3 ヤツとの差 -3-
「だいたいさ、こんなもの食べるわけないだろ」
ヤツはバカにしたようにカレー皿を見下ろした。
「監禁されてる先で出されたものをパクパク食べるほどバカじゃないよ。アンタが僕をどう思ってるのか知らないけど」
どう思ってるって。どう思ってると思ってるんだろう?
「こんなものって。俺の作ったカレーじゃ不満か?」
「アンタが作ったんだ」
ヤツはバカにしたような目を俺に向ける。
「アンタ、あのおばあちゃんの何なの? パシリ?」
何なんだろう。
数時間前までは弟子志望だったのだが、今は何だか分からなくなってしまった。
「それを食わんのはお前の勝手だが」
俺は、そんな思いから目を背けるように言う。
「昨日は何を食べたんだ? ちゃんとした食事をしたのか?」
ヤツの茶色っぽい目が丸くなる。それからヤツは目をそらした。
「カップめん……」
まあ、そんなところだろう。先生のやることだからな。
「朝は」
「トーストとコーヒー」
「昼は?」
「カップうどん」
「やっぱりな」
俺はうなずいた。
「そろそろ、マトモなものが食べたくなる頃だろうが」
「そんなこと言って食べさせようとしたってムダだよ」
ヤツはぷん、とそっぽを向いた。
「何が入ってるか分からないそんなモノ、口を付けられるもんか」
「何が入ってるか分からないって、失礼なヤツだな」
俺は呆れた。
「人参とジャガイモと玉ねぎと鶏肉に、カレー粉しか入ってないぞ」
「何で鶏肉だよ。そこは牛肉にしろよ」
「カレーに入れて一番うまいのは鶏肉だろうが」
む、なんか争点がズレたような?
「お前、やっぱり食べたいんじゃないのか?」
返事が返ってこない。
「よし、ちょっと待ってろ」
俺は立ち上がった。
そのまま、キッチンに戻る。置きっぱなしになっていた自分の分の食事を持って、引き返す。
「康介。それをどうするんだ」
リビングを通る時、先生に聞かれたが。
「今日は向こうで食います」
とだけ言って、そのまま通り過ぎた。
客間に戻って。
「おい、それ。食わないならよこせ」
もう一度、小窓を開けて声をかける。
「でも」
「いいからよこせ」
強く言うと、ヤツは渋々という感じでカレー皿を返してよこした。絶対食いたいんだな、ホントは。
俺はそれを受け取って、代わりに持ってきた自分用のカレー皿を渡す。
「ちょっと。何コレ」
「俺の皿だが。そっちを食え」
俺は、そう言って受け取った方のカレーをスプーンですくい、口に入れた。
「映画かなんかみたいに、俺が毒でも入れたと思ってるんだろ。なら、これなら食べられるはずだよな」
「な」
ヤツは目を丸くする。こう言っちゃなんだが、顔のキレイなヤツがマヌケな顔をするとマヌケが際立つな。
「何だよ、それ。そんなの両方に毒を入れて、あんたが解毒剤飲んでたら意味がないし」
「そんな面倒くさいことするか」
「だって、じゃあ。あんたがいない間に、僕がその皿に何かしたかも、って思わないのかよ」
「何かしたのか」
と聞き返すと。
「してないけど……」
と、口ごもる。
「なら、いいだろう。ほら、食わないなら両方俺が食べちまうぞ」
そう言うとヤツは黙り込んで。
しばらくして恐る恐るという感じでさらに手を伸ばし、食い始めた。
ほら、やっぱり食いたいんじゃないか。だったら、四の五の言わずに食えばいいんだ。




