拾玖
日が暮れる前には屋敷についた。朧と千鶴で牛車の中で応急処置をしてくれて、御所には早馬で呼び集めた、薬師や祈祷師達がいたので、すぐ治療に移れた。澪菜は何も出来る事がなく、部屋で子猫の無事を祈っていた。
カラリと御簾をあげる音に振り返ると、部屋に千鶴が澪菜の様子を見に来た。
「まだ起きてらしたんですね。子猫、峠は越えたので安心して下さい。今日はお疲れでしょうから早くお休み下さい。」
「そう、よかった。」
澪菜はホッと息をつく。安堵して全身力が抜け脇息にもたれ掛かった。
澪菜の様子を見て、千鶴が神妙な顔に変った。
「どうしたの?」
千鶴の顔を覗き込むと、黙ってしまった。
「あ!もしかして私何かまずい事しちゃった……?」
「いえ!!違います」
千鶴があわてて訂正した。千鶴の様子がおかしいのはわかるのだが、何が言いたいのか全く検討が付かなかった。また拒絶されたのかとも思ったが、朝と少し違う様にも見えるのでどうなのだろうか。
不思議そうな顔をしていると、千鶴はポツリポツリと語り始めた。
「澪菜様、私自分が愚かでした。こんなに御心美しいお方なのに見目にばかり囚われて。悍ましいのは一つの秤でしか物事が見れない私共ですね。」
千鶴は涙ぐみ両手と頭を床につけ謝った。
「浅はかな私を許してくださいとは言いません。今朝は申し訳ございませんでした。」
「そんな頭あげて!!」
「あの時、可哀相と思っても誰ひとり助けようとするものはいませんでした。澪菜様、貴方だけです。」
千鶴は息を飲むと、意を決して叫ぶ。「御処罰お願いします。」と。
―――処罰――!!?
「千鶴ちゃん!!処罰何てしないよ!!」
「いけません。それでは!女御としての尊厳が損なわれてしまいます。」
「朧も無しで納得してくれたよ?」
「例外はなりません」
立場を考えなくてはいけない。立場があるから処罰をしなくてはいけない理由が、澪菜には理解出来なかった。
処罰は無しなんだからそれでいいのではないのか?
しかし、これが澪菜の国と平安の国の価値観の違いなのかと思うと、困り果ててしまった。
処罰を与えなければこの話は終わらない。千鶴の覚悟は固く、「わかりました。」と澪菜は心を決めた。
千鶴はじっと床を見詰め待ち構えた。
「千鶴ちゃん、私と友達になって下さい。」
静寂は一瞬で「ひょえ!?」と千鶴のまのぬけた声で掻き消された。あまりにも想定外すぎることを言われた為頭が理解出来ず声がでてしまった。
女房としてあるまじき失態再び。慌てて口を抑えた。
「申し訳ございません!間抜けな声失礼しました。」
「友達になって下さい!やっぱり、、、だめ?」
ここでやめたらもう一回言うのは無理すぎる。人見知りジワジワきてきるが友達が出来るチャンス。頑張れ自分。
澪菜が捨てられた子犬の様な目で千鶴を見た。
「御処罰の話しをしているのに何故にそれですか?」
「それが処罰じゃだめかな?だめだよね、、、あははは」
「命令とか処罰とかで友達って作る物じゃないのはわかってるんだけど私、友達出来た事ないからどうやって友達になるかわかんないんだ。」
「澪菜様……」
「千鶴ちゃんに会えた時、始めて友達が出来た見たいで凄く嬉しかった。だから千鶴ちゃんとは友達になりたくて。」
千鶴は少し困った表情を浮かべていが、千鶴はゆったりと笑顔になっていった。
「その様なお言葉を頂けて光栄です。」
「本当に!!」
澪菜は千鶴の手を握ると、大喜びをした。
「ありがとう!澪菜の友達第一号だよ!!本当嬉しい」
そのはしゃぎ様が千鶴にはほほえましく思えた。
これが、澪菜が平安の国に来て1番最初に嬉しい出来事だった。