第十九話 終了
「ちっくしょうが! この俺がやられるわけがないだろ!!」
さらに黒い煙がルーマンから噴出した。巻き込まれたレイは、高く飛び上がる。
彼女は空中で一回転をすると、そのまま地面に着地した。
「ルーマン! いい加減にしろ」
ルリィは彼に声を荒げる。
「いい加減にするものか! 俺は……お前らごときに構ってる人間じゃないんだよ!」
「……なに!?」
「は、ははは! “ただの一般人”になんかやられてたまるか! お前ら、俺の逃げる時間を稼げ!」
黒い煙を浴びた骸骨たちが一回り大きくなる。ルリィに一斉に遅いかかった。
レイに目配せすると彼女は頷いて逃げ出したルーマンを追いかける。しかし中々どうして、彼も足が速い。
「……ちっ」
骸骨たちをかわしながら追いかけるレイのほうが分が悪いようだ。このままでは、正門近くにおいてある馬に乗られてしまう。
「は、はは! 出直しだ! 出直しさえすれば」
高らかに嗤う彼の声が聞こえる。ルリィは奥歯から音を鳴らした。
そのとき──白い蝶がルーマンの視界を塞ぐ。唐突のことで彼は体勢を崩す。
「今!」
その隙をレイは見逃さない。
「レイ、殺していい! 責任は私が持つ!」
「分かりました!」
ルリィの言葉に答えた彼女は、ルーマンの首を刎ねたのだった。
「レイ、よくやった」
ルリィは褒めながらも、腕を組んだ。
「そう素直に喜びたいんだがな……お前の使命は妹の監視だろう?」
「……はい」
「言い訳は?」
「しません。私が選んだことなので」
彼女の言葉に、ルリィは後頭部をかく。
助かったのは事実で、彼女の気配を感じたからこそ強行手段に出れたのだ。感謝こそすれ、叱責をする気は起きなかった。
にしてもと、ルリィはルーマンの死体を見る。
「やはり異変はかなり深刻だな」
どれだけ善人だったとしても、突然に心変わりをしてしまう。隣人が殺人鬼の恐怖は、これから世界に波及していくだろう。
何かが起きている。しかしその何かは、ルリィには知る術はないと直感が告げていた。
「ルーマン。残念だよ」
彼の死体の前で、冥福の祈りをする。
※※※※※※※※※※
リエルは姉が疲れているであろうと予想して、晩御飯の準備を使用人たちとする。最初訝しげだった彼女たちだが、リエルの手際の良さに見直してくれた。
鼻歌を歌いながら、彼女は鍋をかき混ぜている。
そんなとき、蝶になったロイスが戻ってきた。彼女はブレスレットとなり、リエルの手首に装着する。
『呑気なものね、外では大変なことが起こっていたのに』
「あはは、ボクの仕事はレイを動かした時点で終わってたからさ」
『ふーん。犯人が誰だったか知りたい?』
「興味もないね」
彼女の答えに、ロイスは呆れるようにため息をついた。
鍋の中は綺麗な飴色になっていた。オニオンスープは、いい匂いを発している。
使用人たちが手際よく動いてる中で、監視役のホログラムナハトは腕を組んで見つめていた。
「でもやっぱり、こんなものか」
大きくため息をついて、リエルは続ける。
「神様のゲームっていうからもっと面白いと思ったけど」
『……つまんなさそうね』
「うん、少なくとも神様に会う価値はなくなったかな」
できた料理の味見をして、舌を火傷した。涙目になって舌をチロチロと出す。
火傷の痛みが引いてから大きくため息をついた。
「ほんと、つまんないね」
その言葉に、ロイスは答えなかった。




