第46話 封印された階の扉
地下七階。
その場所は、かつて水科が国家レベルの研究機関と極秘に開発を進めていたと言われる、
いわくつきの実験階層だった。
一方その頃、水科敬司は地下七階とは別のフロア──実験観測用の制御室に移動していた。
ガラス越しに設けられた観測モニターの前で、彼は一人、高野たちの動きを記録している。
「……“鍵”が揃った。だが、ここはまだ試作段階にすぎない」
水科にとって、この一連の騒動は“計画通り”だった。
自らが危険を冒す必要はない。
あくまで観測し、最適なタイミングで介入する。それが彼のやり方だ。
扉の前に立つ高野たちの姿を見つめながら、彼は薄く笑う。
「さて、君たちはこの世界の“境界”をどう選ぶのか──」
三人は無言のまま通路を進む。足音だけが、ひたひたとコンクリートの床に響く。
その先、鋼鉄製の厚い扉の前で、三人の足が止まった。
「ここです。通常の社員カードではアクセスできません」
千尋がスーツの内ポケットから、虹色に輝く特別仕様の認証キーを取り出す。
読み取り装置に触れた瞬間、重く鈍い電子音が響き、数秒後に「カチリ」という機械音がした。
ゆっくりと、扉が開く。
──その瞬間だった。
吹き抜ける空気が、明らかに異常だった。
冷たいわけでも、熱いわけでもない。
“異質”な気配。
まるで、空間の法則そのものがそこだけ違っているような感覚。
「ここが……扉の、前か」
高野が小さく呟いた。
そこには、円形の空洞があった。
天井まで吹き抜けになった巨大な空間。
中央には、浮遊する淡い蒼光の結晶が脈動していた。
それはまるで──呼吸をしているかのように、静かに光を放っている。
「反応してる……」
ユイが、指先で胸元を押さえる。
「……魔力が、呼応してる……」
千尋も、息をのんで一歩引いた。
「完全に開きかけてるわね……でもまだ、閉じられる」
そして。
──気配。
高野は、確かに“それ”を感じた。
かつて異世界で味わった、あの底知れぬ“神性”の気配。
「まさか、向こうから……見てる?」
蒼い結晶が、ふっと脈動を止めた。
次の瞬間、何かが──始まろうとしていた。
(続く)




