第23話 『全員集合』
渡辺は、何か考え事をしていたようだった。深く考えているようだったが、何を考えているのかは見当がつかない。山崎はそれについて訊こうとした。しかし、何事も無かったかのように渡辺は山崎の方を見なおした。
「卵焼きありがとう。明日から弁当持ってくる」
渡辺から感謝の言葉を貰った。感謝の言葉は、嬉しいものだ。卵焼き一つで感謝されるなら、いくらでも弁当を分けてあげよう。そう、変なことを考えていた山崎に、渡辺は言った。
「弁当、食べないの?」
山崎は、そう言われて気付いた。自分の弁当なのに、まだ一口も食べていない。しかも、その弁当をあろうことか人に全てあげてしまおう、などと考えていたのだ。いかんいかんと山崎は思い直した。やはり食欲には勝てない。いくら感謝されても、お腹が空くのは嫌だ。そして、弁当を食べた。
そして、時間が流れる。明日は土曜日。つまり、第4回目の部活動が始まろうとしていたのだ。今度はフルメンバー8人で、かくれんぼをすることになる。山崎は頭の中で、どうしたら面白くなるか少しだけ構想していた。考えているうちに朝を迎える。そして、土曜日に学校へ向かう。
学校の前に立ち、学校全体を眺めた。高校に入って早2ヶ月。中学とは一変した学園生活を、山崎は存分に楽しんでいた。胸の高鳴りを感じながら、校舎へと踏み入る。
部室に入ると、一人だけ部員がいた。
「おはよー!」
松川が、本を読みながら座っていた。
「おはよう松川。気になってること訊いてもいいか?」
「ん? 何かな?」
「その本、前も読んでなかったか?」
山崎が気になっていたのは、松川が読んでいる本だった。初めての部活の時だったか、確かにその本を読んでいたような気がした。
「そうだね。前も読んでたよ」
「まだ読み終えてないのか?」
「いや、もう何回も読んでるよ。この小説、面白いんだよね」
松川が持っている小説の表紙は、剣を持った勇者が何やら怖そうな魔王に、剣を向けているような絵だった。この小説に対して、山崎が突っ込んで訊いた。
「その小説、そんなに面白いのか?」
「面白いんだよ~。勇者タイトが、魔王ササキさんを倒す話なんだけどね……」
急に語りだした松川の目は輝いていた。しかし、山崎は妙な点に気が付く。
「サ、ササキ? 変な名前の魔王だな……何というか、一般庶民みたいな」
「そういう、ヘンテコなところがまた面白いんだよね~」
松川は、小説を閉じ、山崎の方に差し出してきた。
「読んでみる?」
山崎は、即座に答えた。
「遠慮します」
松川は笑いだす。山崎も釣られて笑いだした。すると、姫路が部室に入ってきた。入ってくるなり、二人が笑っている所に突っ込む。
「二人して、何笑ってんだ?」
「いや、ちょっとな」
別に説明する必要も無いので、山崎は適当に話を逸らした。姫路も、他愛もない話だったんだな、と理解していたようだった。そして、次々と部員が集まってくる。最後に到着したのは、いつも通り時間ギリギリに入ってくる西宮だった。
8人も部室に集まったのは、これが初めてだった。椅子は6つしかなかったので山崎と姫路は立っていた。そして、山崎はホワイトボードの前に移動して話を始める。
「前回と同じく、校舎全体を隠れ場所とする。そして、今回は鬼を二人にしようと思う。時間制限も、半分にするとしよう」
小島には、前もって連絡してあった。SCウォッチのかくれんぼ機能に、鬼の人数を増やす機能を追加してくれ、とメールをした。しかし、返信されたメールには、元から備わっている機能だと書いてあった。やはり小島はすごい奴だ、とその時思った。そして、今回。初めてその機能を使おうとしていたのだった。
「じゃあ、二人鬼を決めようか」
そう言い、ロッカーの中にあるおみくじマシーンを取りだした。そして、割り箸を一本、円町に渡した。
「これに名前を書いて、この中に入れる。おみくじにして鬼を決めるんだ」
「わかりました! じゃあ早速名前を書きますね」
名前を書き終え、おみくじマシーンの中へ入れた。山崎が混ぜる。
ジャラジャラジャラ……
そして、山崎が2本、おみくじを引いた。
「えーっと……今回は、姫路とつつじだな。鬼よろしく!」
躑躅森が、姫路に対して拳を向けていた。姫路はそれに拳をぶつける。熱い友情を確認していたようだった。
山崎が、設定について追加で話をする。
「今回は鬼が2人いるということで、制限時間は40分にしよう」
姫路と躑躅森が40分に揃え、設定する。山崎はSCウォッチの操作を円町に教えつつ、みんなの設定完了を確認した。
●隠れ終わったら、完了ボタンを押してください。
○かくれびとが隠れ終わるまで、しばらくお待ちください…… 0人
円町は感心していた。SCウォッチの機能そのものに感動しており、好評の様子だった。ここで、躑躅森が声を上げた。
「じゃあみんな、隠れに行ってくれよな! 早く探したくてうずうずしてるんだ。な、姫路!」
姫路に同意を求めていた。そして姫路も同じ意見を主張する。
「おうよ! 早く隠れるんだみなのものー!」
二人の熱意に、みんな笑っていた。そして、全員が部室を後にした。
姫路と躑躅森が部室で二人っきりになった。そして、躑躅森が作戦を伝えた。
「姫路、お前は1階から調査してくれ」
「じゃあ、つつじは4階からか?」
「ああ。下も上も、順に探していけば、すぐに全員見つかるだろうな」
「そうだな。今回初めて探す側になったけど、一番手強いのは円町かもな」
姫路は、体育祭の時の円町を思い出していた。全速力で走ると、躑躅森とほぼ同タイム。そして、テストでは1位を取っていた。頭の良さと運動神経のよさを駆使した、物凄い隠れ方でもするんじゃないだろうか。そう姫路は予想していたからだ。
しかし、西宮も何をするかわからない。話によると、今ままで床下にスペースを作って隠れていたという。今回、もしまた本気を出していたら、見つける自信が無いからだ。躑躅森が不安に思ってる姫路を見て、こう言った。
「大丈夫だ。鬼は一人じゃないんだぜ」
その言葉は、妙に頼りがいのある言葉だった。姫路はその言葉を聴いた後、躑躅森に握手を求めた。
「よっしゃ! 頑張ろうぜ!」
「おうよ!」
ガシッと手を掴んだ。しかし、躑躅森の大きな手は、姫路を襲った。
「痛い!! 握力強すぎ!!」
「え? そんなに強く握ってないぞ俺」
手が軽く赤くなる程、強く握られた。姫路が、左手で右手をほぐすように揉みながら訊いた。
「つつじ、握力いくつ?」
「90……いくつだったかな?」
姫路はとある噂を知っていた。握力が80もあると、リンゴが潰せるとか何とか。恐ろしい数字を聴いてしまった姫路は、口を開けた。
「ごめんよ、つい気合が入って強く握ってしまった」
「つい、じゃねえよ!」
冗談混じりの会話で、二人は少々盛り上がっていた。すると、SCウォッチからアラーム音が鳴る。
○全員が隠れ終わりました。開始ボタンを押してください。
「よし、いくぞつつじ!!」
姫路が開始ボタンを押し、タイマーが進み始める。
○00:39:59
開始と同時に、二人は部室を飛び出していった。




