41 お嬢様は画伯?
テラスから奴隷たちを眺めていると、ひときわ目立つ緑色の長髪の女剣士が目についていた。
遠目に見ても無愛想なのは相変わらずだったが、受け答えはしているようで以前と比べていい傾向にも思える。
ただし、私以外という話だけど。
「それにしても、あの人なんで普通にまだいるの?」
「さあ、なぜでしょうか?」
「そう思うわよね。逃げられないのはわかるけど、剣士の腕前はバナンの報告からしても悪くはないみたい。そうじゃなくて、なんで一緒に仕事しているのよ」
「あれは、バナンのせいですね」
クロが言うには『暇そうだな。ついてこい』で、魔物討伐に行った。
いや、意味がわからないから……そうは、ならないでしょ。
「でも、相変わらず、村のことについては何も答える気はないと……はぁ」
屋敷に戻ってきてから早二週間が過ぎていた。
子供たちは元気を取り戻し、ある程度仲良くもなれた。魔法は使わないことを前提に首輪も外した。
男の子がクレス。女の子がティア。
エルフたちは、成人の儀を行うまでは名前が与えられないというものらしい。
とはいえ、私にとっては名前がないと不便だったから、二人に名前をつけた。
その名前を気に入ってくれて何よりだけど……
「見ての通りエルフの剣士で、名前はルキア。私が分かっているのはこの程度だし。あと、今のところ動きはなさそうだけど……何か企んでいると思っていたほうがいいのかしら?」
「何も対策ができない今は、警戒をしておくのがよいでしょう。エルフを引き入れて二週間……そろそろ、屋敷の内部はすでに把握済みと言ったところでしょうか?」
クロの言いたいことも分からなくはない。
私の寝込みを襲うこともできるし、この環境ならやりようはいくらでもある。今は粗末とは言え剣を携帯していることから、始めようと思えば始められるはず。
「本当なら遅いぐらいなのに……そんなことよりも、いつになったら協力してくれるのよ。あーもー」
何も話をしてくれないくせに、バナンと一緒になって冒険部隊と一緒に行動するって何よ!
もしかして、あの強さにでも惚れたのか?
いや、それはな……ど、どうなんだろう? 男性のほうが多いのは確かだけど、そういう話も一緒に住んでいれば出てくる可能性もあるよね?
そもそもの話……奴隷って結婚とかどうなるんだ?
絶対無理なんだろうな。
この世界にいる奴隷商人ならともかく。私ならどうするんだろう……そんな話が来たらどうすればいいんだ!
「お嬢様。髪をそのように乱暴に扱ってはいけません。直しますのでお部屋にお戻りください」
いったん余計なことを考えるのはやめよう。
今はエルフたちをどうするかだ……ある程度好きにさせているとはいえ、彼女の周りには常に三人ほど見張りを付けている。
当たり前のように監視されているにもかかわらず、ルキアは冒険部隊の手助けをしている。
その報告を受け、彼女がどんな思惑を持っているのかはわからなかったけど、問題もとくになさそうなので今のところ静観をしている。
というよりも打つ手がない。闇雲にエルフの集落を見つけるのは、この広い大陸ではほぼ無理だと思われる。
それに魔法がある世界のため、ある条件を満たさないと辿り着くことができない仕掛けのようなものがあればなおさらだ。
友人も、まあゲームの話だけど、エルフの村には特殊な結界がどうのと説明していた。この世界には魔法があるから、そんなものがあれば探すことが徒労でしかない。
子供のエルフは、屋敷にいる子供たちと仲良くなっているのは悪くないのだけど、あまり仲良くなりすぎても別れるのは辛くなるというのに……ルビーたちは何も言ってくる様子もなかった。
その報告を受けてさらに一週間が経ち、ルキアは私が話しかけても答えてくれる程度にはなっただけで、核心となる話をすれば何も言わず部屋を出ていく。
そのため、依頼をこなしつつ情報収集をお願いしているが、エルフを見たという情報すらどこにもなかった。
あの奴隷商人を脅すのも考え、もう一度あの場所に行くということを提案すれば全員に拒否される始末。
三週間も経っているのに、まだ早いと言われた。もしかすれば、私が思っている以上に、私が移動するということは経費の負担が大きい?
とはいえ……うーん、あ、そうだった。すっかり忘れていた。
「ルビー。ちょっと出かけたいのだけど」
「どちらへ行かれるのですか?」
「木材加工所と雑貨かな? 前に話をしていたオセ……遊具のことよ」
「かしこまりました。馬車の準備をしてまいります」
「たまには歩きでもいいのよ?」
出ていこうとするルビーが立ち止まり、鋭い眼差しが私を貫いてくる。
「先ほど、戯言のようなことが聞こえましたが?」
「な、なんでもない、です」
歩くには確かに遠いと感じるけど……そんなに怒るようなことなの?
これと言って今の私にできることはないのだけど、ただ遊んでいるわけじゃない。
二日前に馬車で街に行ったときに、ふと遊具の話をしていたことを思い出したので、夜ふかしをして完成させた設計図。
将棋は元々木材で作られているけど、オセロだって代用はできる。
トランプに関してはほぼ不可能だと思う。ギルドカードがあるけど、アレ金属プレートなんだよね。だけど、紙は一般的に出回っているので、いつか作れる気がしている。
代用になりそうな物をまだ見ていないだけかもしれないけど。
私的にはもっと楽しめる物も当然ある。
しかし、アレを本当に作ってしまってもいいのだろうかと……私が発案したものじゃなくて、前の世界ではごくありふれたものだし。
「うーん。しかし、迷うのよね……争いのきっかけにもなりそうだし、この娯楽のない世界にも普及させていいものなの? というか、なんでこの世界にはこんなにも娯楽がないのだろう?」
オセロであれば子供から大人まで、すぐにルールがわかるし楽しめるだろう。
将棋はルールを、どのように覚えさせるかが問題でもある。
これだけ何も遊ぶということのない世界で、皆は一体何をしているのかしらね。
売りさばいてお金儲けは考えていないし、駒さえあれば私たちが遊ぶために使うのなら問題はないわよね。
窓の外から子供たちのにぎやかな声が聞こえていた。庭では奴隷の子供たちと一緒に、エルフの子供も同じように走り回っている。
私が教えた鬼ごっこをしている。
怪我がないようにか、二人ほど見守っている。
この世界では遊具のこともそうだけど、子供にも遊びという概念がないのだ。
私は、将来を見越して勉学を与えた。ただ私の考えとは裏腹に、あまりにも度が過ぎた教育を施していた。
午前は勉学、午後は自由時間として子供たちを自由にさせたのだけど……皆は使用人の手伝いを率先して始めていたのには、正直言って選択を間違ったのでは? と、思ってしまった。
だから、遊びを教え限られた時間の中ああやって過ごしている。
それでもたった二時間しかないのだけどね。もっとあってもいいと思う。
「それにしても、子供というのはどこの世界でも同じなのね」
「では、お嬢様もご一緒されてはいかがですか?」
「ルビーは私に、あの中に混ざれというの? いくら見た目が子供だからと言って、この衣装で走り回らせるの?」
私の服はどれもこれもが、ふわふわしたもので走り回ることはできない。
走ろうとすればスカートがめくれ上がってしまい、その度にルビーに説教される。ズボンはとっくに処分されているし、買い足してほしいと提案しても、いつもの睨みで何も言えなくなってしまう。
「失言をしてしまい申し訳ございません」
「いいよ。まあ、私の服装がズボンなら考えるけどね」
「お嬢様。グセナーレ家のご令嬢として……」
そこから先のことは分かっているから。
今までに何回似たようなことを聞かされたと思っているのよ。
「はいはい、分かってます。次期当主として清楚と可憐さを身につける必要がありますってことでしょ、ただ私には、欠片もないように思うけどね。そんなことよりも、馬車の準備はできたのかしら?」
「は、はい……これは? もしかしてお嬢様?」
私のテーブルに置いてあった設計図というほどではないが、渾身の図面でもあった。
「大体の説明書なんだけどね。あとは、作る人と一緒に話し合うしかないよ」
「そう、ですか……お嬢様。よろしければ、私にご説明していただければ、模写いたしますが」
「なんで?」
よくわからないため息を、ルビーは額に手を当ててついている。
この設計図の何が問題なの?




