表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
48/96

第47話 水科敬司/記録と境界

静かな部屋だった。

 地上の喧騒も、地下の魔力反応も、ここまでは届かない。

 ただただ、記録装置のLEDが淡く点滅し、壁面のモニターが無音で揺れていた。


 水科敬司は、データを見つめていた。

 その目は冷静で、だがその奥には、過去に囚われたような影が宿っている。


 ──異世界。


 それは彼にとって、未知の冒険でも憧れでもなかった。

 事故。失策。喪失。


 「……あの瞬間、全てが変わった」


 五年前、初期試験段階で“扉”が不安定化し、観測班の一部が巻き込まれた。

 彼自身も、数週間──異世界にいた。


 森の中だった。言葉の通じない人々。法則の異なる空気。

 魔力。


 感覚が鋭くなり、空気が重たく、精神が削られていくようだった。

 それでも彼は、科学者として冷静に観察し、記録した。


 「“適応”できる人間がいる。だが、同時に、狂って戻れぬ者もいた」


 そして直哉──


 あの事故で、“向こう側”に取り残された、唯一の仲間。

 共に理論を築き、次世代の可能性を語り合った相棒。


 「私は……取り戻したいと思った。科学の手で、再現し、回収する」


 それが、今の“扉計画”の核心だった。


 魔力反応、帰還者の生態、高野陸の異常値──

 全ては水科の演算と観測の中にあった。


 「だが……問題は“予測不能の要素”だ」


 神楽坂柚葉。

 そして──葛城ユイ。


 扉の観測ログには、彼女の魔力パターンが初期から登録されていた。

 にもかかわらず、誰も彼女を“帰還者”として認識していない。


 水科は、かすかに目を細めた。


 「──やはり、あのとき……あの仮面の巫女は、君だったのか」


 その真偽を問いただすつもりはない。

 ただ、記録と結果が彼の全てだった。


 「……そろそろだな。結晶脈動値、閾値突破まで15秒」


 彼は席を立ち、白衣を翻す。


 “境界”が再び揺れる。


 それが誰かの願いであっても、呪いであっても。


 水科敬司は、扉の前に立ち続ける。

 過去と、結果と、世界の“次”のために。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ