表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖縁剣  作者: フジスケ
第3章 Blood Eyes
43/147

第42話 深淵

 皆さん常套句となりつつありますがこんばんは。

 しつこいと思われるかもしれませんが、再び注意喚起をば。

 今回は、お食事中の方にはキツい描写があります。それに気を付けて、お読みください。

 では、第42話。始まります。

 気配の方へ向かうに連れて、悪臭の臭いが強くなって来る。これは血と、何かは不明だが生臭い臭いだ。


「ここからは【スニーキング】で闇に紛れるぞ」


 職業柄、闇魔法の適正があるチサキは頷き、龍聖と同じタイミングで夜闇に姿を隠しながら、少し速度を落として進んで行く。


 更に近付いて行くと、臭いだけでなく何か話し声が聞こえて来た。しかし人間の言語ではなく、聞き取ることが出来ない。


 洞穴らしき所へ歩いて行く後ろ姿をほんの少し確認出来たが、全身毛むくじゃらで、それでいて獣人ではなさそうな風貌だった。


〈あれは……オークか?〉

《……確か、今頃が繁殖期だったはずだ》


 躊躇い気味のリーフの念話で、龍聖は眉をしかめた。中で起こっているであろう、不快な仮説が浮かんで来たからだ。


〈オークって、雄しかいなかったよな? だから他種族に無理やり手を出すし、それを趣味にする奴もいる……だっけ?〉

《……そうだ》


 つまり、そう言うことである。チサキも同じ結論に至ったのか、小さな声で「うぇっ……」とえずいている。


「……気付かれない内に戻るか?」

「うぐ……っ、冗談。見ちゃったからには、見逃す訳には行かないでしょ……っ」

「……分かった。最悪俺だけで行くつもりだったけど、君がそう言うなら」


 洞穴は小さく、極彩丸では些か戦い辛い。なので小回りの効くベスネリアを取り出す。チサキもクナイや棒手裏剣と言った、狭い場所でも扱いやすい物を指の間に挟んだ。


「……じゃあ、行くぞ」

「えぇ……」


 オークが周囲にいないのを確認してから入り口の両端に立ち、顔の半分のみを使って中の様子を見る。だが夜なのも相まってか、広がっているのは黒一色である。


「チサキちゃん、何か聞こえるか」

「……聞こえるわ。オークの鳴き声と……女性の悲鳴が。『誰か助けて、もう嫌』って。しかも複数。2、3人どころじゃない。多分もっといるわ」


 どうやら入り口の大きさに反して、中も群れの規模も大きいようだ。猫の耳で聞いた声から衝動に任せて突貫したくなるが、それではミイラ取りがミイラである。最悪のケースだ。


「急いで向かうぞ。手遅れになる」


 互いに歩を早める。岩肌に紛れているオークが何匹かいたが、【スニーキング】で姿を暗闇全体に隠していてはさすがに察知出来なかったらしい。悠々と素通りすることが出来た。


 しばらく進むと、松明らしき明かりに照らされた最奥部にたどり着く。


 内部は予想通り、口にするのも憚られる光景だった。男性は用済みとでも言わんばかりに血塗れ傷だらけで倒れており、女性は一人残らず一糸纏わぬ状態で組伏せられるか鎖で縛り付けられ、嗜虐的に嗤うオーク達に欲望を叩き付けられている。


「ッ!!」

「離れろォォオッ!!」


 チサキの怒号と同時にケダモノ共の急所のみに向け、撃ち込まれる飛び道具の数々。言葉は発さないが、龍聖も普段は穏やかなその顔を、憤怒に歪めている。


 銃弾を受けたオークの頭蓋が吹き飛び、暗器を受け、糸が切れたように倒れる。


 しかし全部は仕留めきれておらず、どこからやって来たのか20体程が姿を現し、グルルルと唸る。


「生憎だが、今はこっちが暴れたい気分だ。全員生き延びられると思うな」

「許さない……絶対にッ!」


 ここは開けた場所なので、龍聖は極彩丸に持ち替え、チサキも鎖鎌を取り出す。


 侵入者2人の威圧感か、はたまた極彩丸の気迫からか、オーク達は威嚇こそすれ若干尻込みしている。


「では、楽に死ねるよう祈ったか? 自分達の行いを後悔したか? 今からミンチになる準備は良いよな?」

「でもアンタ達は食べられることもなく、これから臭い臭ーい生ゴミになるのよ。残念ね」


 強者達が動き出した。例え束になってかかったとしても、修羅となった2人には到底及ばない。


「好きな料理は? ミートボール? スコッチエッグ? それとも、ハンバーグ?」


 ある強者はあえて刃ではなく峰を使い、次々とオークをひき肉に変えて行く。その一撃は骨をも砕き、無事なところは残さない。一片たりとも残すつもりはゼロだ。


 対するもう1人も負けてはいない。周囲を飛び交う鎖鎌の分銅でオークの両手両足を破壊し、動けなくなったところで頚静脈を切り裂き的確に駆除する。


 果敢にも反撃して来る者もいたが、得物は一発で粉々に砕かれ、大した変化もなく物言わぬ肉の仲間入りを果たす。特にそれらは執拗に、骨と言う骨を砕かれて。

 

「あらそんなの勿体ないわよ神緑。こいつらは刻んでタルタルステーキにした方が良いわ。素材の味を楽しまなきゃ。あっ、豚だから生食は無理だわ!」


 我を忘れて暴れそうになるのを必死に抑えるべく、互いにジョークを放ちつつ着実に標的を始末して行く。


 怒りが動きを少し単調にしてしまっているが、それでも目を凝らしても見えない程の高みに彼らはいる。


 こうした応酬が10分も続く頃には、オークは原型を残していない姿で軒並み全滅し、生きているのは人間だけとなった。




   ◇




 辺りが血飛沫で真っ赤に染まり、岩肌の色が残っている部分の方が少なくなった洞穴を放置して、龍聖は被害者達を1人1人おぶって運ぶ。チサキには、オークの生き残りがいないかの確認を頼んでいる。


「体内の違和感は、どうですか?」

「…………大、丈夫」


 女性は心身共に憔悴しきっていたが、背中越しに返事はしてくれた。他の者達も同様に。運が良かったと言うべきか、男性は全員何とか生きており、女性も妊娠している者は皆無だった。


「それは良かったです。今回のことは気の毒でしたが、心配はありません。いくらでもやり直せる。僕が保証します」

「そう、ね……あなたもあれだけ、傷、付いてたんだもの……私も、きっと……」


 実は、身体を上手く動かせない男性陣の傷を洗浄する際に袖を捲っていたので、大量の傷痕が丸見えだったのだ。根拠としては十分である。


「故郷はどこにあるか、分かりますか?」

「……ごめ、ん。今は、思い、出せない」


 精神にも身体にも多大な傷を負った後だ。今は助かったと理解するだけで手一杯なのだろう。


「……分かりました。早く思い出して、故郷の皆さんに会えると良いですね」

「ありが、とう……」


 出口が見えて来たのを確認し、龍聖は夜営場所に急ぐ。


 焚き火の周辺には大きめの毛布が並べられ、そこに助け出された者達が寝かされている。その側にはメルフィードを筆頭に、回復魔法を使える魔導師達が懸命な治療を行っていた。


「……主、その人で、最後?」

「あぁ、他には見当たらなかったし、気配もしなかったから多分――ッ!!」


 不意に振り返る。しかし、あるのはただ暗闇だけ。猛獣も魔物も見当たらない。


「……主? どうしたの?」

「いや、誰かに見られている気がして……」

「……チサキ、じゃないの?」

「うーん……違うと思うけど今は感じないし、一瞬だったから気のせいかな?」

《言っておくと、私も一貫して何も感じなかったぞ》


 チサキのような気配とは違い、彼が感じ取ったのは全身を舐め回すような、そんなねっとりとした物。間違ってもチサキが出す気配とは思えない。


「一応、チサキちゃんにも気配を感じなかったか聞いてみようか」

「あたしがどうかしたの?」


 噂をすれば影。ちょうど確認を終えたチサキが姿を現した。休みなく動き回ったからか、額には少し汗が滲んでいる。


「いや、一瞬だけど妙な気配を感じてね。そっちでは何かなかったかなーって」

「こっち? 特に変わったことはなかったわよ」

「そうかー……やっぱり気のせいだったのか?」


 頭をガリガリ掻く龍聖。だがその直後、不吉な雷光が過る。


「まずい、9時の定時連絡を忘れてた!」

《アホだな》


 時刻を確認すると今は午後10時前。もはや一刻の猶予もない。急いで電話帳アプリを開き、通話ボタンを押す。


 3コール鳴った後応答され、自動的にテレビ通話になる。そこには案の定、非難がましい目をした美姫と朱音の姿が。


『……ひどいよ、1回目から約束を破るなんて』

「ごめん、本当にごめん! これには言い訳になるんだけど理由があるんだ!」

『…………一応、話だけは聞きます』


 朱音から許可を出された龍聖は、オークの巣を偶然にも見つけ、中に幽閉されていた人達を助けていたことを事細かに話した後、ごろつきの対処を2回する羽目になり、それがきっかけである同行者達の存在を明かした。


 話している間は気が気でなかったが、画面越しの彼女達の顔から徐々に険が取れて行くので、どうやら分かってくれているらしい。


「――と言う訳なんだ」

『……分かった。ただ単に忘れてただけなら怒ってたけど、理由が理由だし』

『連絡より人命優先なのは明らかですし、今回はお互い水に流しましょう』

「助かるよ……」

『でも、ずっと連絡がないから心配したんだよ?』

「それは本当に申し訳ない……」


 眉尻を下げる彼女達に向かって土魔法で作った即席のスタンドにスマホを立て掛け、平身低頭する姿を見せる龍聖にくすりと2人の唇が綻ぶ。


『ふふっ、冗談だよ』

『無事みたいで安心しました。これで安心して眠れます』

「重ね重ね悪いな。お休み」

『『お休みなさい、龍聖くん(先輩)』』


 この会話を最後に通話を終了し、ふーっと大きく息を吐き出す。もしかしたらオークの殲滅よりも疲れたかもしれない。主にどうすれば良い結果を導けるのか、考えなければいけない部分で。


「メルフィード、そっちの首尾はどうだ?」

「……ん、ちょうど全員、終わったところ」


 被害者達の傷は、目を凝らさないと分からないくらいに全て塞がり、今は穏やかな寝息を立てている。とりあえずは一件落着である……と言いたい所だが、そうも言ってはいられない。


「幸か不幸か、完全に目が覚めてしまったな。でも、この人達全員の様子を見ながら焚き火番をするのは、俺一人じゃちょっと厳しいかな」

「……なら、私も手伝う。チサキに、頑張ってもらったから、今度は私の番」


 すっ……と白く柔らかそうな手を挙げるメルフィード。彼女も同じく目が冴えてしまったようだ。


 一方、チサキは手だけでは隠しきれない程に口を開け、大きな欠伸をする。


「ふぁぁ……メルフィードさんなら安心ね。柄にもなく大暴れしたから、疲れちゃったわ。申し訳ないけど神緑、今日は休ませてもらうわね」

「あぁ、お疲れ様」


 休む時間を出来るだけ長く確保するため、短く会話を済ませる。チサキも返事こそしなかったが背中越しにヒラヒラ手を振り、ノソノソとテントへ戻って行った。


 経緯はどうあれ、少しは打ち解けることが出来た。巧妙に隠してはいたが、チサキの言動にはどこかよそよそしさがあったので、龍聖にとっては僥倖だった。


「……チサキ、態度が少し、柔らかくなってる。何かあった?」

「共同作業をしたからかもな」


 あの後全身の血糊と肉を落とすのに、実に30分を費やした。土魔法で作ったたらいに溜めた水を被って落としている最中、異口同音にこう呟いたのは記憶に新しい。


「「次からは敵を絶対にミンチにはしない」」


 愉快痛快だし溜飲も下がるが、後始末が実に面倒くさい。龍聖も服は【防汚】が付与されているので大丈夫だが、髪にこびり付いた返り血は中々落ちない。何より近くの人のメンタルに非常に良くない。


「……血の臭い、する」

「えっ、まだ臭う? もっと洗って来る」

「……待つ。良いことだと思っただけ。……どのみち、ベアトレーゼに着く頃には、皆汚れてる。許容範囲だし、臭い消しにはうってつけ」


 立ち上がろうとしたのを、メルフィードが肩を掴んで止める。彼に染み付いた血の臭いは、猛獣に有効だ。臭いで獲物か、はたまた天敵なのか判断が出来なくなるので、迂闊に手が出せなくなるのである。


「……せっかくだし、尻尾をブラッシング、して」

「何故今!?」

「……それに集中して、無になれば、第六感が磨かれて、敵の奇襲をいち早く察知出来る」

「ホントか――」

「――と嬉しい」

「純度100%の願望かよ! ……まぁ良いけど。ブラシはないのか? 君のお気に入りの。小物類は個人で持つことになってたよな?」


 その言葉の直後にバッグから手渡される、年季の入ったスリッカーブラシ。そして胡座をかいた彼の膝に乗せられる、モフモフの尻尾。フリフリと上下へ小刻みに動き、ブラッシングを今か今かと待ち望んでいるようだ。


 うっかり傷付けないよう細心の注意を払い、毛並みに沿ってブラシを動かして行く。


「……前から、思ってたけど、初心者とは、思えない手つき。主、慣れてる?」

「友達の飼い犬に、トリマー紛いな事を少々。カットは専用の道具がないから勘弁してくれ」


 言っておくと彼の少々は、その犬が尻尾をぶるんぶるんと振ってハイになるレベルであるとだけ記しておく。


 そして本職である友達の親の自信を、粉微塵にして喪失させたとも。


「……本気で、初心者と思えない。どんどん毛が、艶々になって来てるのが分かる」

「元々手入れがされていればこんな物さ。ほら、終わったぞ」


 僅か5分で終了したが、効果は歴然だった。焚き火の光に照らされて、ピカピカと輝く尻尾。毛づやが半端ではない何よりの証拠だ。


 持ち主が思わず自分の尻尾かと疑い、恐る恐る触ってしまうくらいの出来映えである。


「……ハナビと言い、タイヨウが規格外規格外、と言ってたのも分かる気がする」


 メルフィードがこうごちたのは必然であった。今回は龍聖も誰にも出来る物ではないと理解しているがために、物申したくはあったが口をつぐむ。


「……主、頼み、ある」

「ん? 何だ?」

「――キョウスケと、話がしたい」

「…………分かった、目だけか? それとも意識もか?」


 少し逡巡して、何か考えがあるのだろうと判断して了承する。


「……今回は、意識もお願いしたい。主の過去について、良く知ってそうだから、面と向かって聞きたい」

「なるほど、そう言うことか……少し待っててくれ」


 そう説明されては断れるはずもなく、龍聖は躊躇わずに勾玉を握り締めた。


 ――自分が自分ではなくなり、意識が霞んで行く。怖くはあったが、理由が分かっていれば格段に気が楽だ。


 そう思った頃には、龍聖の意識は闇へと落ちていた。


「――ヤッハー♪ 話は聞かせてもらったぜェ。コイツの過去を知りてェンだってな」

「……ん。是非、教えて欲しい」


 乱雑に片膝を立て、おもむろに頬杖をつき出す。アシンメトリーヘアになった黒髪や三白眼になった赤い瞳から、今の彼が凶助であることが分かる。


「俺としては別に良いンだが、解せねェことがあるンで聞いても良いか?」

「……何?」

「何でコイツの意識と入れ替えさせた? コイツも聞きたかっただろうによ」

「……鮮烈な出来事だったはずなのに、記憶が朧気だと言うことは、幼少期の主が、記憶してはいけないと無意識に考えたからだと思う。だから、主のためにはならないと思った」


 彼女は敬愛する主人の古傷を抉りたくなかった。だが彼を理解するために、過去は聞いておきたい。だからこその意識入れ替えだったのだ。


「おンやそう、意外と考えてたンだな。……気に入った。あンまり深入りした内容は話さねェつもりだったが、俺なりに噛み砕いた解説も混ぜてやる」

「……助かる」


 凶助はコホンと軽く咳払いをすると、頬杖は止めないが、飄々とした雰囲気をなくし、真剣な表情で語り始めた。


「前に龍聖が話した部分は省くとして、コイツがあンまり覚えてない理由。それは他でもない俺が、残りにくくしたからだ」

「……何故?」

「聞くに耐えないコトバばっかだったからさァ。『化け物』だの『忌み子』だの『悪魔』だの。最終的には『この世界のゴミ』、『いてはならない存在』なンて言われて、数10挺ベスネリアの強化版を向けられたこともあったなァ。アイツを庇おうと考える奴は、どんな理由があれサイコパス。そう言う風潮だった。そもそも近くに寄って来る人間なンぞ、誰1人としていなかったがな」


 さらりと話される、深海のような冷たく暗い孤独。心を許せる者などいる訳もなく、常に独り。あらゆる大人に侮蔑や憎悪を向けられ、殺そうとさえされる。なのに話す彼の心境は、いっそ清々しさすら感じさせる。


「そのままでは殺されるなら、コッチが殺せるようになるしかねェ。話し合いなどクソ食らえ。敵意を向けるヤツは全て殺す。それがこの時期の俺の行動原理だ」


 たとえ命乞いをしようと、一度敵意を向けたならば等しく殺す。不意打ちすら許さず、けして見逃しはしない。自業自得と諦めて、せいぜい来世でよろしくしていろ。それが、黒光りする心の中で生まれた持論。


「そンなことをしている内に、人型殺戮兵器って呼ばれるようになっちまってなァ。まァそんな肩書きがあろうとなかろうと、攻撃して来た敵は等しく殺したよ」


 何たる皮肉だろうか。殺されぬために殺したと言うのに、あろうことか周囲は彼を悪者扱いことになる。どう見ても被害者が、1対多数の1だった彼なのは、火を見るより明らかであったのにだ。


「その頃からだな。敵意と言うか、悪意に敏感になったのは。巧みに隠してるヤロウもいたが、散々騙されて学ンだ」

「…………」


 メルフィードは絶句することしか出来なかった。彼が龍聖を守っていたと言うのは本当だったのだ。嘘である可能性は限りなくゼロに近い。腕であの傷痕の量だ。身体はもっと多いだろう。背中なんて特に、腕より自作自演で出来るとは思えない。


「――で、テントの中で起きてるヤツ、出て来なァ」


 何の前触れもなく、テントの方すら見ずに言う凶助。


 おずおずと1つのテントの垂れ幕が上がって行き、中からは険しい表情をした金髪の少女、レナが姿を現した。


「……さっきの話」

「あン?」

「さっきの話は……本当なんですか?」

「あァそうさ。アレは他でもねェ龍聖の過去。服の中に隠れてる傷痕がその証拠だァ。背中にもあるぜ? 散々刺され斬られ撃たれたから」


 あっけらかんと告げられる真実に、レナの顔がくしゃりと歪む。目の前の男性が、龍聖とは雰囲気が違うことよりも、今は悲惨な過去を躊躇うことなく話していることが、ただただ悲しかった。


「どうして……何でもないように言えるんですか……?」

「そりゃあ、壊れちまったからだろうなァ。俺も龍聖も。アイツも少しはマシになったが、深層はまだまだ暗いぜ? まるでパンドラの箱だァ」


 獰猛な笑み。近付いたと思っていても、それは単なる錯覚でしかなくて、どこか距離感を感じさせる言葉。


「……主は、私達を信じていないと言うこと?」


 顔に出さずとも、声が少し震えている。不安と悲しみが含まれた声だ。


「信じきれていない、の方が正しいだろうなァ。何分5年かけて曲がりまくったヘソだ。そうカンタンには治るはずもねェ。1つだけ言っとくとしたら、()()()()()()


 先は長い。だが希望は少なからず残されていると言っているのと同義だった。悲しみに支配されて空いた2人の心の穴が、みるみる内に塞がって行く。


「とにかく、これからコイツとどう接するかはオマエら次第。互いにとって、サイアクの終わり方を受け入れなければならねェようにするか。または納得ずくで、サイコーの結末を導き出すか。決めンのは――オマエらとコイツだ」

「……言われるまでもない」

「リュウセイさんに信じてもらうため、諦めません!」


 不器用ではあるが励まされ、熱く燃える闘志を胸に宿した乙女に諦める選択肢などない。自信満々に断言して決意を固め、その姿に凶助は吹き出す。


「フッ、ハッハッハッハッ……! 面白ェ、キョーミが湧いたぜ。なら、思う存分奮闘してみなァ、笑い転げながら見させてもらうからよォ。これで話は終わりだな? つー訳で、俺はコレくらいで退散させてもらう。あばよ」

「……ん、ありがとう」

「アドバイス、参考にさせてもらいますね!」


 目を閉じながら含み笑いを浮かべ、凶助は龍聖の中へ帰って行った。再び目を開ける頃には龍聖に戻り、晴れやかな顔をしている2人を不思議そうに見る。


「えっと……何か、あったのか?」

「……秘密」

「ですね。今は私達だけの秘密ですっ♪」


 クスクスと笑う2人に、龍聖は戸惑いを隠せない。今までの会話は聞いていないので、凶助との間に何があったのか判断のしようがない。

 ただ、悪いことではなさそうなので、苦笑いをしながら、何なのかを聞き出そうと試みるしかなかった。




   ◇




 一方、エネロのどこかで――


「あぁ、欲しい……貴方は、ウチだけのものよ……」


 淀んだ欲望が知らず知らずの内に、渦巻いていた――

 ガイドラインに引っ掛かっていないか心配ですが、多分大丈夫だと思いたい。フジスケです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ