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現実は、台本通りになんてならない〜中学時代に書いた黒歴史物語の世界に来てしまった話〜  作者: 瑠美


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第45話 顕現

 今朝も稽古が行われていた。その稽古場から少し離れた、背の高い生垣の陰。

人目につかないその場所に、二つの影がひっそりと身を潜めていた。


「本当にここでお邪魔にならないかしら。」

小さく囁くリリアーナに、隣のエリカも同じように声を潜める。

「大丈夫ですって、ここなら見つからないはずですし。っていうか、まさか本当に見に来るとは思いませんでしたけど。」

半ば呆れながらも、二人の視線はすでに訓練場の中央へと釘付けになっていた。

 昨晩、アルベルトとレオンの稽古の様子を見たいとつぶやいたリリアーナ。エリカが冗談半分で、ここでのぞいてみてはと提案したのだが、朝リリアーナの部屋を訪れると、行くわよとすでに準備万端で待ち構えていたのだった。


 さて、2人がのぞいている先では、アルベルトとレオンが、再び剣を交えていた。

鋭い踏み込み、迷いのない一撃、それを受け流す滑らかな動き。打ち合うたびに鳴り響く金属音は、ただの稽古とは思えないほどの緊張感を帯びており、見る者の呼吸すら無意識に奪っていく。


「……すごい。」

思わずこぼれたエリカの声は、かすかに震えていた。

 普段のレオンは、どこか飄々としていて、何を考えているのか掴めない男だった。けれど今、目の前で剣を振るうその姿はまるで別人のようで、無駄を削ぎ落とした動きの一つ一つに、圧倒的な集中と研ぎ澄まされた感覚が宿っている。

 その一方で、アルベルトもまた一歩も引かず、食らいつくように攻め続けていた。


(アルベルト様も、こんなに......。)

いつも冷静で理知的な印象の彼が、ここまで必死さを剥き出しにしている姿を見るのは初めてで、リリアーナも思わず息を呑む。


 剣と剣が交差するたびに、二人の距離は縮まり、そして弾かれる。その一連の流れがあまりにも美しく、気づけば時間の感覚すら曖昧になっていた。


 やがて一度、動きが止まる。休憩をとっているようだ。アルベルトは肩で息をしながらも、どこか満足そうに笑い、レオンもまたそれに応じるように軽く口元を緩めた。


 その瞬間。先ほどまでの張り詰めた空気が嘘のように和らぎ、まるで気心の知れた友人同士のような穏やかなやり取りが交わされる。

 それを見ていたエリカは、思わずぼんやりと呟いた。

「なんか、ずるいですよね。」

「何が?」

「普段あんな感じなのに、ああいう顔もするなんて。」

自分でも何を言っているのか、どういう意味をもって言っているのかが分からないまま、視線は無意識にレオンへと向いている。すると、隣からくすっと小さな笑い声が聞こえた。


「もしかしてエリカ、レオン様に見とれているのではなくて?」

いたずらっぽくそう言われ、エリカは一瞬固まる。

「は!? ち、違いますって!!」

思わず声が大きくなり、慌てて口を押さえる。

「確かに、剣術は素晴らしいとは思いますが、普段のあの圧のある笑顔とは違うんだなって思っただけです。」

勝手に口が動いて、言い訳のように言葉がどんどん出てくる。そして顔が熱い。自分でも分かるくらいに、頬が赤くなっているのが分かった。リリアーナはそれ以上何も言わず、「そう」とただ少しだけ楽しそうに微笑むにとどめた。


 その時だった。ふと、空気が変わる。

 風が、止まった。葉の擦れる音も、鳥のさえずりも、すべてが遠のいたような静寂。



 違和感に気づいたのは、エリカが先だった。視線を下げると、自分たちの足元に――



ありえないほど濃い「影」が広がっている。ゆっくりと、それは形を持ち始めた。

地面から浮かび上がるように、黒が集まり、凝縮されていく。

「リリアーナ様、これ……。」

言い終える前に、それは人の形を成した。


だが、それは人ではない。黒い鎧に身を包んだような、無機質な存在。顔のあるはずの場所には何もなく、ただ闇が塗りつぶしている。

――黒い兵士のような。それが、そこに立っていた。


「っ……!」

思わず息を呑んだ瞬間、リリアーナがとっさに立ち上がる。

「エリカ、行くわよ!」


だが、エリカの足は、動かなかった。

初めて見る、影が形を持った存在。その異様さと恐怖が、身体を完全に縛りつけていた。

(動けない。)

脳では理解しているのに、指一本すら動かない。

「エリカ!」

リリアーナがエリカの手を引こうとした、その瞬間。黒い兵士の身体から、影が伸びた。

まるで意思を持つかのように蠢き、一本の長い腕となってリリアーナの身体に絡みつく。


「……っ!」

逃れようとするも、その力は異様に強く、身動きが取れない。

「離しなさい!」

だが、影はびくともしない。

そして、もう一本の影が、ゆっくりとエリカへと向かって伸びてくる。

それは途中で形を変え、巨大な手となった。


覆いかぶさるように、ゆっくりと。確実に、エリカを包み込もうと迫る。


(どうしよう……どうしよう……)

頭の中で警鐘が鳴り響く。それでも、身体は動かない。視界が黒に覆われていく。鼻先が今にも影に触れそうになったその時。



ギィンッ!!



鋭い金属音とともに、巨大な影の手が真横から切り裂かれた。


裂けた闇の隙間から、差し込む光。


そしてその向こうに――


剣を振り抜いた、ひとつの影が立っていた。

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