4 別の世界 -4-
俺は疲れ切って客間に戻り、ベッドに横になる。胃はまだ気持ち悪い。そういえば、ツボタに蹴られたところが大アザになっているんだった。
今日は、いろいろなことがあり過ぎた。俺の頭では処理できない、いろんなことを聞き過ぎた。
だから寝ちまって、いったんリセットして、また明日考えよう。そう思うのに。
眠れねえ。
小さい時にさらわれて、銃を持たされ、兵士にされて。それってどんな暮らしなんだって、考えまいとしてるのに考えてしまってる。
想像したって現実に追いつくわけないのに。そんな苦しみなんて俺には分からない。どんなに想像したって理解できるわけがない。
『別の世界』だと、先生は言った。
そう、そんなの別の世界。俺に分かる道理もない。
隣りの部屋で人の気配がした。
シャワーでも使っているのか、水の音がする。この部屋、こんなに隣りの音が聞こえるんだ。今まで、この家に泊めてもらった時は、いつも他に客なんかいなかったってことに気付いた。
ざばざばと水が流れる音がする。すぐ壁の向こうにいる。
ふと、一緒にカレーを食ったことを思い出した。
食う前はいろいろ文句をつけてたけど。食い始めたら結構おとなしく食ってた。
食いながら話をした。何てことのない話だったけど。学校でクラスのヤツらと話をするのとそんなに変わらなかった。
俺は暗闇の中、身を起こす。
別の世界なんて、嘘だ。
だって、アイツはすぐそこにいる。
話だって出来る。
別の世界の人間じゃない。この世界の人間だ。
だから、俺は。このまま目を背けるのは違うって思った。
俺の道は下天一統流につながっていないのかもしれないけど。諦めるためにも、目を背けちゃいけないって思った。
俺は逃げない。それがたった一つ、あの日の先生の背中につながる道な気がしたから。




