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ライバル  作者: 宮澤花
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3 ヤツとの差 -1-

 一時間ほど後。俺がリビングに入っていくと、先生はソファーに横になってポテチを食べながら某八十年代アイドルのデビュー当時の画像を見ていた。元々VHSのビデオテープに録画されていたものをDVDに焼いてやったのは俺である。

「康介。何だ、その荷物は」

 ナップザックを背負った俺を見て、先生は怪訝そうに言う。

「寮に戻って荷物を取ってきました。しばらくここで寝起きしますから」

 俺は不愛想に言う。先生に対してどんな態度を取っていいのか、まだ自分でもよくわからない。


「何だソレは。私は聞いてないぞ」

「そうですね。言ってません」

 俺は冷たく言った。

「でも、アイツもいるんだから別にいいでしょう。俺の手があった方がいいこともあるかもしれないし、とにかくアイツがここにいる間は俺もここにいます。二番目の客間を借ります」

 それだけ言って、俺はリビングを出た。


 とにかく、この洋館にはやたらに部屋がある。普段先生が使っている、5LDKほどの普通の家っぽい空間(これだけでもかなり広いが)とは別の棟に、俺たちが『客間』と呼んでいる部屋がある。

 こちら側にある部屋は、まるでホテルだ。バストイレ付の、ワンルームの部屋が一階二階合わせて十部屋ほどズラリと並んでいる。まあ、普段は使わない。

 一番手前の一部屋が俺たちの言う『客間』で、普段の来客の際に使ったり、先生の親族が訪ねてきたりした時に泊めるのに使う。で、今、先生がヤツを監禁してるのがここ。

 その隣りの部屋が『二番目の客間』である。

 ここもめったに使わない。が、泊める客が多かったりした時には使うので、他の空き部屋よりは掃除されている。


 とはいえ控えめに言って先生はそれほど掃除好きな方ではないから、この部屋を使いたかったらまず掃除から始めなくてはならない。

 勝手知ったる他人の家で、俺は部屋中に飾られた人形にはたきをかけ、ベッドの寝具のホコリを払い、窓やテーブルにぞうきん掛けした後、部屋全体に掃除機をかけた。これでようやくくつろげる。


 ベッドに横になると、ここでも天井に貼られたポスターと目が合う。

 正直、部屋にある人形とポスターを再起不能にしたアイツの気持ちは分からないでもない。これだけの数の目にさらされていると、たとえ命のないものでも相当居心地が悪い。

 俺は常識があるから、アイツみたいな真似はしないけど。


 思い出したら、アイツのことが気になった。

 部屋を出る間際、先生はアイツの拘束にナイフで切れ目を入れたけど。あんなことで逃れられるものなのか。縛られたまま苦しんでいたらちょっとマズいのではないだろうか。

 いや、監禁してる時点でマズいんだが、やはり拘束と監禁が重なっているという事態はよりマズい。そんな気がする。


 俺は様子を見に行くことにした。廊下に出て、客間の前に立つ。先生がかけた錠は、普通の玄関などにあるものより頑丈そうで、おまけに鍵がないと開けられないタイプだ。俺一人でドアを開けて、中の様子を見ることなど出来そうもない。

 それにこの『監禁用の扉』ってヤツ、金属製でやたらに頑丈そうだ。こういうものが常備してあり、必要に応じて出てくる一般家庭って、どうかと思う。

 武装組織のアジトかと聞かれて『違う』と確信を持って答えられる、そんな生活を先生には送ってもらいたい。


 ため息をついたところで、扉の下の方に小さな蓋があるのに気が付いた。掛け金を外してみると開く。猫ドアみたいなものかと思ったが、もう少し大きい。俺はそこから中をのぞいてみた。

 記憶では、部屋の真ん中辺に椅子に縛りつけられたアイツを置き去りにしたはずだが。そこにはもうヤツの姿はなかった。いや、正確に言うと椅子だけはあった。背もたれの部分が壊された無残な姿になっていたが。


 アイツは物を壊さずにはいられんのか、と思ったが、監禁されたら椅子のひとつも壊したくなるかもしれないと思い直した。床には、ほどけたロープもちらばっている。どうやら拘束からは自力脱出してくれたらしい。

「おーい。生きてるか」

 声をかけてみたが返事はなかった。代わりに、いびきのような音が聞こえた。寝ているのか。

 この状況で眠れるというのもなかなかの度胸な気がするが、他にやることがあるのかと言われれば、ないかもしれない。


 とりあえず、心配するまでもなさそうだと見て取って、俺は隣りの部屋に戻った。


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