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聖縁剣  作者: フジスケ
第3章 Blood Eyes
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第41話 旅立ち

 申し訳ありません。7時に間に合いませんでした。

 それでは遅れましたが、第41話、ごゆっくりお楽しみください。

 ギルドを出て数分後。旅の荷物はほとんど【ストレージ】に突っ込んであったので、ほぼ手ぶらに近い状態の2人が国境の門の前に着くと、既にチサキがバックパックチックな背負い袋を地面に置いて待っていた。


 服装も、アロイスに操られていた時の黒尽くしとは変わっている。色こそ変化がないものの、女の子らしい丈の短い着物のような、ゲームなどで良く目にするタイプのくノ一装束になっていた。


 しかし操られていた時の身のこなし方から、実用性は明らかである。おふざけ有りで旅立てる程、この世界は甘くないのだ。


「やっと来たのね」

「悪いなチサキちゃん。待たせちゃって」


 ひょっとしたらすっぽかしを食らうのではと心配していたらしい。現に龍聖達が来た時の表情には憤りがないとは言いきれないが、安堵の方が強かった。


「……で、あっちから猛スピードで走って来る2人について、説明をお願いしたいわ」

「あー、まさかとは思ったけど……」

《予想通りだと思うぞ》


 チサキとリーフに指摘され、苦笑い気味に背後を振り向く。視界の先には息を切らしながら、レナとリオネルが追いかけて来ている光景。


 彼らがいる門の前にたどり着くと、2人揃って膝に手をつき、ゼェゼェゲホッゲホッと言葉も出ないくらいに疲労困憊になる。


 さすがにこの状態のままほったらかしで旅立つ気にはなれず、龍聖は息が整うまで2人の背中を擦ることになった。




   ◇




「――私達も、連れて行ってくれませんか?」


 一足早く息を整えた、レナの第一声がこれだった。リオネルもまだ息は荒いままだが、しきりに何度も頷いており、同じ心境であることが窺える。


「村にも手紙は出しました。村からもタイヨウさん達からもリュウセイさんと一緒なら良いと返事も返って来ています」

「僕の、場合は、人間族との関係で、そもそも出せない、から、いつか帰れさえすれば、問題ない……っ」


 龍聖は悩んだ。あれから順調過ぎる程に力を付けており、2人共あまり心配はいらない。あれから龍聖同伴で薬草集め等を手伝って得た駄賃を使い、リオネルとレナはそれぞれショートソードとコンボジットボウを購入していた。


 いざと言う時の覚悟も、完璧とは言えないが出来ているし、魔法もある程度は使える。


「魔物が群れでやって来た時、私はまた守られるだけでした。そんなのはもう嫌なんです。せめて、自分くらいは守れるようになりたいんです」


 小さな手が握り締められる。決意と悔しさが入り雑じった、儚くも確かな力強さが込められた拳だ。


「迷惑を掛けることは分かっています。それでもどうか、ご一緒させて下さい!」


 深々と下げられる2つの金髪。ここまで来てしまえば、答えは一つだけである。


「――それじゃあ、準備をしなくちゃな」

「「え?」」

「待っててくれ、速攻で君達の寝袋を作るから」

《……フッ、回りくどい奴め》


 だが返答はそれだけで十分だった。2人は思わずガッツポーズをし、龍聖はそれを尻目に目にも留まらぬ早業で、2人分の寝袋を完成させる。寒い時は暖かく、暑い時は涼しいハイスペックなオプション付きである。


「これで良し。食材もあるし、それぞれ武器は持ってるみたいだし。それじゃあ、行こうか」


 他の4人はその言葉に頷き、晴れ渡る大空の下でこの国を旅立った。リオネルとチサキが手際の良さに、密かに目を見開いていたのは内緒である。




   ◇




 1時間後。一同はそれはもう盛大なため息を吐いた。と言うのも……。


「おい、命が惜しけりゃ金目のモンと女、全部置いて行きな!」


 ならず者達に囲まれると言う、非常に面倒くさい事態になっていたからだ。それに加え全員がニタニタと汚い笑顔なので、余計にアンニュイな気持ちになる。


 あの大抵のことでは眉1つ動かさないメルフィードでさえそうなのだから、どれだけ下卑た顔なのかはお分かりいただけるだろう。


「へへへ、狐女は俺のだ!」

「オイずるいぞ、なら俺はあの黒猫ちゃんを!」

「オメーら甘いな。こう言う時はあのポニーテールっ子を狙うんだよ!」


 はっきり言わせてもらうと、絵に描いた小悪党過ぎてリアクションに困る、と言うのが龍聖組の本音だ。これがまだ実力を持っているなら良かったが、全員貧弱な者ばかりなので余計に。


「こうもありきたり過ぎると、やる気失くすな……」

《やっすい脅し文句だな……》

「……主と極彩丸に感づけないことから、完全にアホで雑魚」

「やってて恥ずかしくないのかしら……」


 あまりにチープなので歯に衣着せぬ物言いをしてしまい、リーフ以外の言葉を聞いた盗賊達は身の程も知らずに怒髪天を衝く。しかし瞬きをする頃には、全員制圧されていたのだが。当たり前である。


 神緑に山吹の狐、そしてアロイスの後押しがあったとは言え、龍聖と互角にやり合ったくノ一。実力の差は歴然だ。


 レナやリオネルにまで負けている辺り、惰弱も良いところである。


「……で、何と何を渡して欲しいって?」


 極彩丸の刀身を撫でながら、揃って正座させているならず者達を見やる。殺気がこもった視線を投げ掛けられ、涙目になる者もいれば、その場でアンモニア臭を撒き散らす輩もいる。


 もうこの際時間の無駄なのでほったらかしで去りたかったが、懲りずに他の者達に迷惑を掛ける可能性がある。対策しておくに越したことはない。


「――次は絶対にあり得ない。覚えておけ」


 効果があるかは不明だが、自分に出来る最大級の太さの釘を刺し、遠くで待たせていた4人の元へ合流。


 念のため不意打ちをして来ないか気を配りつつ、場を後にした。


「実力も無ければ胆力もない。何であんな果敢に挑めたんだか。不自然なことに武器だけは質が良かったし」

「……多分、商人か何かの馬車を襲って、味をしめた」


 ここでのメルフィードの推測は正鵠を射ていた。厳密には物品を輸出する馬車だったが、そこで持っている物より上質な鉄で作られた、鋭い剣や斧を見つけたのだ。


 マジックアイテム程重要な物でもなかったのでろくに護衛もつけておらず、奪うことは彼等には容易だった。いや、容易過ぎたのだ。


 要するにただの悪運と、自分達の実力を履き違えた結果だったのである。


「効果は薄いかもしれないけど釘は刺したし、俺達には当分手を出して来ないだろう」

「そうね……あれだけやられたんだし、貴方の顔は覚えたはずよ。……うーわちょっとギトッとしてる」


 汚い物に触れたとでも言わんばかりに、鎖鎌の鎖を布で必死に拭っているチサキ。非常時であればそんな事は気にしていられないが、今はのどかな道中。気になるのは乙女なら仕方ない。


「ベアトレーゼにはまだまだ着かないって言うのに、どっと疲れたな……せめてこれから何も起こらないよう祈りたい――」




   ◇




「と、思ってたんだけどなぁ……」

「トラブルへの遭遇率が凄いです……」


 龍聖とレナは揃ってげんなりする。先程とは別の集団だが、ごろつき達が横転している格調高い馬車を包囲しているのを目撃したからだ。


 近くに死ぬ程ではないが、血を流して倒れている者も何人かいる。ローブを着ていることから魔法使いなのだろう。


「ありゃあ確実に喧嘩とかじゃないな。助けるぞ。メルフィードは回復の準備を」

「……任された」

「では私は彼等の利き手を狙います」

「頼む。チサキちゃんもやれるか?」

「良いわよ。投げたクナイは神緑、貴方に手入れしてもらうけど」

「任せろ。なまくらでも業物に変えてやる」


 ベスネリアを一応セーフティにしておき、機会を待つ。レナは落ち着いて弓を水平に持ち、矢を同時に5本つがえると弦をギリギリと引き絞り、迷いなく放った。


 チサキも負けじと飛び上がり、指の間に挟んだクナイをスナップを効かせて投げ付け、小さな刃の雨を降らせる。


「がっ!」

「何だっ!?」


 ヒュヒュヒュンッ、と微かな風切り音の直後。注意を向けていなかったごろつき達のほとんどが、二の腕をや手の甲を射抜かれて思わず腕を見る。


 注意力散漫。隙だらけである。


 パパパパパパパパンッ!!


 普段の銃弾に比べて軽快な音を引っ提げて突き進む、殺傷能力の低い小さな襲撃者達。


 それらが全て曲者どもの後頭部、こめかみ、顎など脳震盪を起こしやすい場所へ的確に命中し、対象の意識をテレビの電源を切ったように失わせる。


「一丁あがり。メルフィード!」

「……【エリアヒール】」


 被害者であろう怪我人達のみに降り注ぐ、優しい光。チサキとレナの降らす雨が敵に致命的な隙を作る呪いの雨なのに対し、こちらは言うなれば傷と痛みを取り去る聖なる陽の光だ。


「あ、れ……」

「ワタシは、斬られて……」


 倒れていた者達が次々に目を覚まし、貧血で意識が朦朧としているのか、しきりに頭を横に振っている。


「リオネルくん、馬車にいる人に安全を確保したと教えてあげてくれ。俺達は倒れてた人達に状況を説明するから」

「了解だよお兄さん」


 未だ戸惑う者が多い中、リオネルは悠々と地球で言うところのクーペのような馬車へと歩いて行き、側面の扉をノックする。


「ご無事ですか? もう大丈夫でェェエッ!?」


 反射的に剣の腹で受け止める。両刃の切っ先が、扉を貫いて出て来たのだ。無意識であろうと、見えない攻撃を防ぐとは……などとは言っていられない。


 助けたのにも関わらず、あちらからはまだ賊認定されているのだから。


「くっ、届かなかった!」


 悔しそうに扉の中から姿を現したのは、ロングソードを両手で持った10代前半の華奢な少年。とても庶民とは思えない豪華な服装なので、いざ戦いとなれば動きにくいことこの上ないだろう。


 それ以前に体勢がなっていない。もし倒すならば簡単に出来る。


「ちょ、ちょっと待って下さい!」

「待てと言われて待つ愚か者がいるか! 賊め覚悟!」

「賊じゃありませんってばぁ!」


 勇気があるのは誉められることだが、勘違いはいただけない。しかし制圧しようとしてもあちらが戦い慣れしていないせいで、押さえるとあちらにけがをさせてしまう。そうなれば後々禍根に繋がりかねない。


 もどかしい状況の中、ショートソードで剣撃を受け流すリオネル。力も筋もガタガタなので受け流すのも離脱するのも簡単だが、逃げたところで追いかけて来るのは目に見えている。


 倒れていた者への説明の途中だった龍聖が、何が起こっているのかを最初に気付き、ベスネリアを少年に向ける。


「待て! 貴様、何を――」


 パァンッ!


 制止を無視して、銃口から黄色い銃弾が放たれる。肩に命中したそれはビリビリビリッ! と電撃を流し、少年の身体を一瞬で麻痺させる。


 かつて朱音が食らった【サンダーショック】のような脱力する痺れとは違い、こちらは全身の筋肉が彫像のようになる硬直だ。


「すみません。話し合いで解決出来そうになかったので。大丈夫です。30分もすれば動けるようになります」

「あ、あぁ、そうか……」

《はぁ……お前のここぞと言う思い切りの良さは、呆れを通り越して感嘆を覚える》


 一縷の躊躇いもない攻撃を見て、さすがに戸惑いを隠せない魔導師。リーフはもう、手遅れである。


「もしかしたらですけど、彼は頭が固かったりしますか?」

「なぜ貴様が知って……いや、理解したのか」


 不審そうな顔はすぐになくなる。本当に賊なら優位なのはこちらなのだから、待って欲しいなど言わない。現にリオネルは反撃等は全くせず、防ぐしかしていなかった。


 しかし彼は賊だと断定して曲げなかったことから、良く言えば一本気、悪く言えば融通が利かない性格なのが、自ずと見て取れるのである。


「……何にせよ、感謝する。賊を倒しただけでなく、ハラルド王子を止めていただいた事を」

「あぁ、あの子は王子様だったのですか? どうりで剣筋が粗すぎる訳です。これは憶測なのですが、持ったのも初めてでは?」

「……やはり、分かるか」

「曲がりなりにも剣士ですから。王子様への説明は、皆さんでお願い出来ますでしょうか?」

「当然だ。あれだけ骨を折ってもらったからな。……とそうだ。これを」


 差し出されたのは銀色の指輪。しかしただの指輪ではなく、微弱だが魔力が込められているのが分かる。


「これが何なのかは良く分からないが、悪い物ではないのは確かだ。ワタシよりも、そちらが持っていた方が良さそうなのでな。礼になるかは微妙だが」

「いえ、せっかくのご厚意ですし、ありがたくちょうだいします」

《確かにこの者の言う通り、人を傷付ける魔法ではなさそうだが……やはり、時代が進むにつれて作成方法が変わっているようだ。この形式の組み方は、最近お前の読んでいた魔術書でも見たことがないな。アスラトニアには、まだ伝わっていない新しいやり方なのかもしれん》


 どのみち自分で【鑑定】して調べるつもりだ。問題なしである。詠唱して【ストレージ】の穴を呼び出し穴の中へ収納する。


「……ところで、つかぬことをお聞きするが、ご一行はどちらへ?」

「ちょっとこちらの用事で、ベアトレーゼまで」


 さすがに違法薬物ことラギンを使っていないか調べに、とは言えないのでぼかす。ここからだとベアトレーゼは山を越えた先にある。到着までは1週間はかかる道のりだ。


「そうか、では恥を忍んで頼みたい。我々の目的地もその国なのだが、同伴してもらえないだろうか」


 妥当な判断だろう。為す術もなくやられてしまった直後では、自分達だけで大丈夫とは口が裂けても言えない。


「多分大丈夫だとは思いますが、念のため相談して来てよろしいでしょうか?」

「もちろん構わない。無理を言っているのは、どう考えようとこちらなのだからな」


 その言葉を聞き終えた龍聖は自分の仲間達の下へ向かい、上記の内容を説明する。その末に行き先が全く違うなら悩んだが、方向どころか同じ場所であるのなら問題はない、と言う結論で全会一致した。


「何から何まですまない。ワタシはドミニクと言う。貴方は……」

「龍聖です。神緑とも呼ばれますが」

「おぉ、あの神緑か! ならば心強い!」


 ドミニクはフードで隠されつつも、綺麗なアメジスト色の瞳を輝かせた。こうして一時的ではあるが、龍聖達はハラルド王子の馬車の護衛をすることになったのだった。




   ◇




 それから半日後。すっかり夜の帳が下り、明かりは山の中にある夜営地の中心に点けられた焚き火のみ。

 ――ではなかった。


「さぁてお次はファイアボールジャグリング!」


 くるくるとステップを踏みながら、燃え盛る火の玉を上へ投げては別の物をキャッチする。その数実に20個。


 普段目にしないお茶目な曲芸(龍聖にとっては)を披露している中、周囲は楽しくはあるがハラハラもしていた。幸いここだけ周りに草むらや木と言った燃え移る物はないが、少しミスれば即座に彼は火達磨だ。


「まだまだぁ!! 収納と取り出しの門、【ストレージ】!」


 だがそんなことは露知らず、さりげなく短縮した詠唱で、【ストレージ】から何か薄茶色の玉を取り出す。大きさはバスケットボールくらいだ。


 それを上へ放り投げると、紙一重で火球と火球の間を通り抜け、空高くへと飛んで行く。そこに今まで放り投げていた火の玉の1つを、追従するように発射した。


 球が一回り大きな球に包み込まれた瞬間、大きな音と共に弾け飛んだ。だが散ったのは、自然ではあり得ないきらびやかな華。


「これがフィナーレ、“花火”です!」


 続いてバスケットボール程の球、花火玉をどんどん取り出して行き、それぞれ少し違う方向へと投げてから点火する。


 言葉では言い表せない数多の色が幾重にも重なり合い、えもいわれぬ幻想的な光景を作り出す。


 魔物も遠くへ逃げており、不意打ちを受ける心配はいらない。急に何の前触れもなく爆発音が鳴れば、誰だって驚く。


 それを約100発は出した頃。弾けた火花が更に小さく弾け、再び夜の暗闇が支配する直前。龍聖は優雅な一礼を決めた。


「どうでした? 楽しんでいただけ……あれ?」

《考えること全てがぶっ飛び過ぎだ! 見ろ周りを! 全員呆気に取られているだろう!》


 リーフの叫び(念話)をBGMに観客である同行者達は、1人残らず煙に紛れた星空を見つめている。だが星その物は見ておらず、さっきまでの光景の余韻が抜けていないと言った様子だ。


「……やっぱり主、凄い」


 最初に我に返ったのはメルフィードだった。ゆっくりと視線を空から龍聖に戻し、興奮冷めやらぬと言った様子で前のめりになっている。


「あたし、何で神のように何でも成し遂げるって言われてるか、分かった気がするわ……」


 その次は引き攣った笑顔のチサキ。異名の所以を目の前で見せつけられたのだ。納得してしまうのも宜なるかな。改めて、凄い人物とコネクションを持ったと実感してしまう。


 他も言葉にはしないがレナやリオネル、ドミニク含め概ね似たような反応だった。畏怖や呆然はもちろん、中には尊敬の眼差しで見ている者もいる。


「えっと……さて、大道芸はおしまいおしまい。明日に備えて休む時間ですよ」


 無理やり終わりへ持って行こうとする龍聖に流されるまま、各々が微妙な表情で寝る支度を始める。


 ――そんな中彼はただ1人、視線を下に下げていた。




   ◇




 夜。聞こえるのは焚き火の音と、微かな虫の鳴き声だけ。


〈……で、だ。リーフ、聞かせてもらって良いか?〉

《あぁ、約束だからな》


 焚き火の前で座りながら、周囲に気を配っている龍聖。周りの安眠を妨害しないよう慎重に念話を使い、話を切り出して行く。

 魔物の大群やら、亡くなった者の弔いなどで今まで忘れていたが、リーフと彼はある約束をしていたのだ。


《さて、どこから私の秘密を聞きたい?》

〈まず何故腕輪の姿なのか、そして何故森の中に放置されていたのかを聞きたい〉


 最初は純粋な疑問から。考察を行うのは情報をある程度揃えてからでないと始まらない。


《……分かった。長くなるから要点以外省かせてもらうが、私もかつては人間だった。500年も前の話だがな》


 さりげなく衝撃の真実だが、龍聖の表情はハッと何か確信した時の物で、驚きのおの字も見せない。


《私は私なりに善行を為していたのだが、それがきっかけで手柄を知らぬ間に横取りしている場合があってな。良く思わない連中も、少なからずいた。だが私を殺してしまえば、それはそれで問題になる。だから私は腕輪に変えられ、森のど真ん中に投げ捨てられた、と言う訳さ。大方、行方不明か何かで処理されているだろう》


 善行を成したが故の悲劇。因果応報にしてはあまりにもあんまりである。


〈……なるほど。じゃあ、次の質問だ。









 ――リーフは、かつて世界を救済に導いたことがあるか?〉

《……何故、そう思う?》

〈ほら、この時点でアウトだ。違うなら笑って流さなきゃ〉


 龍聖とリーフの声色は真剣そのもの。前者は誤魔化しを、後者は根拠のない憶測を許さないと言わんばかりだ。


 薪が焼ける音を、けたたましく感じさせる沈黙が辺りを支配する。


〈俺が抜いたのが極彩丸だと知った時、他のことに比べて驚きを見せなかったからな。それに色んな歴史資料を読んだけど、どの文献にも極彩丸の()()()()()()()()()()()()()()()()()()。刀はどうやっても武器だ。持ち主がいなければ、ただの鋭い刃を持つ棒にしかならない。なのに、今まで誰一人として極彩丸の話は知っていても、それの持ち主のことには言及していない。このことから、持ち主に関しては昔から伝えられていない〉


 否定はなかった。ここで龍聖の確信が強度を上げる。


〈おそらく、筆者が認めたくなかったんだろう? その英雄の存在を、後世に伝えないよう隠蔽するまでに〉

《…………》

〈それに加え、リーフは前にこう言っていたよな? アロイスの勾玉を見た時、あの男が生きていたと言うのかって。()()()()()()()()()()()()、と言っているみたいだ。歴史書には幹部よりも魔神と言った感じで、幹部は誰一人としてどう倒されたのか書かれていなかったし〉


 つまりどんな悪行をしたかは記されていたが、誰にどう倒されたかは記されておらず、これでは死んだとは確定出来ないはずなのだ。


 ――それこそ討ち取ったか、討ち取られるのを目撃でもしない限りは。


〈嫉妬されるくらいに善行をしていたと言うからには、後手には回っていないだろ? ここから導き出される結論は1つ。リーフ、お前は――()()()()()()()()()だ〉


 これが、龍聖の答えだった。


《……お見事、と言っておこう》

〈じゃあ……〉

《あぁ、認めよう。私は歴史から葬られた、元英雄だ》


 否定ならいくらでも出来た。昔過ぎること故に、裏付けなどこの場で取れないのだから。だが、リーフは嘘偽りなく認めた。それが誠意だと考えたからだ。


〈……で、お前はこれからどうしたい?〉

《どうしたい……とは?》


 言っていることの意味が分からず、怪訝な声を発するリーフ。龍聖はニヤリと笑い、爆弾発言を投下する。


〈試作品だけど、()()()()()()()()()()()()()()()んだ。あとは外見を調整して、お前をはめた腕をかざすだけで動く〉

《待て待て待て待てェェエエ!! 私は知らないぞそんなことォッ!!》

〈そりゃあ、お前が眠っている時に作ったし。結構気を配ったんだぞ?〉


 一度思い付けば、成し遂げるまでは決して弱まらない熱意を持つ少年だ。周囲が土や鉄のゴーレムの可動する指に試行錯誤している中、彼は人間そっくりの所謂オートマタ、ホムンクルスと呼ばれる代物を作ってしまったのだ。


 無自覚トラブルメーカー、ここに極まれりである。


《……自分の意思で動く人形だと? そんな代物、目まぐるしく発展した現在でも研究課題だぞ……》

〈まぁ作っちゃったし。またこう言った感じで、人目が付かない場所で試してみないか?〉

《……うむ、その人形の動かす感覚には非常に興味がある。今回は、乗らせてもらおうか》


 知識に貪欲である性には抗えず、承諾せざるを得なかった。だが今はダメだ。昨日までいなかった存在がいきなり現れたら、警戒されるに決まっている。


 ――と、一段落ついた時。何やら一方向から邪な気配。微かだが異臭も漂っており、ただ事ではなさそうだ。


《む……!》

「これは……メルフィードとチサキちゃんを起こしに行こう」


 すぐ2人が寝ているテントへ向かうが、既に何事かと言うように起き上がっていた。


「……! 主、これ、何?」

「変な臭いがするんだけど……」

「分からない。けど何かは起こってる。確認に向かいたいから、どちらかに焚き火番を変わって欲しい」


 その言葉に、メルフィードが立ち上がった。


「……なら、私が残る。この暗い夜道なら、チサキの方が、適任だから」

「メルフィードさん……」

「……信頼してる。だから、主を任せる」

「っ、はいっ!」


 力強く頷き、20秒と言う早さでチサキは素早く支度を済ませた。


「出来たか? なら頼むぞ!」

「当然!」


 表情を引き締めた2人が夜の森を駆け、気配の方角へと向かって行った。

 次回は少々、お食事中の方にはキツい描写があると思います。どうか、次回を読む方は気を付けてお読みください。

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