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ライバル  作者: 宮澤花
20/57

4 別の世界 -4-


 俺は疲れ切って客間に戻り、ベッドに横になる。胃はまだ気持ち悪い。そういえば、ツボタに蹴られたところが大アザになっているんだった。

 今日は、いろいろなことがあり過ぎた。俺の頭では処理できない、いろんなことを聞き過ぎた。

 だから寝ちまって、いったんリセットして、また明日考えよう。そう思うのに。


 眠れねえ。

 

 小さい時にさらわれて、銃を持たされ、兵士にされて。それってどんな暮らしなんだって、考えまいとしてるのに考えてしまってる。

 想像したって現実に追いつくわけないのに。そんな苦しみなんて俺には分からない。どんなに想像したって理解できるわけがない。


 『別の世界』だと、先生は言った。

 そう、そんなの別の世界。俺に分かる道理もない。

 

 隣りの部屋で人の気配がした。

 シャワーでも使っているのか、水の音がする。この部屋、こんなに隣りの音が聞こえるんだ。今まで、この家に泊めてもらった時は、いつも他に客なんかいなかったってことに気付いた。


 ざばざばと水が流れる音がする。すぐ壁の向こうにいる。

 ふと、一緒にカレーを食ったことを思い出した。

 食う前はいろいろ文句をつけてたけど。食い始めたら結構おとなしく食ってた。

 食いながら話をした。何てことのない話だったけど。学校でクラスのヤツらと話をするのとそんなに変わらなかった。


 俺は暗闇の中、身を起こす。


 別の世界なんて、嘘だ。

 だって、アイツはすぐそこにいる。

 話だって出来る。

 別の世界の人間じゃない。この世界の人間だ。


 だから、俺は。このまま目を背けるのは違うって思った。

 俺の道は下天一統流につながっていないのかもしれないけど。諦めるためにも、目を背けちゃいけないって思った。

 俺は逃げない。それがたった一つ、あの日の先生の背中につながる道な気がしたから。

 


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