最終幕【器と選定】
前回の簡単なあらすじ。
死神の少女を振り切り蒼い炎を使う少女はある人物と待ち合わせていた。
「もう、追ってこないか……」
少女は月詠を鞘に収め《ありがとう。月詠》と言うと月詠は真っ黒い液体に戻り地面に落ちた。
「あの死神……わたしと同い年くらいだったかな……」
少女のいたであろう後方を眺め少女は呟いた。
「お〜〜〜い、魂の蒐集は終わったか?」
上空からの声にツインテールの少女は声の主へと視線を向けた。
「あ、お館さま〜〜」
上空にはかなりの旧型の小型飛空艇であるウイングバイパーにまたがったお館様と呼ばれたアゴにヒゲをたくわえた筋肉質な大きな男が乗っていた。お館様は筋肉で覆われた大きな体で大きく手を振り少女に向ける。
それに答えるように少女も大きく手を振る。
「どうだった? 順調に魂は蒐集できたか?」
強風を撒き散らしながらウイングバイパーを下降させお館様はツインテールの少女に訪ねる。
「ええ、まぁ……」
「ん、どうした? 歯切れが悪いな?」
少女はお館様のウイングバイパーの後ろにまたがりバツの悪そうに答えたのだった。
「死神に会いました」
「死神に? まさか、魂を取り返されたのか?」
捲くし立てるようにアスカに言うが『いえ、それは大丈夫だったんですが……』とアスカは答える。
「なんだ? どうしたんだ?」
「びっくりしました。わたしと同い年くらいの女の子だったんですよ。あの死神」
「なんだ? あれか? ちょっと親近感がわいたか?」
お館さまは若干ニヤつきながらアスカを横目で見る。
「いえ、そいうわけじゃないんですが……なんか、似合わなかったなって。死神になんかならずに普通にすごせばよかったんじゃないかなって」
夜空を見上げお館さまがかろうじて聞き取れるくらいの小さい声で言った。
「なんだ。その死神が気になるのか?」
お館さまはウイングバイパーを起動させ辺りに強風を起こしながら上昇していく。少女は死神がいるであろう後方を見つめていた。
「気になるというか……っ!」
「ま、待ってください!」
その時、空間から『闇天道』で空間転移してきた少女と目が合う。
「死神!?」
お館さまが死神の姿をするとツインテールの少女は『先に行ってて下さい!』とお館さまに告げウイングバイパーを飛び降りた。空中で黒い玉を具現化させそのまま握りつぶし黒い液体が月詠を形どる。
「しつこいよ! 死神ィ!」
屋根に着地し月詠を抜刀し、駆け死神に斬りかかる。
「魂を返してください!」
斬りかかった少女の刀撃を大鎌で受け止め、訴えるようにツインテールの少女に懇願する
「諦めなさいよ! あいつは願望機を使ったのよ!」
その訴えをツインテールの少女は一蹴する。
「その魂の浄化と救済、及び判決は死神たちの仕事です!」
「その仕事を放棄してる死神にわたしたちが代わって蒐集してるのよ! 文句があるなら管理局に言いなさい!」
刀を引き下から斬りあげるがそれも死神の大鎌に防がれ傷を負わせるにいかない。
「でも、でも! なんで殺さないといけないんですか!?」
「魂を抜き出すためよ!」
「そんな……強制的な行為は……やっぱり納得できません!」
大鎌をまっすぐ振り下ろしアスカに攻撃するが月詠で軸をずらされいなされた。体勢をくずした死神の少女にアスカはまっすぐに蹴りを放ち死神の少女の腹部に直撃した。
「アスカもういい! ここは撤退だ!」
ウイングバイパーを下降させお館さまの号令にアスカと呼ばれたツインテールの少女は刀を振り下ろしバックジャンプで距離をとる。
「アスカ乗れ!」
低空飛行でアスカのもとに寄ってきたウイングバイパーにアスカは飛び乗りそのまま上昇しその場を飛び去った。死神の少女は強風に阻まれながらも上空にいるアスカに叫んだ。
「待って! 待ってください! お願いです! 必ず魂の解放をしてください!」
死神の少女は『お願いです……魂を解放してあげてください……』と、まともに蹴りを食らった腹部を押さえ今にも泣き出しそうな声で空を見て呟いていた。
「なぁ、アスカ」
「はい?」
体をすこしずらしお館さまの声に耳を傾ける。
「今の死神。騎士がいなかったな」
「そういえば……」
死神と騎士とは死がふたりが分かつまで一心同体。その騎士がいなかった。アスカは少女と出会った時の事を思い出していた。アスカの記憶が正しいならばあの少女はひとりだった。
「騎士がいれば俺らやばかったな」
「確かに、そうですね」
「でも、なんだな。あの死神とお前なんとなく気があいそうだな?」
「ちょっ! なに言ってるんですか?!」
少女は身を乗り出しお館さまの横顔に訴える。
「ははっ! まぁ、もしお前が騎士に選定されたならいつでも『黒染めの桜』はその死神を歓迎してやるぞ」
その訴えにお館さまは豪快に笑い飛ばして少女に返した。
「何言ってるんですか? 死神は敵ですよ?」
「お前を騎士として選定した死神だ。きっと俺たちの心強い味方になってくれるさ」
「それが……あの先読みの予言したことですか?」
「はっはっ! まさか。あいつは『先読み』なんてたいそうなやつじゃないさ」
少女の口にした先読みという言葉にお館さまは再び笑い飛ばす。お館さまは大きな声で笑いウイングバイパーを加速させる。それに気づかなかったアスカは突然の加速に舌を噛みそうななりながらもしながらも『それもそうですね』とお館さまに返したのだった。
◆/管理局にて
「一人だけ……騎士にしたいひとがいます」
蒼炎の少女との出会いから一日たったある日。死神の少女は三つ年上の同じ赤い髪に灰色の瞳を宿した兄にそう告げた。ここは魂魄管理局三階にあるカフェルーム。少女は冷たいアップルジュースを一口すすり兄の『お前は騎士を誰にするのか決めたのか』という問いに答えた。
「そうか、ならば早急に会って騎士として宣告したらどうだ」
「だけど、そのひとはどこにいるかわかりません……」
「はぁ?」
少女の兄はコーヒーを口に運ぶ動作を止め少女の回答に疑問符を返す。
「どこにいるかもわからないヤツを騎士にしたいのか? どんなヤツだそいつは?」
兄はコーヒーを口に運び一口飲む。
「出会いは最悪で一方的でわたしの闇天道を一瞬で見破りなおかつ血界を砕き、使い魔を一瞬で倒し魂を奪うです」
「なっ、魂を奪う!? お前そんな違法者で、でたらめなヤツを騎士にしたいのか?」
コーヒーを噴出し。兄は妹を奇異の瞳で直視する。その兄の視線を妹は強い意志で受け止め『わたしはその人を騎士にしたいです』と兄に宣言した。
「本気か?」
「はい」
まっすぐな瞳で、決意の込めた視線で妹は兄を凝視する。
「だけどな、お前の『闇天道』と『封印血界』を破り魂を奪う違法者を騎士にできるとは思えんぞ俺は」
「わかっています。わかっているからこそ私はあの人を騎士として迎えたいんです」
「ずいぶんとそいつを買っているんだな?」
コーヒーをすすり兄は妹アリスティアの話を聞く。
「……あの人は管理局はふぬけと言い放ちました。正直ショックでした……」
「管理局が? ますます騎士としてふさわしくない言動だな。なんでそんなヤツを騎士にしたいんだ?」
「あの人は騎士としてふさわしいと思います」
「その理由は?」
「誰よりも優しくて、人の死を悲しみ受け入れるとても強い人だからです」
その時、少女はあの時出会った蒼炎の少女を顔を思い出していた。その顔は今にも泣き出してしまいそうな弱々しい、深い悲しみに満ちた表情だった。
「そんな理由で騎士にするつもりか? お前は」
妹から訊いた騎士の理由に呆れた兄はコーヒーを一口すすり鋭い視線を妹に送り言葉を遮る。妹は強い決意のまなざしを兄に向け『お兄ちゃんも甘い汁をすすってるの?』と問うが兄は『なんのことだ?』と返す。
「お兄ちゃんは甘い汁をすすってふぬけになっているの?」
「なにが言いたい?」
「お兄ちゃんは管理局をどう思ってるの?」
「ただの職場だ」
「……じゃあ、上層部をどう思ってる?」
「さあな?」
「不正をしてると思う?」
「さあな」
「願望機を私利私欲の為に使っていると思う?」
「さあな」
「……わかりました。失礼します」
死神の少女は席を立ち管理局について何も語らない兄に一礼をし、背を向ける。
「アリスティア。悪いことは言わない。お前は言われた通りに動けばいい」
「言われた通りに動けばいい? じゃあ、『願望機使用者に関わるな』というこんな伝令に従えというんですか? レティス一級執務官」
兄を役職で叫んだ死神の少女アリスティアは管理局からの支給品の小型通信端末を兄に突き出す。レティスはそれを受け取るとアリスティアは背を向け兄から去っていった。
小型端末は女の子らしいかわいいデコレーションが適度にほどこされていてその画面には『アリスティア三級補佐官に告ぐ。今現在感知した願望機使用者への接触をすることなかれ。この願望機への対応は上層部に一任されている。貴公は直ちに管理局で待機されたし』という通信メールが映し出されていた。
「気弱なお前が騎士として選んだやつだ。きっと力になってくれる。だけどな……アリスティア。お前が考えているほど管理局の闇の根は深いぞ……」
レティスは伝令メールを削除し小型通信端末をジャケットのポケットに静かにしまった。
「正義感の強いところと人を見る目は親父にそっくりだな……」
レティスはコーヒーを一口すすり自分の小型通信端末をカバンから取り出し起動させる。メール画面を起動させ受信メールボックス内にある『管理局』という名目のフォルダを開く。
そこには『レティス一級執務間に告ぐ。今現在感知した願望機使用者への接触をすることなかれ。この願望機への対応は上層部に一任されている。貴公は直ちに管理局で待機されたし』という通信メールが映し出されていた
「まったく同じ文面……やはり、管理局でなにかが起こっているか……」
レティスは何かの大きな流れを感じ取っていた。
管理局はいつもと変わらない日常、変わらない雰囲気を作り出している。
(箱庭だな……与えられたことだけを淡々とこなす人形……まあ俺も同じか……)
レティスは周りにいる同僚や上司を見て思う。そして自分も同じと再認識した。
「レティス、すまない遅れた」
「いいよ、ちょうど終わったところだ」
「?」
レティスの元に現れた男顔に眉をひそめレティスを見る。黒髪黒瞳の男はレティスと同い年くらいの青年で短い黒髪の顔つきが穏やかで、とても優しそうに見える好青年だった。
「どうだった?」
「やはり、レティスの思ったとおり登録にないシリアルナンバーの願望機があった」
男は先ほどまでアリスティアが座っていたイスに座りレティスと話し始める。
「そうかじゃあやっぱり……」
「ああ、願望機が『複製』されている可能性がある」
男はレポート用紙の束をレティスに差し出した。
「……一体何を考えている……そんなことをしてなんになる……」
レポート用紙の束を受け取ったレティスはその束をめくり内容を確認した。
「なぁ、お前は何を考えているんだ?」
「何のことだ」
レテイスは男を一切見ずにレポート用紙に書かれた内容を熟読している。
「お前、何か企んでいるだろ?」
「何のことだ?」
「俺はお前の騎士だ。命を共にするものだ」
レティスの騎士、ユキトはレティスを睨みはっきりと『俺はお前の剣だ』というがレティスは『わかっているさ』と答えるが相変わらず眼をあわせずに内容を読んでいた。
「わかってない。お前は優しいやつだ。きっと一人でやるつもりだろ?」
とぼけるレティスにユキトは引かずに食い下がる。
「何を言っているかわからないな」
真剣な表情でまっすぐな眼差しを一切無視しレティスはレポートの文字を目で追いかけている。
「わからなくて結構。だが、これだけは覚えておけ。何があっても俺はお前を護る。何があってもだ。それが……死神の騎士としての使命だ」
そして、ふたりは何も話さずにただ、沈黙が包んでいた。
「どうして……あなたはあの時泣きそうなくらい悲しい顔をしていたの……」
アリスティアは夜空を見上げ夜の街で出会った蒼い炎を使う少女の事を思い出していた。
夜の空に浮かぶ双子月は手を伸ばせば掴めそうなくらい大きく見えた。
魂を奪うもの【器と選定】・完
◆オマケ/邂逅への回帰
「神秘の万能薬?……これが……こんなのが神秘の万能薬だというの!」
傷つきながらも辿り着いたその神珠の森の最奥は骨と髑髏が埋め尽くす暗い暗い泉ある場所だった。
耳を澄ませば怨霊の断末魔の声が聞こえてきそうだった。吐き気が覚えるその場所をアスカはがただただ、呆然と立ち尽くしていた。
「アスカ! ここには神秘の万能薬はないぞ!」
「お館さま……って、そいつ!」
アスカの元に現れたお館さまが背負っていたのはあの時の死神の少女だった。だいぶ傷ついていて気を失っていた。
「ど、どうしたんですか?! その子!?」
お館さまに駆け寄り背負わされている死神とお館さまを交互にみた。
「どうやらデマの情報を掴まされたようだな。この死神はその事を知らせてくれたんだ」
「なっ! デマぁ!?」
険しい表情でお館さまを見て泉を睨む。
「アスカ、とりあえずここから出るぞ! みんな入り口で待っている」
「はっ、はい!」
「ま、待ってください……」
お館さまに背負われた死神の少女、アリスティアが目を覚まし弱々しくお館さまに言った。
「お、目を覚ましたか?」
「すいません……わたしを下ろしてください……」
傷だらけのアリスティアは弱々しくお館さまに告げた。
「おいおい、こんな気味悪いところに用なんてないだろう?」
心配そうに背負っている死神を横目で見た。
「すいません。わたしには見過ごすことはできません……」
そう言いアリスティアはお館さまの背中から降り。腕の傷から血を左手の人差し指で掬い一滴垂らす。その血が空中で停滞、膨張し大きな鎌へと変貌していく。血を媒体に具現化した鎌を手に取りアリスティアは泉へと鎌を杖代わりにしながら歩いていった。
アスカを横ぎる時、よろよろと歩いていたアリスティアがバランスを崩しアスカにもたれかかかってしまった。
「おい、ムリするなよ。お前さん『風王の導き』を通ってきたんだろ?!」
お館さまが駆け寄ってくる。
「えっ! あそこを通ってきたのあんた! 大丈夫なの?」
『風王の導き』と聞きアスカはアリスティアの顔をまじまじと見る。だがアリスティアはアスカに弱々しく微笑み返した。
「だ、大丈夫です……やっぱりあなたは優しい人ですね……思ったとおりです……」
アスカはアリスティアを心配そうな顔で見ている。そして、そんな顔で見ているアスカにアリスティアは笑顔を見せている。だが、その笑顔は心配かけまいとムリして作っている作り笑顔だとアスカはわかってしまった。
アリスティアはアスカから離れ『これから起こることに耳を背けないでください……』と言い残し再び泉に向かい歩き出す。泉に到着するも歩行を止めずにそのまま泉を、水面を歩いていく。お館さまとアスカはお互いに目を合わせるその目は驚きと疑問に満ちていた眼だった。
泉の中心まで歩いたアリスティアは大鎌を胸のあたりまで引き寄せ強く握り眼を閉じる。
空気が振動しアリスティアの背中からまぶしい血の色の真っ赤な光があたりを照らし黒い翼がアリスティアの背中に具現化する。
助けてぇぇぇぇぇ〜〜
暗いよぉぉぉぉぉ〜〜 寒いよぉぉぉぉぉ〜
ここから出してよぉぉぉぉぉ〜〜
「な、なにこの声……いや、気持ち悪い……わたしに囁かないで……」
両膝をがガクンと落ち両の手は耳を塞ごうと耳元まで持っていく。
「耳を塞ぐな。アスカ」
が、お館さまの一喝が耳を塞ごうとしたアスカの手を止めた。そのお館さまんも額に汗を流し顔は緊張に溢れていた。そして、アスカは両の膝に力を入れ立ち上がった。
「それでいい。見届けろ」
「はい……」
アスカとお館さまはアリスティアに視線を向けた。
「静まりなさいこの場に残る思念魂よ! わたしはお前たちを救済する死神だ!」
眼を開き毅然とした態度で言葉を紡ぐアリスティア。しかし、その足はぷるぷると震えていたのはアスカやお館さまには気づかなかった。
「これからお前たちを天へと導く。我の邪魔をするもの、我の従者に憑依するものがいたなら一生浄化できないものと知れ!」
アリスティアは大鎌を泉に浸し再び眼を閉じる。そして逡巡の後、眼を開き大鎌を振り上げ空を切り裂く。切り裂かれた空、それは残留思念魂。大鎌で斬られた思念魂は光を放ち小さな粒子となり上昇しながら消えていく。アリスティアは的確に思念魂を切り裂き光の粒子を上昇させていく。気づくとアリスティアは光に包まれていた。
「綺麗……」
アスカが不謹慎にも誰にも気づかれないほど小さな声で言葉を漏らす。魂の救済。それはまるで優雅に舞う踊り手のようだった。そして、魂を浄化するごとにアリスティアの黒い羽が一枚ずつ真っ白な羽になっていく。
舞うアリスティア。
浄化され光の粒子となる魂。
キラキラと輝き舞い上がる水の雫。
そのすべてがまるで神秘的で幻想的な光景だった。
最後の魂が浄化される頃にはアリスティアの漆黒の翼が純白の翼になっていた。
「ゆっくりおやすみ……それと……ごめんなさい……」
背中の純白の翼が飛び散りその羽が空を舞う。舞っている羽は光の粒子になり消滅する。翼の支えが無くなったアリスティアは水面に倒れ水中に吸い込まれていく。それを見たお館さまは泉に飛び込もうとしたが、それよりも先にアスカが泉に飛び込んでいた。
(冷たい……冷たいよ……体が動かないよ……)
水面から見える双子月がゆらゆらと揺れ形が安定しない。沈み行く体の制御がままならないままアリスティアは泉の底へと落ちていく。
(水の中から見る……双子月って綺麗なんだ……)
双子月を見ながらアリスティアは死ぬかもしれない状況でそんな事を思う。ふとよく見るとゆらゆらと揺れる蒼い月から黒い物体が落ちてきている。その物体はまっすぐにアリスティアの元まで寄ってくる。
(あっ……)
その物体は魚でもサメでも人魚でもない。黒くて長い髪を二つに束ね蒼い色の瞳を宿した少女だった。その少女は腕を伸ばし手を差し伸べている。
(わたしを……助けに来てくれた……)
手を差し出しアリスティアの腕を少女は掴む。
(もう、この手を離さない……)
そして、アリスティアの意識が闇へと堕ちていった。
◆
「わたしの……騎士になって……ください……」
目覚めないアリスティアは先ほどから寝言でこの言葉を繰り返し呟いていた。
「なぁ、アスカ」
「はい?」
「やっぱりこの言葉、お前にいってるんじゃないのか?」
「わかりませんよ。本人が起きないと真意がわからないですし」
アスカはお館さまをチラッと見て前方に視線を移す。
「でもなぁ、どう考えても俺に言ってるとは思わないぞ」
「そんなのわかりませんよ?」
「でもなぁ、お前が助けてからその子、手を離そうとしないじゃないか?」
お館さまはアスカとその手を繋いでいるアリスティアを交互に見る。
「う〜ん……」
泉の中からアリスティアを助け出してから入り口目指し歩き続けて約三十分。気を失ってからアスカの手を離そうとしないアリスティアがお館さまに背負われていた。アスカはというとなんとか離そうと努力したがそれでも離す事ができず結局手をつないだまま森を歩いていた。
「もしかして、実はもう起きてるんじゃないですか?」
そういいアスカはほっぺをつねる。アリスティアは『う〜ん、う〜ん』と唸るだけで起きる気配はなかった。今度はぶんぶんと手を振り回すがそれでもしっかりと握られて離れなかった。
「なぁ、試しに騎士になりますって言ったらどうだ?」
「ちょっ! なにいってるんですか?」
驚きの表情でアスカはお館さまを見る。
「もしかしたら離れるかもしれないぞ?」
「ホントですかぁ〜〜」
「いいから言ってみ」
半信半疑のアスカ。面白半分のお館さま。怪訝な面持ちでお館さまとアリスティアを見て、そしてアスカはひとつ咳払いをし口を開き言った。
「わたしは、あなたの騎士になります」
「……………………………………………………………」
「……………………………………………………………」
数秒の沈黙。
「やっぱり、離れないか」
「ですよね」
そしてふたりは眼を合わせ『あはは〜』と笑いあう。
「今の言葉……本当ですか……」
「うおぅ!」
「ひゃあ!」
ふたりがそれぞれの驚きの声をあげアリスティアを見る。
「わたしの騎士になってくれるって……本当ですか……?」
「ちょっ! 眼を覚ましたならこの手を離しなさいよ!」
アスカは立ち止り手を離そうとするがアリスティアは一生懸命抵抗し離そうとしない。
「答えてください……」
「なにがっよ!」
「わたしの騎士になってくれますか……?」
満身創痍のアリスティア。だが強い意志と凛と眼差しを向ける。アスカは何も答えずその眼からそらしうつむく。
「あなたが必要なんです……あなたを騎士にするまで……この手を離さない……もう逃がさないです……」
「……………」
それ以上何も言わずにアリスティアの意識は眠りに落ちた。
「あっ……」
小さく呟くとスルりとアリスティアとアスカの手が離れる。
「離れたな」
「……………」
離れた自分の手を見つめアスカは再び手に取り強く握り返す。
「いいのか?」
ふたりは森の入り口を目指し再び歩みを開始する。
「わたしはまだ、騎士にならないって答えてないですから」
「お前を必要としているぞ」
「わがしは人殺しです。騎士の資格なんてないです」
「だが、それは願望機を使用した者がいたからだ。お前は正しい事をしている」
「でも、人殺しですよ」
「願望機を使用したものその時点で人間ではない。いずれ人間ではなくなる。そうなったらもう遅いんだ。オレたちは死神じゃない《殺す》という方法でしか魂を救済できない」
「そうですけど……」
アスカはチラッと眠りに落ちているアリスティアを見る。
「わたしが騎士になると……管理局の目が黒染めの桜に向くんじゃ……」
「そうだな。それが問題だな……」
「この死神が管理局から離反するかして管理局と離れてくれるといいんですけどね。そうすれば人を殺さなくても済むのに……」
アスカは伏し目がちに悲しそうに呟いた
「……」
その問いにお館さまは何も言わずにアスカの頭を乱暴になでた。
「お〜〜〜〜〜〜い! お館さま〜〜〜〜〜〜〜〜! アスカ〜〜〜〜〜〜〜! こっちだ〜〜〜〜!」
森の入り口に到着するとすでのみんなが集まっており大きく手を振り自分たちの場所をふたりに示す。
「この死神どうしますか?」
アスカはもう一度ほっぺをつねる。『う〜ん、う〜ん』と返ってくるだけだった。
「連れて行くさ。ケガ人を放っておくワケにもいくないしな」
「いいんですか?」
「お前はイヤなのか?」
「う〜ん、でも死神ですよ?」
「ケガ人に死神、死神じゃないは関係ないだろ?」
「そうですけど……」
「イヤならその手を離せ。こいつを置いていく」
お館さまはアスカとアリスティアを繋いでいる手を見てアスカを見た。
「……それは……」
答えに詰まったアスカの手はアリスティアの手をしっかりと握っていた。
「お前はやさしいヤツだ。ケガ人を置いてはいけないだろ? じゃあ決まりだ。いいな」
「……」
半ばお館さまに押し切られた形になったがアスカはイヤではなかった。返事しなかったアスカをしり目にお館さまは早足でみんなの所へと向かった。アスカも手を繋いでいる以上一緒に歩く。
そして……アスカはアリスティアの手を離すことはなかった。
三週間後。
「遅かった……もう理性を失っているわね……」
「そうですね……」
夜空に双子月が輝く街。その一軒家の屋根の上でアスカとアリスティアは視界に入り込んだヒトとしての理性を失いつつある願望機使用者を見据えていた。元は人間だが今は破壊衝動が先行しており周りの壁を破壊し、人々に危害加えていた。
「これ以上街を破壊されないよう短期決戦でいきましょう」
「オッケイ、じゃあ、行って来る! 魂の救済お願いね」
「はい!」
アスカは屋根から飛び降りヒトだったモノへと対峙する。
「破壊活動は終わりよ!」
アスカは蒼炎を右の手のひらで発火させそのまま空中で停滞させる。
「いくよ。月詠」
その言の葉が術語となり蒼い炎は煌きはじけ片刃の刀に姿を変える。
「アスカさん! 五分稼いでください!」
「わかった!」
アリスティアの願いにアスカはチラリとも見ずに返事をし、ヒトだったモノへと駆け出す。
ヒトだったモノの強烈な拳の振り下ろしをアスカはジャンプでかわす。そして、そのまま刃を返し刀背打ちをヒトだったモノの脳天へ食らわせる。
「うごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!」
頭を抑えもだえるヒトだったモノにさらに追い討ちをかけるために着地したアスカは疾走し月詠を一文字に薙ぐ。脇腹を捕らえた一閃に苦悶の絶叫を上げるヒトだったモノ。
「ウリリィィィィィィィ〜〜〜〜!」
ヒトだったモノは走りアスカに向かい回し蹴りを放つがアスカは軽々とバックステップでそれをかわす。さらに拳を振り上げアスカに向かい殴りかかるがそれも軽々とかわされてしまう。当たらない攻撃に苛立ったのかヒトだったモノは攻撃速度を速める。
「ほらほら、どうしたの? 当たらないよ」
アスカの挑発にヒトだったモノは拳だけだった攻撃に蹴りを織り交ぜて行った。
(どうやらまだ言葉は理解できるみたいね……)
「アスカさん!」
アリスティアの叫びにアスカは後方にジャンプ。アスカという壁がなくなるとその後ろから漆黒の翼を羽ばたかせたアリスティアが低空飛行で近づきヒトだったモノへと大鎌を横に薙ぐ
大鎌で斬られたヒトだったモノの胸から複雑な模様が描かれた光の魔法陣が展開されその中心から真っ赤な紅い蝶がヒラヒラと優雅に飛び立った。
「アリス!」
その声を聞いたアリスティアは漆黒の翼を羽ばたかせ上空へと移動。
「彷徨える魂よ! お前の拠りべはここよ!」
アスカは取り出した白い球体をとりだし紅い蝶をその白い物体。正確には白いリンゴに着地させる。すると、紅い蝶はスゥーっと白いリンゴに吸い込まれ消えいく。
「これでよしっと! アリス願望機使用者は?」
「大丈夫です。魂は取り出しもうヒトにもどってます」
アスカはそれだけを聞くと『じゃあ引くわよ! もうすぐ管理局が来る!』とアリスティアに言い身を翻し走り出す。
「あ、待って下さい! 管理局のヒトが来れば保護してくれますので。じゃあ、失礼します」
アリスティアはヒトに戻り気を失った男に律儀に頭をさげ漆黒の翼を羽ばたかせその場を後にする。
「いくよ! 早く乗って!」
「はい!」
路地裏に隠してあった小型飛空挺ウイングバイパーを起動させ上昇する。
「スピードをフルまであげるからしっかりつかまっててね」
「はい!」
アリスティアはアスカの後ろに座り腰をしっかりと抱きしめる。
そして、二入は夜の空へと消えていった。
◆/???
「願望機使用者の魂は回収できたか?」
「いえ、それが……」
歯切れが悪く中年の男は上司だろうか老人の顔色を伺い話を切り出していた。
「なんだ? どうした?」
「それが……すでに管理局の者が到着したときには魂を抜かれた後でして……」
「なんだと」
「意識不明の使用者は保護したのですが……いかがなさいますか?」
「意識が戻り次第放り出せ。願望機の魂がなければ用はない」
「は、はい……では、そのように伝えておきます」
中年の男は高貴な服を纏った老人に頭をさげそそくさと部屋を後にした。老人は顔にしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにし怒りのあらわにしていた。
◆オマケ/邂逅への回帰 完
この作品を最後まで読んでいただいてありがとうございます。楽しんで頂けましたでしょうか?間宮冬弥です。
最終話ということでいろいろと詰め込んだら少し長めの話になってしまいました。本当ならもう少し短くしたかったんですけどね……
一応これでひとまず完結です。死神の騎士になった(?)アスカと死神であるアリスの物語は機会があったら書きたいと思います。
ちなみにオマケに登場するアリスティアはすでに管理局を離れていますのでアスカと行動を共にしています。その部分を含めいずれまた。
では、少し長いあとがきとなってしまいましたがこれにて失礼します。




