21話 エピローグ
◇ ◆ ◇
装甲バスの屋根に座り、シャンシャンと手元で鈴を弄びつつ周りを見渡す。
銀色に変じていた髪も金色に輝いていたらしい瞳も今は元通りのツヤツヤ紺髪紫瞳で、私の長い髪を弄って背中側で遊んでいるのはマッキーとメイちゃんのふたり。先の戦闘での負傷はすべて完治済み。キノコ君達が乗って来た魔導装甲車に常備されてるという等級お高い回復薬の大盤振る舞いで周りに死者は無しである。
何にしても暴動も魔物騒ぎも治まって、深夜に突入してる現時刻でも警察車両やら救急車両やら整備車両やらが行ったり来たりと大忙し。
スクラップになった車は探索者連中が脇へと投げ飛ばしたり、それで爆発したりで怒られていたり、死体にしか見えない肉体に回復弾を撃ち出す救急車両が通った後、息を吹き返す人も出たりで、物凄く騒がしい事になっている。ちなみにいの一番に来た救急車両は星指侯爵家という大貴族が後援してるらしくやたらとアピールというか勧誘というか依頼というかそんな言葉が激しかった。まあ、こんな一般人に気遣いできる貴族家なら大歓迎である。
バス運転席から届く様々な無線話に聞き耳立てた感じでは、どうも他のトンネルや都市部でも同時多発的にデモからのテロ行為が行われたらしい。それらも貴族家が直接介入したりして解決の目処は立っているとかだかだが、魔災に関しては情報無し。管轄が違うのかな、何にしても物騒過ぎでしょ。ここまで治安悪かったのね地上って。おっかないやね、とづまりちゃんとしましょね。
閑話休題。
私はというと、やはりというか何というか地域浄化の応援要請を受けてずっと徐行運転する装甲バスの屋根上でシャンシャンと神楽鈴を鳴らし続けている。肉体的には何とも無くとも精神的にはもう寝転がりたい気持ちで一杯いっぱい、なんだけど……だけれども。なんだかんだ呻き声が耳に入って来ると休むに休めない。私達はもちろん汚染も無しで肉体的には快調にピンピンしてるが、そうで無い人の方が大多数であり……星指家が報酬も用意するって事だしやったりますかと気張っている所。
本職の巫女隊も社からこちらに派遣されるとの事だが、何しろ夜が明けてからという話。なんとも言い難いが、まぁ浄化がちゃんと出来てるか調べて貰わないとダメだろうし、仮に私の浄化が未熟稚拙でも浄化灯や清浄結界魔導具を緊急車両が運んで来てくれているし当面はそれで凌げると見積もったのだろう。
安全が本当に確保されているかの判断に一晩掛けるのは飲み込むしか無い。平民が使う主要道路のひとつでしか無い場に出てくれる貴重な巫女の生死に関わるので仕方無いと納得するしか無いのだ。ふぁっきゅ。
そちらは愚痴愚痴言っても仕方ない所なので置いとくとして、報酬として星指家が取ってくれたっていう地上の高級ホテルも気になるし、そこまでこの装甲バスもタクシー代わりにエスコートしてくれるらしいしという事で、やる気を捻出してもうひと頑張りと言い聞かせているのだ。
星指家配下という、救急車両から出て来た人から言付かった際、私達三人分の高級ホテルという話を聞いた時マッキーがぎょっとした顔で口元を引き攣らせていたがお貴族さまからの話を断れる筈も無いしで、明日にゃ明日の風が吹くって精神で鈴をシャンシャン鳴らした。正直、私の脳みそはもう酷使される事を拒否しだしていて睡眠天国を夢想している。
ちなみにメイちゃんはいつの間にか幼馴染PTから抜けてこちらのPT【正雪境界】に加入してた。聞いてみたら暴動が始まった直後にはもう所属変更済みだったと。早えのよ、異論は無いけどまったく気付け無かった。魔導端末をもっと見る癖付けた方がいいのだろうか。
まあ緊急処置的にという話だったが、多分マッキーが逃さないだろう。彼女のレベルもこの騒動で上がったようで4もあるし私達は6へと上がった。全滅一歩手前まで追い詰めて来たあの目玉怪異だけでは無く、同盟機能を結べる近場の班すべての討伐分をおそらく均等割りだと思われるのだが、雑魚と罵られていた魔物達も全て軒並み討伐されてでようやくレベルひとつ分。当然ながら高レベルの探索者はレベルなんてひとつも上がらなかったとの事。なんというか経験値がしょっぱいんだよね現世って。これもまあしゃーなしやね。
メイちゃんが班に加入した時、私達の神の恩恵名を見て目を丸くしていた姿は可愛かったらしいが……これマッキーが自慢したかっただけ説あるな。うーん、まあ大丈夫か。戦封じをして学校生活していたりして危機意識はちゃんとある子みたいだし、片腕を欠損してでも私を護ろうとしてくれた意思に報いなければ私は私でいられない。
ヘドロ触手や汚泥弾をまともに受けていたら絶対に肉体がはじけ飛んで死んでいた。浄化の最中、ずっと防いでくれた光弾や鏑矢は後ろのふたりによるもので、身を挺して壁となってもくれていた。
まぁこれはあの場にいた探索者全員に言える事なもので、どうすりゃ恩を返せるんだか、と鈴をまたひとつ鳴らす。
ちなみに星指家の人達は色々なサポートもしてくれているようで、家族にも学園にも様々な公的機関にも連絡済みという話。うわぁ。くわえて地上の高級ホテルの予約。時刻的には今はもう深夜だからまぁ、ホテルは実際助かる。夕方からなんだかんだ十時間弱もトンネル内で過ごしてる事になるしそのほとんどをこの魔導装甲バスの屋根上で鈴をシャンシャン鳴らすだけっていうね……もう一生分見た気がするコンクリートの壁地面天井……。
地下街一層と地上とを何往復かしてさすがにもう呼び掛けられる事も少なくなって来たがそれでも時々「巫女さまー」という声が聞こえたりして、そちらに向けて神楽鈴を打ち鳴らせば銀光がふわりと拡がっていき歓声が上がったりする。実際に瘴気を吸って体調悪くなっていたり、呪いや汚染でも貰っていたらこの浄化光が伴う音色の波動だけで十分祓える効果があるようなのでいいのだが、いいのかな……。
「いやぁ、社の巫女じゃないんだけどこんな振る舞いしてて大丈夫かなぁ……」
「大貴族さまからの依頼だし問題ねえだろ。巫女就任おめっとさん」
「ないない。正式な修行受けたわけでも無いのに就ける筈無いでしょ。蹴り出されるわ」
「でもユキちゃんがこのトンネルまるっと浄化したのは事実だし?」
「いやぁ……中学でさわりだけは学ばせて貰ったけど、今の私だと見習い巫女の採用基準でさえハネられるの確定してるんだよね」
そうなの?とメイちゃんに聞かれたので深く肯く。
本職の巫女は穢れがどうの、清めがどうの、掟がー慣例がー慣習がー初代さまはー神様はーとそれはもうやかましかった。探索者を志してますと言ったら猛烈な反対というか何を考えてんだお前的な罵声まで受けたし、我慢の限界ギリギリであと一言でも追加されたら殴り飛ばすと決意した記憶がある。まあそんなこんなで本職の巫女には苦手意識があるのだ。社の修行場の敷居を跨いだらもうダンジョンに好き勝手潜れなくなりそうだしで、個人的にも絶対に無理ヤダ。
「それにふたりや皆が護ってくれてなきゃ私死んでたしさ。そういう死の気配がする記憶とか経験とかも確か社基準じゃ穢れ判定なんだよね。そういう単語を聞いただけで中学の時に来た巫女講師とか金切り声挙げて発狂しそうだったし。もう書類選考の段階で落とされるんじゃないかなぁ、そもそも応募なんざ私はしないし意味無い仮定だね」
「修行で穢れを祓うとか克服するって話じゃねえの?」
「個人的にはまったくもって同意するけど、私が受けた説明じゃ無垢である事の方が重要視されてるっぽい。ダンジョンなんて以ての外だってさ、ありえんくね?神に仕えるってんなら神々の恩寵をより得られるよう努力して神の恩恵をより研ぎ澄ます方がよっぽど重要だし巫女っぽいでしょ」
「ああ、セイちゃんが言ってた独特な巫女観ってこういう……、うーん、ジョブが【巫女】の人は争い事とは縁遠いイメージがあるかなぁ」
ふたりは苦笑しているが、私には分かる。社っていう公的機関は原作知識ほど当てになる組織じゃないって。中学の時に来た巫女の癇癪持ち講師を見れば分かるというものだ。ひとりを見て組織全体を測るなと以前マッキーに言われたが、当時はあんなのが所属する組織なんて心底くだらないって扱き降ろしたもんだ。今はその怒りの記憶もある程度静まったが、積極的に関わろうとは思わない。戦帯には感謝してるが、それはそれ。社関係は原作知識利用できる依頼程度の関係性で十分だね。ペッ。
それにまぁ、今なら少しは理解出来る、ような気がする。
自分で言った言葉だが妙に腑に落ちた死の気配というあの感覚を穢れと忌避する気持ちは分からなくも無いのだ。誰だって血の気が引いて体が寒くなり現実が遠くなり1秒が酷く長く感じさせられるあの感覚を何度も体験したいとは思わないだろう。ド根性を魂に刻んで支えなければ、体を凍えさせる、骨まで凍り付きそうな鎖に囚われるようなあの感覚は、寒々しさを通り越して酷く不快に過ぎるものだから。
私はそれ以前の問題として、部長と再会したあの空間で何度も何度も魂の復活はされるとしても殺されたしね。殺され慣らされたみたいな所もある。
月読様は好みと仰ってくれたが、魂にまで血の臭いがこびりついてるっぽいし、穢れていると言われたらそうなんだろうなと納得する程度には血に塗れていると思う。……自分の血に、という所がまるで自傷癖があるみたいで不本意過ぎるが。やったの全部あのふぁっきん堕天使ですと触れ回りたい。
ともかく、命の危険を感じた事があるかどうかなども、社の採用基準になっていた。清廉潔白にして無垢なる清浄さを求めているのだあそこは。毎日滝行やら禊やらで俗世に関わらず心身を清め続ける修験者の集まりであって、血生臭い私なんかは絶対にお呼びじゃない。
もちろん浄化の対価として金銭を得る職業としての巫女や神に仕える巫女業と、神の恩恵の【巫女】はまったくの別物である。【巫女】のジョブは得やすい方らしく一般人のOLとかにも多いと聞く。原作知識的には後天的に浄化適性を得られる可能性が上がるジョブでもあるし良い事だ。巫女ミコと戦闘する【巫女】配信ももっと増えて欲しい所さん。
「ははっまあじゃあ巫女業は無理だな。つーか、ユッキーあのおっさんに会ったら感謝伝えといてくれよ。貰った専用弾も結局使い切っちまったし。てか普通に購入してたら大赤字間違い無し!譲渡書が無かったらこれから夜逃げだったぜ!」
「ぷふっ笑いごとで済んで良かったじゃんね」
「セイちゃんのあの光弾凄かったけど貰い物だったんだねー。私のこの鏑矢入った矢筒も入学祝いって三月に貰ったばかりなんだよね」
私も使い切っちゃったと言うメイちゃんの矢は銃弾と違って再利用できるかと思いきや、瓦礫に刺さった矢じりはもちろん箆の部分や羽までボロボロになっていた。あの害悪目玉はほんとによぉー。ふぁっきゅ。
「え?ちな誰から?」
「弓道場の師範だけど、せんせーも貰いものって言ってたから巡り巡ってって感じかも?」
「わお、ちな私のこの鈴も貰い物」
…
「人の縁ってありがたいねって事で」「おう」「あはは~私達って成人したばっかだしそりゃ贈り物が主体になるよね」
そんな無垢で愛らしい感想を聞いたり、とりとめない事を喋りながらバス屋根から周囲を見渡す。
目に見えて薄暗かったトンネル内、特にバス外となると一層暗かったが、今はもうそんな印象も無い。
そこら中を車のライトやパトランプの回転灯が照らしているし、普通の灯りが物理法則に従って普通に照らしてくれているのがちゃんと目に映っているから。ほんと瘴気ってマジで害悪だわ、臭いし視界が悪くなるし何より臭いし。臭いのだ。本当に。ふぁっきゅ。
それに加えて、臨時用の魔導灯を柄に取り付けた槍を天井に向かって投げつけ埋め込む探索者連中も手慣れた感じで動いている。どのくらい高価か分からない浄化灯も中央分離帯に間隔を空けて借り設置されていけばもう以前のトンネルより明るいくらいだ。文明を感じる。やっぱり灯りって大事やね。
ちなみにバス内がマシだったのは、私が垂れ流していた冷気の魔力に浄化作用がある為で、黒舌からすれば私らがいたバスだけ明るく目に映っていたらしい。自称浄化適性持ち、オブネ君に言わせれば御幣すらまともに起動させられなかったワカメが戯言抜かすなという感じらしいが、ワカメ本人は自慢気にしていた。ただ赤下曰く、私を万の適性値だとすると黒舌は小数点以下だから無いも同じとの事。おい味方から刺されてんぞワカメ。そんなこんなで笑い合えた一幕もあった。
うん、キノコリーダーやシタシタコンビが警邏車から降りて近付いて来たのは無意識の生存本能故かもしれないね。
トンネル内に充満してた混沌とした魔力と感情の渦を遺失物が悪用して瘴気へと変換したみたいで、キノコリーダーに関しては車外に出たのは完全に裏目ってたし、封印ケースを開けた愚行はアホ過ぎるけどこれも精神汚染された影響大きそうだしでお大事に―という感じ。高級な回復薬のお礼という事で、念入りに浄化(半透明の刃で脳天から唐竹割り。もちろん無傷)したから大丈夫と思うけどね。
愚行といえばワカメ野郎が封印ケースを蹴り飛ばした事もそうだ。キノコリーダーが取り込まれるのを防ぐ為だったとしても、あれほど遠くに蹴り飛ばさなければ浄化ももっと楽だったのは間違い無い。そう苦言を漏らせば、距離が無ければ破壊出来ずに手をこまねいて全員死んでたと返された。もう未来予知系の技能持ってると白状してるようなものである。ちなみに蛮族ガール呼びは改めさせた。次呼んだら蛮族の名に相応しい暴力をプレゼントだ。それなりにレベルがあるのは分かったので手加減抜きで四肢を粉砕、は勘弁してやって反吐くらいは吐かせてやる。
そのワカメ野郎こと黒舌が言うには、あのタコのような遺失物が撒き散らしてた瘴気の本質は【呼込】だったとの話。次いで洗脳や生贄にする為の【自失】させる能力も持っていたとも言ってたが詳しく聞く前に、一般人の前で話す事じゃないとキノコくん達に連れられて警邏車で地上に戻って行った。あんたら探し物はいいのか?ツッコミする前に行ったけど、まぁ預かり物というかケースが壊れたから報告も必要なの、か?
分かった事は、トンネル内に魔力に混じって薄く漂っていた瘴気とは別口という話。瘴気も二種類蔓延していたようで、そちらの本質は【狂乱】。デモ隊参加者の異常性の原因はこっち。【呼込】と比べてまだまだ全然薄かったおかげで低レベル帯にしか効かない微弱な興奮と混乱状態を引き起こす類の汚染程度で済んでいたそうだ。まぁ薄過ぎたせいで神々の恩寵が少しあれば無効化されて、大人のプロ探索者たちでさえ精神汚染系の瘴気が蔓延していると気付け無かったようだが。
そしてこの【狂乱】の方の瘴気の根源はどこにあるかも分からず終い。当然ながら滅却も封印もされていないので、汚染された人達はしばらく(数か月から年単位で)社通いしてある程度の回数の浄化儀式を受け続けなければ、【狂乱】瘴気によっていつ発狂してもおかしくない状態なんだとか。
私なんかはレベル上げたらいいって思うけどね。1レベル上がるだけで大分瘴気耐性が付くらしいし、レベルが3もあれば十分みたいな話もあるし。
さらに深刻なのは一度でも発狂した事がある人達。
私の浄化を受けて綺麗さっぱりしてもここで被害が終わりとはならないのだ。一度でも瘴気による発狂、そこまでの汚染が進んでいたら瘴気根源との繋がりが結ばれてしまっていて再発不可避。【狂乱】の根源から汚染の魔の手が物理的距離を超越して伸ばされる。それでまた発狂状態へご案内という生き地獄。ホント現実になると害悪過ぎる瘴気問題……。
この事から分かるように、暗闇空間を作っていた魔法使用者や、一番最初にデモ隊を精神汚染して一般人を扇動した首謀者も見つかっていない。原作ゲーム的にいえばクリアはしたけどパーフェクトクリアには至らずという感じで、取り逃がした首謀者が大きなテロ組織の幹部とかだった場合が普通に怖い。とても目立ってしまっている自覚はあるので家族の保護あたりは早急に考えなければならない段階で、そのあたりは星指侯爵家の傘下って人達にそれとなくマッキーが会話中に滲ませていた。……ほとんど賭けであるのだが、会話の手応えからして分は良い方だと思う。
とはいえ、魔力残滓はたっぷりと残っているので、首謀者は追跡魔法でそのうち捕まる事だろう。その場合、内乱罪でたぶん即死刑で斬首だね。南無。
罪といえば、学園内に遺失物を持ち込んでいた邪教団シンパの準貴族生徒はすでに処理されたとか、そんな無線連絡をキノコ君たちが受けてた。邪教団シンパの準貴族生徒とか初耳だし原作ゲームにも未出、それに預言の小僧が活躍したとかどうとかも聞こえたが、どうもよく知らない事件が平行して進行していたみたい。窃盗だなんだと大騒ぎしてた貴族生徒が逆にクソな代物を学園内に持ち込んでたとかそんな話。そっちはたぶん徳岡くんたちが主人公補正でもって活躍したんだろう。
そう、話を戻してキノコくん達だが、シタシタコンビを連れて早々に警邏車乗って地上へと戻って行った際、もちろん真っ二つになった元目玉ケースもその中身も拾って帰って行った。中身である遺失物を見た所、厄さが欠片も無い真っ二つになったガラクタに成り果てていたのでもう何も力なんて無いと断言出来た。まぁ別の力の器にはなりかねないのか?これは原作知識だが、確か特定のジョブなら修繕とか出来るんだよね遺失物って。なので封印ケースを新調するようおススメもしといた。
真っ二つにした封印ケースについては弁償とか言われずに済んで良かったよホント……いや、後日請求されたりするのか?こちとら魔物と化したブツを破壊したんだから裁判沙汰になっても勝つぞ、おう、だから請求しないで欲しい。いやマジで。面倒だしそんな事に時間を費やしたくない……。
タコのような遺失物は真っ二つになったとしても物体として現存しているので、滅却とまでは出来なかったようだが、とりあえず破壊は出来た。質が悪くても遺失物は遺失物。その破壊に成功するんだからこの神楽鈴もヤバイわ。多分目玉が飛び出るくらい価値あるんじゃなかろうか……うん、あ、桐箱裏面に譲渡書あったわ。ふぅ、ここイチ焦ったぁ。
で、今回近くにいて一番負傷した警邏服の大人たちであるが、戦闘後に重症者じゃない者は0。死者も0ではあったが、全員が全員、四肢のいずれかを欠損させる大怪我で、それでもその命をさらに張ったというのだから頭も下がる。
もちろん応急手当で命に別状は無く、復帰までの時間も二日で済むという話。汚染もきちんと浄化したので、肉体的には問題無いだろうという事で、今日を含めての二日間休息という話で、つまり休めるのは明日一日のみで明後日からもう普段通りの業務に就くとの話だった。ぅぉハード……と思ったが、私達も道場稽古で骨折させられても回復薬で即復帰してたから、傷がすぐ治るこの現世ならこのくらい普通なのかも。
彼等が地上に運ばれる前に喋っていた時、そんな事を考えつつ、警邏服の大人たちとマッキーやメイちゃんの話を聞いていた。
ふたりが心配気にしてたら、これが我々大人の仕事ですから、なんて笑って軽口叩く大人たちの姿にマッキー達が閉口していれば、困ったように頬を掻いて
「あなた方が今より年を重ねた時、その時代のこども達に誇れる姿を見せてあげてください」
我々もそういう大人の姿に憧れてこの道を歩んでいるんですよ、と笑っていた。
その場にいたシタシタコンビ、いやワカメの方だけはギリギリと歯軋りしていたが、まぁ多分しょうもない事だろう。ボクのハーレムが、酒池肉林が、桃源郷がァア!とか発狂直前みたいな顔で嘆いていたし。
他の隊員も「ガキに限定する必要ねえだろ」やら「そうそう別に私達が年取って引退したりなんかした時にテレビで紹介された人を助けた事あるんだぜと自慢したいだけなんだし」やら「武勇伝だな武勇伝」なんて茶化していた。
警邏車に詰め込まれて去って行った彼等もまた戦友なので、その言葉は尊重してあげたいが……。
「こどもねぇ…」
「ああ……あの小学を過ごしたユッキーにゃ響かんかったか」
「善良なこども時代を過ごしたんだろうなぁって感じかなぁ……」
「じゃああれだ。妹ちゃんに置き換えたらいいぞ」
「む、そう言われると、うーむ、でもそれはいつも心掛けてるから今更言われても――」
「ユッキー、お前そういう所だぞホント」
「ユキちゃんって妹さんがいるの?」
「そうそうコイツと違って素直でしっかり者な出来た妹さん」
マッキーの声に私はふふんと胸を張る。そうウチの妹ちゃんは本当に出来た子でね。
まぁ、小学時代の記憶は思い出すだけで、労力と熱量と時間の無駄である。そんな時間があればDAだ。
「マッキーの小学は一般的って聞いた事あるけどメイちゃんは?」「私は戦封じ着けてたから逆に小学校じゃ大人しくさせられてたかなぁ。中学からは探索者志望に変えたけど」「それ大正解だね間違い無い」「あはは……」
そんな話もしつつで時間も経ち、浄化業務も正式に完了だと労われて護送されて案内されるままホテルに入って、夢うつつにシャワーを浴びながらメイちゃんに私の小学時代が如何に酷かったかうつらうつらとしながら話したりしていれば、マッキーは呆れたようにため息をついて、メイちゃんはドン引きしてた。
バカ広くも丁度良いぬるま湯の湯舟の中、途中から眠すぎて何喋っているかも曖昧に、裸とか何とか気になんないほど眠くて……。
眠い、もう本当に眠いのだ。だから眠らせて欲しい。それで起きたらダンジョンに向かうんだぁなんて思ってたら意識は柔らかな布団の中で途切れ途切れに。
いつの間にか寝室に寝かされていたようだ、うん、二度寝しよ。全然眠り足りない。明日もきっとダンジョン三昧だしいー
「セイちゃんもだけどユキちゃんもダンジョンにお熱なんだね。寝言でもダンジョンダンジョンってこれは外見詐欺だねほんとにもう。第一印象すっごく綺麗でお淑やかそうなお人形みたいな子だったのに、セイちゃんが言ってた通りにハチャメチャなんだもん」
「ははっ、だろ?バスから飛び出した時は焦ったが……ユッキーはオレよかダンジョンに熱中してっからなぁ。メイちゃんがもしレベルを得たいってんならウチのPTに臨時じゃなくてやっぱり正式に入って欲しいな。今日体験して分かったと思うけどユッキーは浄化適性持ちでさ。まぁここまでド派手な適性持ちとは考えて無かったんだが――」
「うん――セイちゃんて私の事情知ってたりする?」
「実を言えば。又聞き程度に不確かだが、知ってると言えるぜ」
「なのに私を誘うんだ?」
「そんなにおかしいか?まあこればっかはユッキーに頼む事になるが多分ふたつ返事で納得してくれるぜ。修行になるとか何とか言ってな」
「ふふっ、うん、そうだといいな。ううん……きっとそうなるんだって分かるの。うん、これ以上に良い話は多分きっと無いよね。うん!私でよければ――不詳ながら空梅鳴!探索班【正雪境界】でお世話になりたいと思いますっ!幼馴染のあの子達は今日の様子見たら大丈夫そうだし!他に気になる事がいっぱい出て来たし!あ、でも打算的な部分もあってね、私の事情をちゃんと知ってから、もしダメならそれでいいから、あのね聞いて欲しいなって――」
「お?マジ!?よし、よしよし!よっしゃ!!しゃんなろぉ!!やったぜえ!!」
「ちょ、ちょっとあんまり大声あげたらユキちゃんが起きちゃうよ!?」
「あ、そうだな。うん、じゃあ隣の部屋で話そうぜ!いやーもー知ってて欲しい事が盛りだくさんでさー今夜は寝かせないぜ☆あ、折角だからルームサービスとかも頼んでみようぜ!何か美味しいもんでも一緒に――いやーホテルって初めてでさ――」
「もう!セイちゃん私はこれでも真面目にねー――」
「おーまずはオレらが前世持ちって事から――」
「あ、その噂聞いた事あ――珍しいね――」
楽しそうで嬉しそうなふたりのそんな声に頬を緩めて聞きながら、明日はきっと今日より良い一日でありますようにと願う――。
目を閉ざした真っ暗な視界の中に、ふと飛び込んで来た羽が生えた魚の幻影が気持ちよさそうに泳ぐ様子――ソイツに蹴り入れる妄想をしつつ、意識が微睡んでいった。
◇
第一章完結です。
ここまで読んでいただき、感謝申し上げます。
伏線の回収はいつになる事やらという次第
二章は貴族生徒との関わりをメインにしていくつもりで続きを何話か書いてはいますが、私はかなりの遅筆でして……。一旦完結とし、再開できるようであればまた連載中へと変更しようかと考えています。
それでは、またいつかどこかで。
ありがとうございました。
もしよろしければ、評価ポイントなど入れて頂けたら嬉しいです。




