴る俺の声にシュンと下を向いて、うつむく。


その二人の頭に手をのせて、わしわしと撫でてあげる。


「けど、よくやったな。二人とも先輩に圧勝だ。十分すぎるくらい強くなったよ」


俺の声に二人とも、ぱっ と顔を上げて、喜んでいた。


その二人の顔に思わず、俺も笑顔になる。


この顔が見たいから、練習に付き合ってるんだよな。

俺は、しばらく二人の頭を撫でていた。



撫で効果のせいか、二人とも、あっさりとサクサクと魔法トーナメントをかけ上がって行ってしまった。



―――――――――――――――――――――


「シュンくんは渡しません」

「ライナでも、手加減はしないよ」


ついに来た、準々決勝。

二人が直接対戦する時だった。

対峙している二人に殺気すら見える気がするのは気のせいなのだろうか。


なんか、最初の意図とは違う流れになっている気もするけど、二人の会話が、すごく怪しいけど。


二人が闘技場に入ると、凄まじい歓声が巻き起こる。


「さあ、さあ!まさかの番狂わせ!最強の新入生二人の直接対決だっ! 踊るかのように魔法を避け、目が離せないほど綺麗な氷を操る、[舞氷の聖女!]ライナ! その氷は相手を舞わせ、自身のキラメキも身にまとうっ!今回も闘技場と言う舞台で、死のダンスを舞わせるのかっ!」


「ライナ~!俺のために踊ってくれ~!」


なんか、まわりから、不思議な歓声が聞こえる。


「いやいや、もう一人は、[爆炎の女神]レイアっ! 一瞬で相手に近づき、爆炎の渦に相手を沈めるっ! その爆炎から見える燃え上がる赤い髪は、もはや女神としか言い様のない神々しさを身にまとうっ!爆炎は、相手の心すら燃やしつくし、全てを朱く染めあげるっ!今回は、氷すら燃やしつくすのかっ!」


「レイアお姉さま~!私も燃やして~」


なんか、こっちも不思議なファンがついてる。


「さあ、まさかの魔法トーナメント始まって以来の、特殊トーナメント並みのマッチングっ!今、あなたは歴史の目撃者になれるっ!

準々決勝開始っ!」


二人は闘技場の真ん中で、にらみあっていた。


二人とも、知らないうちに2つ名がついてる事にちょっと頭を抱える俺だった。




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