29 お嬢様と領主様
ラズバード様と爺さん……もとい、お父上が親子?
「ん? あれ?」
それってつまり……いや、気のせいよね?
「イクミ、うまくやっているようだな。儂の後継としてこれからも励むがよい」
「それよりも、ラズバード様。先ほどの父上って」
そうではないと信じたいところだけど……確認する必要があった。
「おや、知らなかったのかい? 私はイクミの兄だよ。よろしく、私の可愛い妹よ」
「なっ!? なにーー!!」
咄嗟に口を閉じたが、二人は何とも楽しそうに笑っている。
ルビーからのお叱りも今のところなさそうだ。
お父上の息子が、目の前にいるこの人。
ということは、私は今、初対面の人に妹と呼ばれている……ルビーが隠していた手紙にこの人のことも書いていたよな?
ルビーを問い詰めようにも、返り討ちが待っているだけ。
苛立ちを消すように大きく息を漏らす。
それにしても、私の義理とはいえ兄が領主をしているとは……それだと、何でグセナーレの家には私が次期当主に?
家名も違うから、兄は婿養子なのかな?
「し、失礼しました」
「うまくいきましたね。ルビーも」
「はい、恐縮です」
「ところで、イクミは幾つになるんだ?」
ルビー? 恐縮って何?
じっとルビーを見ていると、何やら楽しそうに微笑んでらっしゃる。
そうだよね、さっきの様子だと面識もあるみたいだったし最初から教えてくれてもいいよね?
ラズバード様の質問にも答えず、私はそっぽを向いたまま怒っているアピールをする。
「来年の一月十日で、十一歳になられます」
ルビーが答えちゃうのかよ。
私も知らなかったからちょうどいいけどね。
この姿が十一歳なら、あと数年もすればそれなりに成長できるはず。
もう少しの辛抱ね。
「ライオたちと近いな。どうだろう父上、ライオの婚約者にでもお考えですか?」
婚約者?
婚約者だと?
ライオ……初めて聞く名前だけど、二度と覚えていたくもない。
当人放置で何を話を進めているのよ。こちらとしては迷惑なんですけど。
面白そうに笑っているクソジジイことお父上を思いっきり殴り飛ばしたい。私の力ではどうにもならないけど、この怒りをぶつけたい。
対抗できる手段があるのなら……クロなら使えるか?
「どうじゃ、イクミ?」
クソジジイめ、私の考えがわかっていてこんな質問を……
「お断り致します。絶対に無理です。嫌です」
「貞操の話となると相変わらずのようじゃな」
呑気に笑っていたかと思えば、目つきが変わり私と同じ目線に合わせるため腰をかがめていた。
「イクミ、アレを処分したそうじゃが理由を聞いてもよいか?」
「彼らに更生は不可能と判断したため、現状において飼う資格すら感じませんでしたので処分を命じました」
「更生を望んでいたのか……なるほどのぅ」
「犯罪奴隷の更生とは、実におもしろい考えだね。父上がこの子を養子にしたのは驚きましたが、どこまで見越しているのですか?」
見越している? 私に何かを期待しているのだろうか?
お父上は笑って誤魔化しているようだけど。この二人も私に何かを隠している。
隠しているということは、聞いたところで答えてくれるはずがないわね。
今はそんなこと気にするよりも、お父上と領主である兄に出会えたので、いい機会だった。
私が住んでいる屋敷は今となってはかなり手狭に感じる。屋敷の周囲を利用し、拡張などの話をしていく。二人はとくに考えることもなく、私の好きにしていいと許可が下りる。
また、私がどこまでの権限があるのかも、明確にすることもできた。
「お嬢様。お飲みになられますか?」
「ありがとう、ルビー」
「そうだ、イクミ。君に頼みたいことがあるのだ」
ラズバードお兄様は、少しだけ真剣な表情へと変わる。
私に頼み事? 内容がわからないまま受けるのは危険な話になりそうね。
「私にですか? 内容によりますね。私にできることはかなり限られていますから」
「そんなことはないとは思うけどね。ま、じきにわかると思うよ」
何かそんなにおもしろいのか、口元に手を当てて笑っている。
そんな仕草に私は、少しだけムッとしてしまい、それが顔に出ていたようで、ポンポンと頭を撫でられる。
「いや、すまない。ここから東の森にどうやらオークたちの集落があるらしい。街にいる冒険者も何人かやられている。そこで、君の奴隷にお願いできないだろうか?」
私の奴隷のことを知っている。ルビーの様子、そして、私の義理の兄とあのお父上。情報が伝わっていても当然の話よね。
オークならバナンたちで何度も倒している。だからと言って即答できる話にはならない。
冒険者たちが被害に遭っているという点を考えて、オークがどれだけの数がいるのかが問題よね。
「内容はわかりましたが、帰ったらバナン、冒険部隊の皆と相談してから決めます。ですが、必ず討伐できるとはここでは答えることはできません」
「うん、それで構わないよ。それじゃまた」
ラズバード……なんとかさん。やっぱり、ラズバードお兄様というべきかな?
とりあえず長いから兄様でいいや。私たちを残して会場の広間へと歩いていった。
お父上もいつの間にかいなくなっていて、用のない私たちは隅の方へと移動していく。
「ルビー。私は怒っている」
「何でですか?」
「領主が兄様ってことを黙っていた。となると、お父上は元ここの領主で、あの屋敷にいたのは、悪徳奴隷商人から一時的に取り上げていただけ、ってところでしょ?他にも色々と隠していることがあるよね?」
「私からは何とも。ですがお嬢様。逆の立場にあったとしておいそれと話せますか?」
「それはそうだけど……あーもー、納得いかなーい」
あの二人は絶対に碌な大人じゃない。
裏で何やってるか分かったものじゃない。
しかし、私の現状からしても反旗を翻すにも危険でしかない。
やっぱりなんか腹が立つー!!
「イクミ様。そのように暴れては危ないですよ」
「もしかして、クロも知っていたんじゃないよね?」
兄様とよく分からない言葉のやり取りをしていたことを思い出して、クロを問い詰めていく。
焦っている様子からしてかなり怪しい。
「わ、私ですか? 何を言っているんですか、私も今日初めて知ったのですよ」
「兄様との会話がおかしかったじゃない」
「あれは、私の実力を試さんばかりに殺気を発せられましたので、それだけです。ほ、本当ですよ」
「本当かしら……」
真意はまだ分からないけど、耳を下げている様子からしてもこのまま問い詰めるのも可哀想ね。
本当に問い詰めたい人もいるのだけど、相手が悪いのよね。
ルビーと目が合うも、私のことを察してか目を伏せたものの口元は笑っているようにも見えなくもない。




