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最終話 『カメレオンサークル』

「これでよし……っと」


 学園祭前日、山崎と姫路はとある準備を終えた。かなり大きなものを校門の入ってすぐの場所に設置したのだ。明日はいよいよ学園祭当日。山崎は胸の高鳴りを感じていた。


 1週間前、学園カメレオンは皆で会議を開いた。学園祭の出し物をどうするかについての会議だった。松川と躑躅森の案で、生徒参加型のかくれんぼをすることになったのだ。ルールは至ってシンプルだった。隠れている部員を見つけ出し、部室まで連れてくるというものだ。しかしそれではいつも隠れ慣れているメンバーが絶対的に有利になってしまう。それを考慮したのが、山崎が先ほど設置した機械だ。西宮の財力、小島の技術力、円町の提案によってこの機械は作られた。潮凪ショッピングモールにある大きな電子掲示板と同じようなものを作り、SCウォッチとリンクするようになっている。つまり学園全体のマップが表示され、更に隠れている部員の位置が表示されるマップとなるのだ。

 この機械は無くてもいいと最初に神宮が言ったが、円町や西宮のような隠れ方をされたらいつまで経っても見つかりはしないだろう、という山崎の提案によって神宮の意見は通らなかった。



 

 そしていよいよ明日が学園祭当日なのだ。


「いよいよ明日か……」


 山崎と姫路は学園を見渡した。この学園に入学してから5ヶ月目。色々な事があった5ヶ月であった。しみじみと学園生活について振り返ろうとすると、姫路がそれを遮るかのように話をふっかけてきた。


「明日がこの部活の見せどころなんだ。昔の事を考えてる場合じゃないぞ」


「そうだな」


 姫路の言うとおりだった。今日が終わりではなく、今日からが始まりなのだ。思いに耽っている場合ではない。


「じゃあ一旦部室に戻るか」


 姫路は頷き、二人で部室に戻ることにした。


 部室に入ると全員が既に待機していた。学園祭の準備でどのクラスも残って作業をしている。うちの部活は最終調整をするために、部長が全員を招集しておいたのだ。


「じゃあ、最後の確認だ」


 そう言い、山崎はホワイトボードの前へと移動した。少々狭い部室ではあるが、ここに立つと部員全員の顔が見渡せる。若干の緊張を持ちながらも話を続けた。


「まずは午前にこの部室に待機しておく人を決めよう。見つけた生徒にはこのボールペンを1本景品として渡す。景品を渡す係と店番の役割を持ってもらう。午前と午後の二人を決めたいんだが……割り箸にするか」


 そこで取り出したのが例の筒だ。8本の割り箸が入っている筒をロッカーから取り出し、振った。


「じゃあ引くぞ。まずは午前待機の人」


 名前を確認した。山崎と書いてある。


「俺か……」


 部長が店番という事に対して、皆が笑いだした。くじ運がいいのか、それとも笑いの運がいいのか。自分の名前が書かれた割り箸を置き、もう一本引いた。


「午後待機は……西宮だ」


「あら」


 不意に名前を呼ばれたことに驚いたのか、西宮は手で口を抑えた。隠れ側としてはとても優秀な西宮がいなくなったのは、参加側の人間にとっては嬉しいことだ。


「じゃあ店番は決定だな。後確認しておくことは……」


 小島が小さく手を挙げた。


「外に置いてきたあのでかいパネルの動作チェックをしておきたい。俺が作ったんだから問題は無いと思うが、一応だ」


 自信作だったらしい。外に設置した電子掲示板は大体円町の身長より10センチ程高い程度の大きさとなっている。画面はタッチパネルになっており、1階から4階までの学校の見取り図と各教室の出し物の表示などもされる。学校側に許可を求めたら追加で頼まれたことらしい。人が長く触っていない間は学園カメレオンの出し物のルールが表示されるようになっている。大まかに説明するとSCウォッチを持っている人を探せというだけなのだが、小島は几帳面な性格なので、きっちりと説明文が用意されていた。


「他の確認事項もなさそうだから、確認が終わったらその場で解散にしようか」


「さんせー!」


 松川が手を大きく振り上げた。外に出て小島がパソコンを持ちながら電子掲示板の起動の最終チェックを行った。異常は無く、明日も完璧に動いてくれると確信したところで、今日の部活は解散となった。


 次の日、つまりは学園祭当日。9時から学園祭の出し物を開始し、3時に終了という時間の決まった学園祭が始まる1時間前。山崎は部室で窓から中庭を見ながら待機していた。この日が待ち遠しかった。学園カメレオンの活動が、全生徒に知れ渡る。想像もしていなかった事が、今日始まると思うと胸が躍ってしまうのだった。同じ理由を持っているのか、5分もしないうちに松川が部室に顔を出した。


「おはよう松川」


「おはよう、山崎君」


 松川は少し緊張していた様子だった。全然知らない人に見つけられるのは、そりゃ緊張もする。ちょっとした沈黙が部室の中に漂う。


「学園祭、もうすぐ始まるな」


「そうだね……緊張してきちゃったよ」


「みんなが楽しむための部活なんだから、緊張なんてしなくてもいいんだよ」


「そ、そうだよね! うん、少しだけ緊張ほぐれてきたかも」


 ほっと一息ついたところで、部室のドアが開いた。神宮が入ってきたのだ。


「おはよう未佳!」


「ああ、おはよう」


 松川が挨拶をしたが、いつもの神宮だった。学園祭という行事に対して、別に期待もしていなければ、面倒に思ってる訳でもない。普段通りの神宮の様子が見られた。


「神宮は緊張とかしてないのか?」


「してるさ。万が一怪我をさせてしまったらどうしようとか、それなりに悩んでいたんだ」


 一体何をするつもりでいるのだろうか。心配でたまらない気持ちになった。神宮は事前にどこかの空き教室に細工をしていたらしい。手には既に教室の鍵を持っていた。


「気合十分だな」


「まあ、1年に一度の行事だしな」


 意外と真面目な返答がきたことに少しだけ驚く。学級委員でもあるためか、やはり根はしっかりとしているんだなと改めて思った。


 全員が部室に集合したのは、学園祭開始の10分前だった。いつもは西宮がぎりぎりで部室に入ってくるのだが、今日はやはりまともな時間に来たようだ。全員がそろったところで山崎は声を上げた。


「今日は学園祭、みんな隠れる場所は決めてあるよな? 9時までには隠れないといけない。今から隠れる場所に移動してくれ」


 そう言った時、何かを思い出したかのように小島が山崎に伝えた。


「見つかった生徒とパネルまでの通信アプリを山崎と西宮の携帯に入れておく。ちょっと携帯を出してくれ」


 二人は携帯を取り出し、小島の携帯と通信をした。『学園祭用』という名前のアプリを受け取り、続けて小島が説明を始めた。


「アプリを開いてから、帰ってきた部員と携帯で通信する。それだけでパネル側には通信したSCウォッチが見つかった状態になるようにしておいた」


「流石小島だな。技術力は学校一だな」


 単純に小島を褒めた。しかし小島は素直にお礼を言われた事が恥ずかしかったのか、お茶を濁すように話の向きを他の人物へ逸らした。


「礼を言うなら西宮だ。あんな大金はすぐに用意出来ないからな」


「お金の事は気にしなくていいんですよ」


 西宮は笑顔で答えた。しかし山崎は知っていた。この企画のために札束が一つ飛んでいくレベルのお金を消費していることを……


「解散前に一つ」


 山崎が手を挙げて提案した。みんなの注目が山崎に集まった。


「円陣を組んでみないか? みんなの気持ちを一つにしたいんだ」


 その言葉を瞬時に理解した躑躅森が、真っ先に山崎の右肩に腕を乗せてきた。


「よーし皆集まれ!」


 躑躅森が声を上げて招集する。円陣なんて、急に思いついた事だったので多少は変な空気になると予想していた山崎だったがその予想は打ち破られた。皆自然に肩を並べて輪を作った。


 山崎、躑躅森、姫路、小島、西宮、神宮、円町、松川。全員が肩を並べ姫路が山崎に声をかける。


「部長、気の利いた言葉じゃなかったらジュース奢れよな?」


 姫路のちょっかいを覆すような、素晴らしい言葉。そんなものは考えていなかったが、ただ部長として言いたい事を伝えたかった。


「5月に入ってからこの部活を作った。今でこそこうやって皆で円陣を組めるほど仲良くなったものだ。それもこれも、全部皆のおかげだ。だから言いたい事を一つだけ。今までありがとう。そして……これからもよろしくな!」


 言い終わり、深呼吸をする。


「学園祭、楽しんでいくぞおおお!」


「「おおおおお!!!」」


 狭い部室の中に広がった皆の声は、忘れられないかけがえのない思い出の1ページとなった。

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