第十三話
どんなに重い会話をしたあとでも、朝はやってくる。
リエルは窓から入ってくる朝日に刺激されて、目を覚ました。
ベッドから上半身を起こし、欠伸をする。軽く体を伸ばしてから、布団から這い出た。床に置いた靴に足を入れて、立ち上がる。
「いい朝だ」
窓の外を眺めながら、どこかボーッとした声で言う。
『いい朝じゃなーい!』
すると、ブレスレットが大きく震えた。
「何をそんなに怒ってるんだい?」
『一体どうするのよ! 動きにくくなったじゃない!?』
「そりゃそうだろう。むしろ、この世界の政府が機能してて安心したってところだね」
分かったことは、ゲームの参加者は第三者の介入で死ぬこともあり得るということ。
つまるところ、国に味方してもらうのもありだ。しかし、やはりそれは最悪の手段となる。
大勢の人間が死ぬことは、リエルは是としないからだ。
「それにボクは安心してるんだ」
『安心? 何をよ』
「少なくとも家族を殺さなくて済みそうだからさ」
姉や兄が前世の記憶を取り戻した人間になることだってあり得た。そうなれば、真正面から家族を殺さなくてはならない。
もしどちらかが参加者になっていたら、姉なら違和感に気づいた時点で。そして、兄なら監視網を強化するなどして動きを見せていただろう。
「それが確認できただけでも大成果さ」
リエルは動きづらくなることは想定内だ。しかし、動きづらくなったとして、敵と対峙できないわけではない。
窓の外に視線を移す。見える正門からは何人か騎士が見えた。剣を提げて背筋を伸ばす姿は、規律正しく見える。
視線はやけに鋭く、周囲を警戒している。
しばらく見つめていると、お婆さんが近づいてきた。何事か言い争いをしたあと、追い払われている。その行動が気になって、リエルは部屋から出ようとした。
「どこへ行くんですか? お嬢様」
レイの声が聞こえて、そう簡単には行かないかと顔を歪める。
表情を取り繕って、振り返った。
そこにはいつも同じのメイド服姿のレイが立っていた。
彼女は訝しむようにこちらを見ている。両腕を組む姿勢は、主人に対しての態度ではない。
「……少し庭を散歩しようかなと」
「分かりました。私もついていきます」
ニコリと返してから振り返る。リエルの少し後ろをレイはついてくる。背中にあからさまな視線を受けながら、彼女は庭へと出た。
花に駆け寄り、嬉しそうにするふりをする。レイから見えない角度でブレスレットを二回叩いた。
『……なによ?』
「正門にいたお婆さん。多分また来るだろうから、何を話してるか聞いてきてくれないか?」
『なんで私が?』
「見てわかるよね」
「何を独り言喋ってるんですか?」
レイに睨まれて、愛想笑いを返す。お花を指さして綺麗だからと誤魔化した。
「ボクは動けないんだよ」
『……分かったわよ』
レイから影になる位置で、ロイスが蝶に変化する。そのままヒラヒラと正門に向かって飛んでいった。
「それでお嬢様。少しは魔法を使えるようになりましたか?」
「そんなにすぐに使えるようになると思う?」
「……でしょうね」
自分でも諦めていることなのだが、即答されたら少しムッとしてしまう。
手をかざし、水魔法を唱えた。
手から出てきたのは水鉄砲くらいの水量。花壇の土を濡らす程度だ。
「水やりには便利だね」
リエルは自嘲気味に肩をすくめた。
レイは苛立つように片目を大きく見開く。腕を組んだ態度は崩さないままだ。
「……本当、なんでルリィはこんな出来損ないに構うのかしら」
小声で発したレイの言葉を、聞こえないふりをした。
少しして、蝶のロイスが戻ってくる。
「あ、蝶だ」
リエルが指を差し出すと、そこに止まった。
『なんで指出すのよ。この姿疲れるからブレスレットに戻りたいんだけど?』
「今戻ったら気づかれるからだよ。で、お婆さんは何で尋ねてきたんだい?」
『ただのボケたお婆さんだったわよ?』
それ以上言わないロイスをじーっと見つめる。どこかやりにくそうに、羽根を動かしたいた。
『本当にただのボケたお婆さんだったわよ。墓場から爺さんの骨がなくなったとかなんとか』
「ロイスそれ本当に言ってる?」
『私がリエルに嘘つくわけないじゃない!』
蝶のロイスを指に乗っけたまま建物の中に入る。レイの視線を感じながら部屋に戻った。
やっと監視から解放されて一息つく。
椅子に座りながら、ロイスをブレスレットへと戻した。
「一見ボケたようなおかしなことでも、引き起こす人間がいるだろ?」
『誰のこと?』
「君たちが引き起こしたゲームの参加者だよ」
『……あ』
ロイスの頭の回らなさには、さすがのリエルも苦笑いを浮かべた。




