二人の物語は終わらない
本日二話目の投稿です。
「………ラウド!」
リーリアは口元をほころばせた。
「はっ、お前表情に出すぎ。俺が来てくれて嬉しいって、顔に書いてあるぜ?」
「………もう、そうやってすぐ揶揄うんだから」
「ま、元気そうで安心したぜ。一昨日のあれがトラウマにでもなってたら、もう一発あの王太子に蹴り入れてこねえといけねえからな」
「わたくしは大丈夫よ。今の悩みと言ったら、突然自由になってしまったから、どうすれば良いか、逆に困ってしまう事くらい」
「………そうか」
ラウドはふと、窓の外に目をやった。
「なあ、自由になったついでに、星空でも見に行こうぜ。今夜はきっと、よく見えるはずだ」
「見に行くって……今から?」
「ああ。と言っても、すぐ近くだからよ」
そう言って、ラウドはリーリアの手を取り、窓に向かって歩き出した。
「………ラウド?あの、分かってるとは思うけど、わたくしはあなたと違って空を飛ぶことはできないのよ?」
「分かってる。だからこうするんだよ、お姫様」
ラウドはリーリアを軽々と抱き上げた。
いわゆる“お姫様抱っこ”状態になってしまったリーリアは、心臓が飛び出しそうになった。そして、真っ青な顔で必死にラウドの首にしがみつく。
「ね、ねえ、ちょっと待って?まさか、この状態で窓から出たりしないわよね?」
ラウドは楽しそうにリーリアを見つめた。
「喜べ、そのまさかだ。落としたりしないから安心しろ。じゃあ、行くぞ?」
リーリアが叫ぶより前に、ラウドは窓から外へと飛び出した。
ぎゅっと目を瞑っていたリーリアに、ラウドは囁く。
「怖がらなくていい。ほら、目開けてみろよ」
そう言われて恐る恐る目を開くと、それは不思議で幻想的な風景だった。
地面がみるみるうちに遠ざかって、上を見れば、頭上に広がる星空が、リーリアの目の前に迫ってくる。空に向かって真っ直ぐに飛んでいく感覚は、とても気持ちが良かった。
そのままラウドは上へ上へと進み、屋敷の屋根に着地した。そして、リーリアを下ろすとにやりと笑った。
「どうだ?初めての飛行の感想は?」
「……凄く気持ちがよかったわ!あんなふうに、星空に向かっていくのは初めてよ!」
「そうか。気に入ってもらえたのなら良かった。その前に、お前その格好じゃ寒いだろ」
ライドは上着を脱いで、リーリアの肩にそれをかけた。彼の匂いに、リーリアは思わずあの日を思い出して顔を赤くした。
「ほら、ここなら遮るもんがなくて、星も綺麗に見えるだろ?」
ラウドに言われるまま、リーリアは空を見上げる。目が回りそうなほど、どこまでも続いている闇と、その中に輝く、無数の光。
二人はしばらく無言でそれを眺めていたが、ラウドは空を見上げたまま、ぽつりと呟いた。
「なあ、作戦決行の前日に俺が言った事、覚えてるか?」
「…………っ、」
リーリアは頬を染めて頷いた。
あの時二人は、無事に事が済んだら、その後にリーリアがペンダントをもらったあの日の彼の行動の理由を教える、そういう約束を交わしていた。
ラウドは身体をリーリアの方に向け、二人は向かい合った。暗闇に目が慣れてきたのか、月明かりだけでもお互いの表情がよく見える。
ラウドは、少しだけ緊張しているようだった。
「…………先に言っておくが、俺は気の利いたことなんて言えないし、回りくどいのは苦手だ」
「……ええ、知っているわ」
彼は一度、深呼吸をした。
「まず、あの日は突然お前を抱きしめたりなんかして、悪かった。お前を困らせるだけだと分かっていたんだが、どうしても自制が効かなかった。………それで、どうしてそんな事をしたか、だが」
ラウドの視線が、真っ直ぐにリーリアを捕らえる。
「きっかけなんて分からない。だが、いつの間にか俺は、もう後戻りできないくらいには、お前に惚れていた。……………リーリア、お前が好きだ」
ラウドの視線の先で、リーリアの瞳が大きく揺れる。
「初めはお前の反応が面白くて、暇つぶしに揶揄っていたつもりだった。でも、お前が見せる表情全部に心を乱されて、もっと見たいと思うようになった。お前の笑った顔も、怒った顔も、ふてくされた顔も、全部どうしようもないくらい、好きだ」
リーリアは泣きそうな顔をしていた。ラウドはそれを見てどうしたら良いか分からなくなって、リーリアの瞳から目を逸らす。
「……っ、とにかく、俺の話は以上だ。まあ、なんだ。別に返事を求めてるわけじゃねえから、迷惑だったら忘れてくれて構わねえ」
「わ、わたくしはっ……!」
震える声で、彼女は叫んだ。
「今まで、恋とか愛とか、経験がないから分からないの。……でも、あなたがそばにいてくれると嬉しくて、安心して、なのに胸が苦しくて……今も、あなたがわたくしを好きだと言ってくれて、胸がすごく痛くて、幸せで、涙が出てくるの」
たどたどしく告げられたその言葉に、ラウドは目を見開いた。
「……この気持ちが恋だと言うのなら、わたくしも、あなたが好き。あなたに、恋をしてしまったの」
ラウドはその答えに、身体が震えそうなほどの喜びが溢れてくるのを感じた。
今まで彼女に想いを告げられたら、と何度も望んでその度に気持ちを押さえ込んできた。だがそれも、もう終わりだ。
彼は勢いよく、今度は迷いなくリーリアを抱きしめた。
彼女の小さな身体が、腕の中に収まる。少しして、リーリアもラウドの背中に恐る恐る腕を回して、二人はお互いを肌で感じた。
ラウドは少し身体を離して、リーリアの目を至近距離で見つめる。
「………愛してるぜ、リーリア」
「……わたくしもよ」
「………これから、俺と一緒に生きてくれるか?」
「………ええ。喜んで」
ラウドは幸せそうに笑って、それからリーリアに触れるだけのキスをした。
それだけでも、リーリアが真っ赤になるには十分で。
「夜空の下でも、お前が顔赤いの分かるんだな」
「う、うるさいわね!仕方ないでしょう!」
「おい、隠すんじゃねえ。可愛いんだからちゃんと見せろ」
「か、かわっ!?」
突然の不意打ちに抗議するように、涙目で睨みつけてくる彼女を見て、ラウドは目を細めた。
「その顔、初めて見るな。これからお前を揶揄う時は、ひたすら甘やかしてみるか」
「……だ、駄目。わたくしが慣れるまで、しばらく待って頂戴」
「嫌だ。待ってなんかやらねえよ」
二人はふざけて睨み合って、そして同時に吹き出した。何だか可笑しくて、幸せで、自然と笑顔がこみ上げてくる。
ひとしきり笑った後、ラウドはリーリアをもう一度引き寄せると、彼女の額にこつんと自分の額を合わせ、囁いた。
「なあ、リーリア。お前が見たことのない景色を、今日みたいに、これからも俺が沢山見せてやるよ。だからお前は自由に、何にも縛られず、俺の隣にいてくれれば良い」
「……ええ。…………ありがとう、ラウド」
舞踏会でぶつかったあの日から、ラウドはいつだってリーリアを新しい世界に連れ出してくれた。今日だって、こうして藍色と星の光だけの世界に触れている。
感謝と愛しさが胸に溢れ出して、リーリアは自分からラウドにそっと口付けをした。
ラウドの顔を見てみれば、彼は耳まで赤くしていて。リーリアがくすりと笑みをこぼせば、ラウドは少し不満げな顔になった。
「……そういうのは俺の役目だから、禁止」
「あら、たまには仕返ししなくちゃ」
悪戯っぽく笑ったリーリアがあまりにも綺麗で、ラウドは思わず見惚れてしまう。
ラウドはリーリアの頬を両手で包み込む。
リーリアは瞳を揺らした。
「……幸せすぎて、怖くなるわ。もしかしたら夢なんじゃないか、って」
「安心しろ。明日も明後日も何十年先も、俺がお前をもっと幸せにしてやるから。……いいな?約束だ」
彼の優しい笑顔にリーリアは堪らなくなって、唇をひき結んだまま何度も頷いた。
ラウドはもう一度、リーリアの唇を奪った。
彼がくれた、この胸に収まりきらないほどの幸せをも包み込んでくれる、どこまでも続いている夜空の下
星のようにきらめく涙が、リーリアの瞳からこぼれ落ちた。
これにて『公爵令嬢のとんでもない勘違い』は終幕となります!
皆様のおかげで、処女作を無事完結させる事ができました。ブックマークや感想、評価等々、本当にありがとうございました。
そして何より、この作品を読んでくださった皆様には、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
未定ではありますが、今後後日談などを付け足したいと思っております。もしよろしければ、今後のリーリアたちの物語ものぞいてみて下さい。
改めて、本当にありがとうございました。




