ふたりぼっち
読んで戴けたら、倖せです。
兼城はアシュラに言った。
「総史、急いでここを出た方がいい
みんな正気を失ってる
何を言っても聞こうとしないんだ」
「アシュラ........」
逢魏都はアシュラを心配そうに振り返る。
アシュラは椅子から降りた。
「解った......」
「山へ身を隠した方がいい
山奥に、今は使われていないコテージがあるから、そこにでも......」
「そこなら解るよ
ボクのねぐらだから」
アシュラは茫然と突っ立った逢魏都の前に座って逢魏都を見上げた。
「逢魏都、今まで有り難う」
逢魏都は突っ立ったままアシュラを見下ろした。
「嫌だよ.......
どうして?
アシュラは何もしてないのに......」
兼城が言った。
「逢魏都ちゃん、仕方無いんだ
みんな騒ぎで正気を失ってる
きっと総史をどうにかしなきゃ治まらない」
「やだ! 」
逢魏都は跪きアシュラに抱き付いた。
「どうして?
アシュラは自分を省みないでクマを止めたのに
どうして、みんなそうなの?
どうして、真実を見てはくれないの? 」
「逢魏都.......」
「逢魏都ちゃん........」
逢魏都はアシュラを抱き締めたまま、目を閉じ、暫くそうしていた。
兼城が見かねて言った。
「逢魏都ちゃん、早く総史を山へ逃がさないと、村の人たちが来てしまう」
逢魏都は抱き締めている腕に力を籠めた。
「こんな風に、いつも人はワタシのささやかな願いを奪うの
いつもこんな風に.........」
逢魏都の目から涙が伝った。
「逢魏都.......」
アシュラは逢魏都の髪に頬を擦り寄せた。
『ずっと変わらない
母さんが死んでからずっと
やっぱり人は怖い..........』
逢魏都は決心したように目を開いた。
「もう、こんな処に居たく無い!
アシュラ、ワタシを噛んで!
ワタシもアシュラと一緒に行く! 」
アシュラは驚きに目を見開いた。
「逢魏都........」
「ワタシ、本気だからね
アシュラとずっと一緒に居る」
「逢魏都ちゃん..........」
逢魏都は兼城を振り返って言った。
「兼城さん、舎利拂たちをお願いできますか? 」
逢魏都の真剣な眼差しに兼城は黙ったまま、逢魏都を見詰め返した。
「本気なの、逢魏都?
ボクと一緒に行ったって不便な生活が待っているだけなんだよ
それに、逢魏都に噛み付くなんて、ボクにはできないよ」
逢魏都はアシュラの首に顔をうずめた。
「アシュラの傍に居たい
ずっと........
ずっと........
離れたくないよ........」
兼城は外を窺って言った。
「僕はできるだけ村の人たちの足止めをする
その間に、何とか遠くまで逃げてくれ」
兼城は駆けて行った。
「逢魏都、きっと後悔するよ」
「後悔したら、した時
でも、きっと後悔しない
今、解った
ワタシ、アシュラの事が好きなんだって」
「え........
えええええーーーーーっ!? 」
アシュラは狼狽えた。
「だって、さっき弟って言ったじゃん! 」
「だから、今解ったって言ったよ! 」
「だからって、こんな土壇場で.......」
「アシュラは........?
アシュラはワタシの事、どう思ってるの?
ワタシと一緒に居たく無い? 」
逢魏都は恐る恐る、上目遣いで見詰め、アシュラの言葉を待った。
「そ、そんな事ある訳ないじゃん!
ボクだって、逢魏都と離れたくないよ! 」
逢魏都は噛み締めるように目を閉じて言った。
「じゃあ、ワタシを狼にして連れて行って
もう、裏切られるのはいや
ずっと、アシュラの家族で居られる様に.......
アシュラだけはワタシを裏切らないで」
「逢魏都.......」
アシュラは銀色の目を細めて、玄関の外を見た。
四角い視界に夕暮れが草木を熟れた朱色に染めている。
「逢魏都......
今夜は満月かな.........? 」
『頼むから総史、上手く逃げてくれ』
騒ぎ立てながら村人たちは制しようとする兼城を押して行く。
逢魏都の家の開いた玄関まで来ると、村人たちの勢いは溢れ、兼城は制し切れず村人たちは玄関に流れ込んだ。
そこに、逢魏都の姿もアシュラの姿も無かった。
兼城は山を振り返り見上げた。
茜色に染まった木々の間を、銀色の二つの影が遠ざかって行ったように見えた。
古ぼけたコテージが、伸び放題の樹木の枝に覆われ、ひっそりと佇んでいた。
小さなベランダの傍に二つの銀色の影が、寄り添って横たわっている。
雲が流れて月明かりが枝の隙間を縫って二つの影に降り注いだ。
二つの影は二体の人影になった。
目を覚ましたアシュラは起き上がり大きく伸びをした。
見上げると枝の陰から満月が神秘的な青白い光を放ち、こちらを見下ろしていた。
「逢魏都、起きて
月がとっても綺麗だよ」
逢魏都はゆっくり目を開き、アシュラを見上げた。
月明かりに銀髪を青白く輝かせて、アシュラが微笑んでいる。
「アシュラ.......」
逢魏都が起き上がるとアシュラは暫く逢魏都を見詰めた。
逢魏都の髪と瞳は、アシュラと同じ銀色で、月明かりを反射させて輝いていた。
「逢魏都の裸、凄く綺麗だ.......」
「.....!?
この、セクハラ狼! 」
逢魏都は問答無用でアシュラの顔面にパンチした。
アシュラはキレイな弧を描いて後ろにひっくり返った。
起き上がって振り返ったアシュラは鼻血が垂れていた。
「酷いよお、素直な感想を述べただけなのにぃ.......」
逢魏都は腹を抱えて、いつまでも笑った。
アシュラも笑い出した。
「アシュラ、大好き」
枝から零れる月明かりに照らされ、逢魏都はアシュラに抱き付くと、そっとアシュラの頬にキスをした。
アシュラの心境。
「飴と鞭だ..........」
fin
最後までお付き合い有り難うございます。
楽しんで戴けたでしょうか。
今回の連載は小説仲間様の連載もあって、感想の書きっこできて楽しかったです。
連載を始めると必ず最初から、読んで感想を下さる水渕成分様、今回もお忙しい中、
読んで下さり毎回感想有り難うございました。
御自身の連載や、他の沢山の方の作品を抱えながら本当にご苦労様てした。
いつも、感謝しています。
恣迷様、御自身の連載が大反響で大変な中、最初から読んで下さり暖かい感想有り難うございました。
思いやりの籠ったレビューを早々と戴き、凄く元気付けられました。
有り難うございました。
そして、ご苦労様でした。
コロナ、未だに治まる気配もありませんが、皆様お身体大切にまたお逢いできたら倖せです。




