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聖縁剣  作者: フジスケ
第3章 Blood Eyes
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第37話 鮮血眼光

 こんばんは。今回、やっと登場します。

 ただ、万全のコンディションではない時に書いたので、誤字などがあるかもしれません。あらかじめご了承ください。

 偏頭痛、しばくべし。

「――フフフフハハハハ……アッハッハッハッハッハッハッ!!」


 普段の彼とは似ても似つかぬ凶悪な笑みを浮かべながら、龍聖は高笑いを上げる。ボサボサだった彼の髪は水で濡れたかのように垂れ落ち、色は生え際から侵食するように巨人の体表と同じ禍々しい黒に変わって行く。


「今ダッ! アノ男ニトドメヲ刺セッ!!」


 好機を無駄にしてなるものかと、巨人に命令された影達が一斉に襲い掛かる。


「ハッ、遅ェよ!」


 不気味に歪めた顔と眼光を浮かべる龍聖の周辺に、血のような赤黒い魔力が迸ると、1ヵ所にまとまり何かを形作る。


 毒霧のような魔力が晴れると、彼の左手にはあらゆる命を刈り取る禍々しい大鎌。石突きと真紅に彩られた刃の側面にはフードを被った髑髏の紋章が彫られ、これぞ死神の鎌と言った迫力を醸し出している。


「散れゴミどもォ!!」


 その100キロは優にありそうな大鎌を、まるで細い木の枝を振り回すが如く片手だけで軽々と振り回し、風圧だけで80体はいた影達を1秒にも満たぬ内に一網打尽にしてしまった。


「フハハッ! 弱ェ! 弱過ぎるなァオイ!!」

「バカナッ! 一瞬ダト!?」

「さァて次はテメエだぜ。やられる覚悟を決めろ?」

「クッ……舐メルナァッ!!」


 余裕綽々と言う雰囲気を隠そうともしない龍聖だが、巨人も負けじとその豪腕を振るってストレートを放つ。しかし……


「遅ェっつってンだろうが!」


 ズパァッ!!!


「……エッ?」


 その一喝が響いたと同時に、巨人は呆けた声を出した。何故ならいつの間にか振り抜いたはずの腕は、肘から先がなくなっていたからだ。


 その横には嘲笑じみた顔で大鎌を真横に掲げ、残心している龍聖の姿。この状況から見て、答えは1つだ。


「ギッ……ガァァアアアアァァァアアアッ!!!」

「アッハッハッハッ!! それだ、それだよその声! 素晴らしいねェ全く!!」


 遅れて激痛が走る腕を押さえながら、絶叫して後退りする巨人に対し、大笑いしている龍聖は大鎌を左手で回しながら突進し、その回転の勢いを利用して右上に振り上げる。


 大鎌が持つ緋色の刃は、まるで熱したナイフでチーズを切るかのように巨人の身体を深々と抉り裂き、鋭利に斬られた傷口からは、黒い塵が血飛沫のように勢い良く噴き出す。


「グアァァアアァァアアア!!!」

「ハッハァ! 良いなァお前の苦痛の声は! もっとだ、もっと聞かせろォッ!!」


 ザクザクザクッ!!


 巨人の叫びに愉悦を見い出しつつ、巨人の身体を滅多斬りにして全身に深い斬り傷を生み出して行く。


 先ほどの互角とは一転。圧倒。それすらも生ぬるい惨状が生まれる。


「フフハハハハ! 泣き喚けッ! 血飛沫を飛ばせッ! 千切れてしまえェ!!」

「ギィヤアァァアアアァアア! 痛イ! 痛イ痛イ痛イ痛イィィイイイィイ!!」


 最初の威勢は砕け散り、巨人は龍聖の為すがままだ。戦意はもう残っておらず、怯えきった子供のように蹲っている。だが龍聖はそれに構わず、大きな声で笑いながら大鎌を何度も何度も振り下ろす。


「おらァ! もっと叫べよ! ハハハハハ!」

「……主、止めて! 【シャイニング】!」


 メルフィードはおかしくなった龍聖を止めるため、ようやく構築出来た光魔法【シャイニング】を巨人に放つ。手のひらから放射状に光が放たれたかと思えば再び一点に集中し、ターゲットを照らそうとする。


「チィッ!」


 龍聖はそれを背中越しに感じ取ると、舌打ちしつつ反射的に上空へ飛び上がり、【シャイニング】の効果範囲から外れた。


「ガァアアアアァアアアッ!!」


 彼と違って避けることが出来ず、一身に光を浴びてしまった巨人はのたうち回りながら、その身体全体を徐々に塵に変え、ついには人の形を維持出来なくなる。


 最終的に煙は完全に消え去り、その中心にはチサキが意識を失って倒れている状態で残された。


「あ、何だよもう終わりかよ。ハァ……仕方ねェ。不完全燃焼だが、今日のトコロは引き上げだ」

「……待つ」

「……ンあ?」


 龍聖は衝撃を殺しながら着地すると、拍子抜けしたかのようにぞんざいに担ぎ直した大鎌を霧散させ、ため息を吐きながら瞳の色を元の黒に戻して行く。


 だが、それにメルフィードが待ったを掛けると瞳の変化は止まり、再び瞳全体を赤く染めてメルフィードに向き合う。


「……貴方、何者? いつもの主とは、全然違う」


 鮮血のように赤い瞳に向き合ったメルフィードは、豹変した龍聖に震え上がりそうになるのを必死に抑えながら、疑問だったことを問う。


「俺か? そうだな……俺はこいつの別側面、とだけ言って置こう」


 それに対し軽く髪をかき上げ考える素振りを見せた後、ニヒルな笑みを浮かべ、龍聖は漠然とした答えを返した。メルフィードは難しい顔をし、彼が言ったことの真意を考察する。


「……別、側面? 二重人格みたいな物?」

「まァそンなところだな。ちなみにカギは、そこで倒れている女にある。言えることはそンだけだ。どうせいずれまた会うし。じゃあな~」


 そう告げてヒラヒラと手を少し振ったかと思えば、龍聖は棒立ちになり、虚ろな目をすると瞳も髪も元の色に戻して行く。

 数秒後、彼は目のハイライトを取り戻し、数回瞬きをする。


「……あれ、俺……何、してたんだ?」

「主……?」

『正気に戻った……のか?』

「メルフィード、リーフ……あっ! そうだチサキちゃんを包み込んだ巨人は!?」


 龍聖は慌てながら辺りを見回す。それはどこまでも本気で、巨人を滅多斬りにした存在と同一人物であるとは到底思えない。


『……お前、何を言っている?』

「……覚えて、ないの?」

「えーっと、チサキちゃんが煙の巨人に包まれて、その後頭痛がして……その後、どうなったんだ?」


 龍聖は演技でも何でもなく、本当にここ数分の出来事を覚えていなかった。額に手を当てて必死に記憶の糸を辿っているが、顔が晴れることはない。


「……悪い、思い出せない。2人は知ってるのか?」

『あぁ、だが……』

「……今は、チサキの容態が最優先」

「…………そうだな。後で教えてくれるか?」

「……承知した」

『分かった。……くれぐれも、覚悟を決めておけ』


 3人はこの話を一旦打ち切り、倒れているチサキへと駆け寄ると、彼女の身体状況を確認する。


「深い傷は、見当たらないな。どれも浅い」

『じゃあ次は、あの状況を生み出した原因を調べるか』

「……確か、右胸辺りが光った」


 メルフィードは身体を煙の巨人に掴まれる直前に、チサキの右胸が紫に光り、言葉にはしないが龍聖の別側面と名乗る者が言っていたことを思い出した。事実、その部分は何か入っているために少し膨らんでいる。


「本当か? そこに何かがあるかもしれないな。メルフィード、調べてみてくれ。俺がやるのは得策じゃなさそうだし」

「……了解」


 男性が女性の身体をまさぐるのは絵面的にまずいと判断し、それを理解していたメルフィードはチサキの右胸付近にある何かを引っ張り出した。


「……これは」

『やはり、あの男が……』


 右胸の何かの正体は、直径3センチの黒く塗り潰された勾玉だった。だがメルフィードはそれを一目見ただけで青ざめ、リーフは思わず声を上げる。


 龍聖にも心当たりがあり、顔をしかめてリーフに話し掛ける。


「リーフ、もしかしなくてもこれは……」

『あぁ、お前が図書館で見た歴史書の挿し絵と全く同じだ。あの者の仕業で間違いない』


 龍聖は息を吸い込み、この惨状を引き起こした者の名を口から吐き出す。


「魔神軍幹部……アロイス・クウェンジェンス」


 アロイス・クウェンジェンス。文献によれば遡ること数百年前。このエネロに災厄をもたらした魔神を崇拝する魔神軍の幹部であり、その性格は狡猾かつ無慈悲。勝つためには簡単に仲間すら切り捨て、時には民間人も傀儡にし、捨て駒にするとされていた。


 この勾玉も、人を傀儡にして利用するために仕組まれた物なのだろう。


『あの男が……生きていたと言うのか』

「まさか、ここまで、手が伸びているなんて……」


 エネロ組の2人が幹部の猛威を目の当たりにし愕然としていると、勾玉が再び不気味な紫色に光り出す。


 ――驚いたな。


「「『ッ!?』」」


 反響する男性の声が勾玉から発せられ、驚愕したメルフィードは勾玉を取り落とし、数歩後退る。龍聖も後退こそしなかったが、迎撃体勢を取って身構えてしまう。


『まさか、この小娘がやられるとはな。かなりの手練れだったはずなのだが』


 勾玉の声は驚いたと言いはしたが、声色からそこまで驚いている様子はない。完全に想定内と言った口調だ。


「……あんたがアロイスか?」

『あぁ、いかにも私はかの神聖なる神が率いる軍の幹部、アロイス・クウェンジェンスだ。そう言う貴様は……なるほど。その気迫、貴様が最近名を聞く神緑か』


 勾玉から聞こえるアロイスの声は、平坦でありながら、それでいて密かに高揚していた。


「龍聖だ」

『フハハ、本名を名乗るとは随分殊勝な心掛けだな。……気に入った。貴様、私の臣下にならぬか?』

「……ふざけるな。主がそんなことを承諾するわけが――」

「それはまた、何故かと聞いて良いか?」

「主!?」


 本来ならば聞く必要のない話だろう。メルフィードが吐き捨てようとした直後、それを遮っての龍聖の言動に信じられない光景を見た顔をする。


『簡単なことだ。貴様からは私達の同類の気配を感じ取ったからだ。どす黒い闇に染まりきっている、な』

「……あんたはどこまで俺を知っている」

『何も知らないさ。だが、その面構えは他者の血と言う闇で染まりきった者にしか、持つことは叶わん』


 龍聖は何も答えない。否定など出来るはずもない。微かに殺気を纏う龍聖だが、アロイスの声は飄々としていて動じている様子は皆無だ。


『まぁ、貴様のような逸材はこちらで確保しておきたい、と言うのが本音だな』

「そんなに強くはないつもりなんだがな」

『謙遜も時には嫌味になるぞ? まぁそれはさておきだ。返答を聞かせてもらおうか、リュウセイとやら。――お前は、我々の軍門に下るか?』


 アロイスの問い掛けが終わると、メルフィードは不安げに龍聖を見る。狂気に満ちた姿を見たのも相まって、どうしても彼が悪の手に堕ちてしまう光景を想像してしまう。


 まだ短い付き合いとは言え、あそこまでの変貌ぶりを見てしてしまっては、内心穏やかにはなれないのが当たり前だった。


 そんな渦中の龍聖の答えは――























「返答? ハッ、何の話だ?」

『……なるほど。拒否したと考えて良いのだな?』

「逆に聞こうか。何故承諾すると思う?」


 交渉決裂、であった。


『ふむ、どうやら私の見込み違いだったようだな』

「観察眼の改善点が見つかったようで何より。近々視力検査にでも行くことをおすすめするよ。白内障だったらまずいぞ」


 アロイスは断られたにも関わらず、あまり残念そうな声は出さない。得体の知れない人物に龍聖は軽口を叩きながら、戦闘に関する自らの改善点を心の中に挙げて行く。


『これは1本取られたな。だが、お前はいずれ再び困難に襲われるだろう。努々気を付けることだ』

「困難? 結構。全て乗り越えてやるさ」


 その会話を最後に勾玉からは光が消え、声は聞こえなくなった。


 龍聖は空を見上げ、いつの間にやら腰にさげていた極彩丸の鞘を強く握る。


「……主」


 安心はしたが、どこか心配そうな目付きなメルフィードに対し、龍聖は、笑った。どこの誰よりも不安であるのは彼だと言うのに。


 魔神軍幹部の勧誘と言い、記憶がすっぱり途切れていることと言い、彼の胸中は不安要素だらけなはずなのに、である。


「……帰ろうメルフィード。一緒にな」


 これからどうなるのか。龍聖はそんな考えをおくびにも出さずに笑い掛けながら、まだ意識が戻らないチサキを背負うとメルフィードの手を取る。


「……あったかい」


 メルフィードは少し緊張を和らげ、龍聖の手の温もりを堪能する。


 彼の手の温もりはメルフィードの気持ちに安らぎを与え、先程の心配を些細な物であると思わせてくれる。


「じゃあ、行こうか。色々聞く必要もあるしな」

「……うん」


 龍聖とメルフィードは【テレポート】で荒野から一瞬で姿を消した。


 だが、これはまだ物語の終盤には遠い。龍聖と言う存在が現れたことで、運命の歯車は少しずつ回り始めている。




   ◇




 一方。アスラトニアの冒険者ギルドの一室では。


「…………」


 白い石壁と隙間の全くない木製の床造りと言う、ほぼ飾り気のない部屋で青い髪で整った顔立ちの青年が1人、一度に複数の書類に目を通していた。


「……最近の仕事は、目に見えて国際問題に発展しかねない物が多いね」


 床にも事務机にも大量の書類が散乱する中、アスラトニアギルドマスター、ティレウスは1人ごちる。


 今この世界が荒れきっているのも、問題が露見する原因の1つなのだろう。つまりこのようになっていなければ、気付くことなく野放しだった可能性があったのだ。それを痛感させられたティレウスはそれはそれは深いため息を吐く。


 コンコンッ


「ん?」


 不意に窓から響いた異音に首を傾げる。その音が気になり窓際へ行くと、そこには4センチくらいの小さな虫が薄い羽を羽ばたかせている。


 だが頭部には小さいながらもハサミを持っており、そのハサミは人差し指の先から第2間接辺りまでの大きさの小瓶をしっかりと掴んでいる。


「……虫? あっ、ちょっと!」


 ティレウスが窓を開けた瞬間、その虫は小瓶を窓枠へ置いたかと思えば、すぐさまどこかへ飛び去ってしまう。咄嗟に手を伸ばすも、残念ながら届かない。


「行っちゃった……って、これは?」


 ティレウスは窓枠に置かれた小瓶を手に取る。中にはごく少量ではあるが、何か液体らしき物が日光に当てられ、キラキラと光っていた。


「……嫌な予感がする」


 長い年月をかけて染み付いた勘がけたたましく警鐘を鳴らす。ティレウスは秘書を呼び、液体の成分鑑定をするよう言い付けた。


 そして、これが新たな騒乱の幕開けとなることは、言うまでもないことだった。

 何やら一筋縄では行かない物が出て来ましたね。また、新たな騒乱の火種が、姿を現しました。これがどのような未来を引き寄せるか。

 要となるのは――彼です。

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