第七話
「まったく持って問題だよね」
シスターたちが歯をむき出しに吠える様子に、肩をすくめる。よだれを垂らす様は、とても聖職者だとは思えない。
『これ、全部敵!?』
「多分違うよ」
近くのシスターが短刀で斬りつけてくる。攻撃をギリギリで躱して、腹部に掌底を当てた。
衝撃とともに血のような液体へと変わる。こちらの体内に入り込もうとするので、風魔法で吹き飛ばす。
「魔法のコントロールはできないから、ボクも武器を使わせてもらうね」
奪った短刀を手の中でクルリと回して構える。
一斉に襲いかかるシスターたちの攻撃を躱しながら、急所を一撃で斬りつけていく。赤い液体は隙を見ればリエルのことを狙ってくる。
「さて、ロイスに謝らないいけないことがあるね」
『な、なによ?』
ロイスの声は少し警戒するようだ。敵の猛攻も涼しい顔をしてさばき続けているからだろう。
体がついていけていることに実はリエル自身も驚いている。ここまで動けるのは、前世の知識と女性の体の柔らかさがマッチしているからだろうか。
リエルにとってはうれしい誤算である。
「ボクが前、犯人のことをプロファイリングしたけど……あれはあまりにも早計だったね」
突っ込んで体を捕まえようと手を広げてくるシスター。その相手の体を馬跳びの要領で避けた。
「相手は女を恋愛対象に見てない……どころの話じゃないね」
『と言うと?』
「人間とすら思ってないんじゃないかな」
シスターが後ろから羽交い締めをしてくる。簡単に外すことができず、苦笑する。
数人のシスターが液体に変わり、迫ってきた。
「どうしてもボクを道具にしたいらしいね……」
本当に反吐が出る。彼女は小さくつぶやく。
「……【フウラ】」
巻き起こった風は先ほどと比べものにならない。講堂に並べられていた椅子は破壊され、調度品も壊れていく。女神の像は顔が取れて砕ける。
周囲にいたシスターたちは全員液体になって散っていく。
「少しやりすぎたかな?」
顔のなくなった女神像を見上げ、リエルは苦笑した。
「神の娘の前でさすがにこれはやりすぎたよ」
『……別に良いわよ私の知らない人だし。どうせ、お父様の女のうち一人でしょ』
「はは、意外と達観してるんだね」
『こうでもないとやってられないだけ』
彼女の言葉にそっかと返した。
ナイフを脇に捨てて、リエルは小さく息をつく。彼女の瞳には、暗いものが浮かんでいる。歩き出すと、静かになった教会内に、リエルの足音だけが響く。
向かったのは教会の人間がいるであろう部屋の前。ドアノブに手をかける。
としたところで──
後方から液体が集まり固まった。人型を作るそれは、屋根を突き破るほど巨大だ。まるでそこに行くなどでも言うように、大きな手を振り下ろしてくる。
「【フウラ】」
しかし、やはり風に巻き込まれて霧散してしまう。
「現代日本なら通用する能力かもしれないけど、魔法前提の世界じゃ弱いね」
それでも、奇襲を受けたらと思えば恐ろしい。自分がいつの間にか内側から殺され、血の人間として置き換えられるのだ。
「そう思うと、始まってすぐに動き出したのも納得かな」
ドアを開けると、そこには怯えて立つ神父がいた。彼は壁際にまで追い詰められ、体を震えている。
「やあ、あんたが本体だね」
「わ、私に手を出すことは神に反逆する──」
「あーそういうのは良いよ。この勝負は神の裁量によって行われたんだから。それが言い訳に通用しないって君も分かってるよね?」
冷静に言い放ち、椅子に座る。脚を組んで腕を膝の上に乗せた。
「君の目的は、この街全体を自分の手駒に置き換えることだね?」
「何を──」
彼が言い終わる前に、また血が伸びてくる。当然のようにリエルは風で防ぐ。
「大変だよね……バカの一つ覚えは」
「……くっ」
足を組み替えて、微笑みを見せる。前のめりになって、彼の顔を見つめた。
「でもさ、最初に女性ばかりを狙ったのがバカすぎるよね? いっぺんに変えていけばよかったのに」
「そ、そうする予定だったんだ」
「はは、嘘つけよ。お前は女を思い通りにするという欲望に従ったんだよ」
神父が首元に下がっていた十字架のペンダントを引きちぎった。それをリエルに投げつけてくる。
先端は尖っておりナイフのようになっている。それを顔を動かすだけで避ける。
十字架のナイフは、背後の壁に刺さる。勢いを殺せず、刺さったまま震えていた。
「神父が十字架で殺してくるなんて、堕ちたね」
「……男を舐めるなぁ!」
「お前こそ、人間を舐めるな」
言葉がぶつかり、彼はリエルに襲いかかる。




