街はずれの教会
グラントリーとアレステアは、ジェネヴィーブとチェリシラに事件後の事をほとんど教えてくれない。
ならば、自分達で探すのみ、とジェネヴィーブは思っている。
狙われたのは自分達なのだ。
ファーガソン公爵家の馬車が狙われ、ダークシュタイン伯爵家の姉妹が大火傷をし、助けにきたアドルマイヤ王国の王子とヒンボルト男爵家の子息も火傷を負った。
国をも揺るがす大事件のはずなのに、箝口令が敷かれ、王太子であるグラントリーでさえ犯人を捕まえる事はできない。
つまり、それ以上の力が動いている。
王の力だ。その要因は愛妾ギラッシュ夫人に間違いない。
ヘンリエッタ王女という、自分達が狙われる要因もある。
ギラッシュ夫人は、絶対に許さない。
ジェネヴィーブには敵認定だ。
「お姉さま、あれ?」
チェリシラが指さすのは、街の人々が街の外れの方に向かっているのだ。
「あちらには、天使教の教会があります。
ミサの時間なのかもしれません」
すでに調査炭であろうゼノンが答える。
「行ってみましょう」
ジェネヴィーブが歩き出すのを、チェリシラが追いかけ、ヤーコブが止めに入る。
「ジェネヴィーブ様、なりません。危険すぎます」
ヤーコブが前に回り込んできたけれど、ジェネヴィーブに注意を受ける。
「外では、ランでしょ? ヤンお嬢様」
ジェネヴィーブとチェリシラの安全の為に、侍女の振りをしているので、ヤーコブがお嬢様設定である。
火傷を負った姉の見舞いに領地から来た、ダークシュタイン伯爵家の3女という設定である。これならば、ファーガソン公爵家の馬車に乗っていても不自然ではない。
「じゃ、僕はゼンだな」
「私はテンね」
ゼノンとチェリシラがのってくれば、ヤーコブが否定できるはずもなく、引き下がるしかなかった。
後ろから、隠密に護衛が付いているとはいえ、大勢の集まる教会では何があるかわからない。
ジェネヴィーブ達は、グラントリーとアレステアが、天使教は犯人と深いつながりがあると考えているなど知らなかったが、天使教は気になる存在であった。
大きな教会だが、それ以上に人が集まっていた。
ガブリオの説法があるらしく、それで普段よりも人が集まっているようだ。
厳かな音楽が奏でられ、姿を見せたのがガブリオだ。
ジェネヴィーブ達はガブリオの姿を初めて見たが、清楚な白い衣、手にした黒い聖書、穏やかな微笑みに人々の視線が集まる。
「神の子達よ!」
ステンドグラスの光を背に受けて、ガブリオが声をあげる。
逆光なので、ガブリオのシルエットが光っているように見える。
ガブリオは難しい言葉を使わず、話も短く切り上げて、人々の集中を途切れさすことはない。
説法が終わると教会から人が出て行くのを眺めて、教会の内装を見渡してみる。
古い教会だが、美しい彫像がそこかしこに飾られている。
「そちらのお嬢様」
後ろから声をかけられて、振り返れば司教服を着た男性が立っていた。
この教会の司教に違いないが、声をかけられる覚えはない。
「宗祖様が、お嬢様をお見かけして呼ばれております」