崩れた日常
ママ友が来なくなって数ヶ月、母さんの顔は段々とやつれていた。
俺が「母さん」と呼んでも応えてはくれるけどいつも俺の顔を見てくれない。
数日後俺はいつものように洗面台で顔を洗う。
鏡を見ると後ろに母さんが立っているのが見えた。
その瞬間、母さんの持っていたお皿が手から落ちる。
パリーン!と甲高い音が響き渡り、母さんはボーッと俺を見つめていた。
「母さん…?」
振り返り、俺は母さんの顔を見る──。
「私ね…ずっと我慢してたの」
糸が切れたような声だった。
「アナタの顔を見るたびに思い出すの……私を犯した、あのクソ鬼を」と母さんは続けて語る
「何を言ってるのさ…?ねぇ、母さん…?」
母さんは壊れたように笑っている
「ねぇ…死んでよ 私と一緒に」
母さんが俺に手のひらを向ける。
──次の瞬間足元が爆ぜる
「うわぁぁっ!」
「クソ…何だ…これは…!」
吹き飛ばされながらも、何とか身を起こす。
普通なら即死級のはずだ。
「ほらね…やっぱり死なない!やっぱりあのクソ鬼の血を完全に引いてるのよ!」
「死になさい死になさい死になさい!私と共に!今!ここで!」
母さんが叫び、が両手を広げる。
──キィィィンと甲高い音が鳴る
(これはまさかっ…!?自爆?!)
「やめて!母さん!」
直後、母さんは目の前で弾け飛んだ。
顔に、生暖かい液体が容赦なく降りかかる。
「ぁ…あ…」
口の中に鉄の味が広がる──
視界が赤く染まったまま、俺はどうやって家を出たのかも覚えていない。
服についた生暖かい感触と、鼻をつく鉄の匂い。
それらを振り払う気力すら湧かず、俺はただ吸い寄せられるように足を前へ動かしていた。
(どうして……俺のせいなのか……?)
頭の中で、母さんの最後の狂気がグルグルと渦巻いている。
どれくらい歩いただろうか。
ぼやける視界の先で、誰かが俺に駆け寄ってくるのが見えた。
「君…大丈夫かい?」
見知らぬ大人の声が、遠くの方で聞こえた気がした。
意識が急速に遠のき、俺はその場に崩れ落ちた──。




