第32話 罪③
龍聖は盗賊達の殺害を終えて返り血を洗い流すと、扉を蝶番ごと破壊した部屋へと戻って行き、ガタガタと踞って震えているリオネルの肩にそっと手を掛ける。
「っ!!」
肩を一際ビクッ! と震わせ、明らかに怯えた様子を見せるリオネル。その怯えを表すように顔を更に膝へと埋め、軽く現実逃避をしているのか、何かをブツブツ呟いている。
「――敵の殲滅及び、リオネルの安全の確保を完了」
「……え?」
龍聖の声を聞いて、呆けた声を上げつつリオネルは彼の方へ向く。どうやら自分の肩に手を置いたのは盗賊だと勘違いしていたようだ。
「もう、大丈夫……なの?」
「――肯定。廊下に盗賊の気配無し。逃走するならば今が一番の好機であることを報告」
おずおずと安全かどうかを尋ねる少年の声に、善の殺人鬼はその肯定に加え、今が逃げる最大のチャンスであることを説明する。
「ここから……出られるの?」
「――肯定。ただし、自分を護衛につければ」
つまり龍聖がいなければ、ここから脱出は出来ない。だが逆に言えば、龍聖さえいればここから脱出出来ると言うことでもある。
だが、その目で見てしまった変貌を思い出し、恐怖から決断が鈍る。本当に安全なのか。こちらに攻撃して来ないのだろうか。そんな心配が脳内を渦巻く。
――そこでふと、思い出した。何故こうなったのかを。彼はリオネルのような存在が、身勝手な理由で殺されたことで現在の状態になっているのだ。
そのことに気付くと、スッと己の心から葛藤が消え去った。
「……分かった。護衛、頼んで良い?」
「――依頼を受託。これより護衛を開始する」
頼みを受けいれた破壊者はベスネリアを抜く。そして護衛対象の前に立ち、彼の歩幅から割り出したスピードに合わせて歩き出した。
◇
龍聖の言う通り、盗賊か来る気配はない。だが……
「――! (――自分の味方である、太陽の気配を察知。どうやら切羽詰まっている模様)」
「? どうしたのお兄さん」
廊下の中間地点に着くと、太陽のどこか急いでこちらに向かって来る気配を感じ取って立ち止まる。それは実力者でないと察知出来ない微弱な気配だった。
その証拠にリオネルは、急に様子が変わった龍聖を怪訝そうな顔で見上げる。
「……(――その少し後ろにメルフィードの気配と、敵ではないが正体不明の気配を察知)」
少し遅れてやって来る気配も感じ取る。だが共に行動しており、悪意を発していない以上、正体不明の気配は敵の物ではない。
「――自分の味方の気配を察知。リオネルの生存率向上には、合流が最適解であると判断。合流の許可を申請」
「えっと、お兄さんの味方なんだよね? じゃあ、合流した方が良いと思う」
「――合流の許可を確認。これより最優先事項を、味方達との合流に変更」
淡々とし過ぎている口調にビクビクしつつ承認すると、ベスネリアが収められ直立不動になった。しばらくすると、彼の味方である太陽が近付いて来る。
「……あっ、いた! おーい龍聖ー! あの炸裂音はやっぱりお前かー!?」
「――……」
無事を確認すると左手を振り上げ、声を上げながらこちらへと走り出した。
――ただし、頭から足まで盗賊から溢れ出た血によって、真っ赤に染まった状態で。
龍聖は無言で傍らに水球を生み出し、そこから大量の水流を容赦なく発射する。一応、ある程度は手加減されている。
「え、ちょま、ぶぼぼぼぼぼぼっっっっ!!?」
水流は廊下の端から端まで埋め尽くしており横に避けることも出来ず、太陽は真正面から水流を浴び、その勢いで階段付近まで流された。
「ゲホッ……おい龍聖ぇぇ!! いきなり何すんだよぉ!?」
「――この行為は、お前が血塗れの状態でやって来たことにより起こした物である。自分の護衛対象は、血液の臭いと色で気絶したと推測」
「……あ」
溺れ掛けた太陽は起き上がり、出会って早々自分をびしょ濡れにしてくれた親友を非難するが、こちらに歩み寄りながら発せられた言葉に閉口せざるを得なくなる。
故意ではなかったとは言え、龍聖の護衛対象は血を見て気絶してしまったのだ。故に太陽は敵とは見なされなかったが、軽い粛清を受けることとなったのである。
ちなみにこの騒動の原因となったその血は、龍聖が放った水流によって要領良く綺麗に洗い流されている。
「わ、悪い……盗賊を殺してそのままだった。って言うか龍聖、お前またブチギレてその口調になってるのか。分かりにくいけど血の臭いも微かにするし……やっぱり、ここがどんな場所かを知ったからか?」
「――肯定。ここの盗賊達はあろうことか、自分達の不手際を子供達のせいにして殺した。見逃す価値などありはしない」
どこまでも非情な決断と行動。太陽の言うように、龍聖は怒ると逆に冷静になれる人物だった。だからこそ、このような一般人ならば憚られることを、迷いなく実行に移すことが出来るのである。
「まあとりあえず、元に戻った方が良いぞ。今のお前を見たらメルフィードさんとレナちゃんは怖がるだろうから」
「――驚愕。レナがここに来ている?」
声色からは分かりにくいが、龍聖は驚いている。ここにレナがいるとは思わなかったのだ。
「あぁ、多分オレのせいでそこに倒れてる男の子と同じ境遇だろ。だがキレるなよ、怖がられるから」
「――太陽の提案を承認。これよりこの形態を停止する」
太陽の提案を承諾した龍聖は、徐々にその虚ろな瞳の色を元の黒に戻して行き、意思を感じさせる光を取り戻して行く。
「…………ふぅ、これ、意外と疲れるんだよな」
龍聖は息を整えるかのようにため息を吐き、左肩を凝りを解すように回す。そこにはしっかりと感情が込められ、元に戻ったことを物語っていた。
『……お、ようやく声が出せる』
龍聖の息が整うと、左手首に着けられているリーフから少し安心したような声が聞こえて来る。
「ん? リーフ、どうした?」
『どうしたも何もないだろう。さっきまで声が発せなくなっていたのだ』
「は? なんで?」
『何故かは分からんが、お前が感情を消した状態になった瞬間に話せなくなった。念話も出来なくなっていたぞ』
リーフは何故今まで龍聖を止めようとしなかったのかを説明するが、その声色には、得体の知れないことへの恐怖が若干込められている。
「なるほど、龍聖がああなってからか……どういう原理かは不明だけど、龍聖が心を消すとリーフさんは話せなくなるみたいだな」
『そうだな、今はそれだけで十分だろう。リュウセイ、常にあの状態になるのはやめておけ。私の知恵を貸してやれなくなるからな』
「それは困るな。俺達が生き残るにはリーフの知識が必要不可欠だ。肝に命じておく」
『ああ、そうしてくれ』
太陽が顎を触りながら出した事実を基にされたリーフの提案に龍聖は乗り、出来るだけかつての自分を呼び起こさないことを心に刻み込んだ。
そうしていると、2つのゆっくりした足音が近付いて来る。これはメルフィードとレナの物だ。足音がゆっくりなのは、メルフィードが目を塞いでいるレナの目の代わりをしているからである。
「……! 主、見つけた。……レナ、ここなら目を開けても大丈夫」
「は、はい!」
「メルフィード、無事で何よりだ。レナちゃんも久しぶり」
「あ、リュウセイさん。ひ、久しぶりです……」
龍聖は彼女達の無事を喜び、メルフィードは龍聖と概ね同じ感情を抱く。後ろの少年は……まぁ、お気の毒としか言いようがない。
目を塞いでいた手を退けて目を開けるレナだが、急に光が入って来たことで視界が定まらないのか、しきりに目をパチパチとさせ、小さな手でコスコスと擦っている。
「うう、中々視界が戻りません……」
「ゆっくりで大丈夫だぞ、レナちゃん」
早く彼の姿を確認したいがために焦るが、龍聖はそれを見透かしているかのように笑い掛ける。
数10秒後、レナは元の視界を取り戻した。そして、その目は龍聖の姿をしっかりと捉えた。
「ッ!!」
気が付けば、かつて村の海岸にてやった時と同じように、龍聖の胸板へと飛び込んでいた。表情は分からないが、小刻みに肩が震えている。
緊張の糸が切れたのだろう。訳も分からず誘拐され、命が消える音を聞いてしまったのだ。こうなってしまっても不思議はなかった。
「リュウセイ、さんっ……リュウセイさんっ」
龍聖の胸板から漏れ聞こえるレナの声はどこか涙声だった。かつて龍聖と再会した朱音と美姫のように、安心したことで涙がこみ上げて来たようだ。
「怖かった……ですぅ……っ」
「……」
龍聖は何も言わず、レナの頭を撫でた。「もう大丈夫だ」と、暗に告げるように。
「…………あー、ちょっと良いか?」
その光景の中、太陽はおずおずと手を挙げた。
「……何だ、太陽」
話の腰を折った太陽を、龍聖は空気を読めと言う感情を滲み出すようにジト目を向ける。
「あ、いやー……水を差したのは謝る。だけど盗賊の下っ端によると、中宮と滝山が向かった方にはここの盗賊団のボスがいるらしいんだ……」
「……主、これは本当。私も聞いたから、間違いない」
「! ……いや、2人なら心配は要らないか。だけど様子は見に行きたいな」
太陽の言葉に心配そうな顔をするが、2人が今までに培った実力を思い出し、彼女達の無事を信じる。だが、念のためと言う言葉もある。何事にも絶対はない。想定外の事態と隣り合わせなのだ。
「オレは龍聖に同意だ。他の2人は?」
「……愚問。私は主について行く」
「えっと、リュウセイさんが行くなら……」
3人の内、太陽とメルフィードはすぐさま決断し、レナは少し言いどもったが最終的について行くことを決めた。
「よし、じゃあ行くか。太陽は罰として、気絶しているリオネルくんを運んでくれ」
「当然。自分のやらかしたことの後始末はさすがに自分でやるさ」
太陽は武器を抜くための片手だけは余裕を残し、リオネルを小脇に抱えた。
「レナちゃんは大丈夫か? 何なら俺が運ぶぞ」
太陽がリオネルを抱えるの見て龍聖は向き合い、彼女の身を案じた申し出をする。
「い、いえ! 大丈夫です。……いくら何でもハードルが……」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもないです大丈夫です!!」
「? そうか」
「「…………」」
即座に龍聖から離れ、顔を真っ赤にしながら手をブンブンさせる。龍聖は言わずもがなで全く感づいた様子がない。 太陽とメルフィードは「もう、この光景は見飽きた」とげんなり顔になった。
その後、護身用としてレナには【ストレージ】から取り出したナイフを渡される。気休めでも、ないに越したことはない。
あまり慣れていない手つきでナイフを受け取り、右手に持つとこれで迎撃の準備が一応は完了したと判断し、美姫と朱音が向かった方向へと歩き出した。
◇
最初の分かれ道にたどり着いた後、戦闘態勢を取ると、ほとんど大丈夫だとは思うが警戒をしつつ右の分かれ道へと進んで行く。
しばらく進むと、他の2つと造りは変わらない廊下の壁に、何かから飛び散ったような血痕が付いていた。血はまだ乾いておらず、美姫と朱音が関係しているのは間違いない。
「……血痕だな」
「間違いないな。……でも妙だな」
「どういうことだ?」
太陽と龍聖は壁の一部に血痕を発見した。だが龍聖は何かが引っ掛かったようだ。血痕をまじまじと見ながら、額に左手を当てている。太陽の質問に、龍聖は彼の方へ振り向き、不審に思ったことを話す。
「血の量が少な過ぎる。人が死ぬにはな。それに血痕が1つしかない。これはおかしいぞ」
そう。彼が不審に思ったのは、その数と量の少なさであった。明らかに致死量には到底達しておらず、床も踏み荒らされた様子はない。あるのは数人が走ったような足跡のみだ。
太陽も戦闘らしい戦闘をしなかったとはいえ、この血痕に比べると流れた血液の量は天と地程の差があった。つまり、ここで戦闘が行われたとは考え難いのである。
「……ってことは?」
「ここで行われたのは戦闘ではない、別の血が出る何かだってことだ。例を挙げるとするなら、盗賊が2人の前で売る予定の人質を斬り付けて脅し、その隙に逃げてそれを2人が追いかけたとかだな。最悪なのは追い付いた後にまた人質を盾に取られて、2人がやむなく敵に捕まったケースだ」
龍聖がこの状況が出来そうな出来事を挙げると、未だに意識が戻らないリオネルを除いた3人は顔を強張らせた。
「覚悟はあったみたいだけど、人質がどうなっても良いのかと聞かれたら、多分あの2人は躊躇する。ここに来るまで、殺人なんてほぼ無縁だっただろうから」
どこまでも冷静な判断で、ここで起こったであろう出来事を並べて行く。
――が、そうも行かない状況になってしまった。
「……! 盗賊が来る。くそっ、こんな時に!」
龍聖は背後からこちらへ近付いて来る気配を感じ取り、苛立ちを隠せない。それを察した太陽とメルフィードは、盗賊が向かって来る方向へと戦闘体勢を取った。
「先に行って待ってろ。お前が急ぐとなるとオレ達は足手まといだろ? 後から追い付いてやるから安心しろ」
「……主、頑張って」
「リュウセイさん、お知り合いの人達も無事であることを祈ってます」
太陽、メルフィードは駆け出し、敵陣へと突っ込んで行った。
「悪い、頼んだ!」
「逃がすかぁ!!!」
「お前らの相手はオレ達だァァァアアア!!」
「ゴボォォォッ!!」
「主の邪魔はさせない……!」
「なっ! この女、剣の下を潜ってグハっ!!」
3人に感謝しながら、全速力で足跡を辿って美姫と朱音がいるであろう方面へと向かう。
それを止めようとする盗賊に、横薙ぎが襲い掛かる。豪腕で振るわれた大剣は、上半身と下半身を無惨に千切り飛ばした。
その下を流れるような動きでメルフィードがすり抜け、女性の身体の柔軟さを生かし、極限までしならせた腕に持つナイフでその後ろにいた盗賊の胸を切り裂く。
その凄惨さは盗賊達の顔を強張らせ、二の足を踏ませる。
「覚悟してもらうぜ、オレ達の仲間のためになぁ!」
「……レナは、あっちに隠れてて」
「は、はい……」
太陽は盗賊達に血塗れの大剣を向け、メルフィードは杖を槍のように構え、同時に敵地へと突っ込んでいった。
「…………(くそ、信頼すると言っておいてなんて体たらくだ。結局、俺は心のどこかで皆を守らないといけないって思ってた訳か)」
龍聖は自身の心の中に顔を出す自責の念を押し殺し、気を断った盗賊達がざっくばらんに倒れている中でスピードを上げる。
その勢いで生まれた風が、周りの砂塵を吹き飛ばす。
しばらくすると微かだが、前方から金属が擦れるギリギリと言う音を聞き取る。それが剣戟音であることはすぐに分かった。
「!(鍔迫り合いの音! 間違いない、2人がまだ戦ってるんだ!)」
龍聖は音のした方向へと急ぐ。ここからはそう遠くはない、足跡が続く方向からだ。
◇
音のする場所へと辿り着くと、そこはリオネルが閉じ込められていた部屋よりも、更に豪勢な装飾が施され、相応の剛性を持っていると分かる扉が立ちはだかっていた。
しかし幸いにも鍵は掛かっておらず、容易に扉と枠の隙間から中を覗くことは出来た。
扉は廊下の簡素な部屋と違って部屋の端に付けられていたようで、死角はあるがほぼ全体を見渡せる。
部屋の奥の右隅には、壁際に追いやられつつ、盗賊の親玉と思われる体格の良い大男の戦斧を、双剣を交差させて必死に防いでいる美姫。
中心辺りには岩を両腕に纏わせ、大男程ではないが引き締まった体格の、幹部であろう男達の棍棒や鉈を何とか凌いでいる朱音もいる。
部屋の奥には、下っ端であろうヒョロい盗賊がニヤニヤ笑いを浮かべながら、頬にかなり深い切り傷がある人間の少女の首筋に、血の付いたナイフを当てていた。
少女は恐怖から固まってしまっており、自力で抜け出すことは難しいだろう。
「ほらほらぁ、人質を気にしてる暇があったら自分達の身を案じたらどぉだぁ!? くははっ!」
「く……っ」
大男は両腕に力を込めて、斧を押し込もうとする。美姫の双剣には血糊だけでなく大きなヒビが入っており、無茶な力を掛ければ即座に砕け、大男の斧が美姫の身体を両断するだろう。
蹴りを入れようにも、大男の脛には見るからに頑丈だと分かるプロテクターが付いている。壁際でなければそんな物は気にしなくても良い。別の部位を狙えば良いのだから。
だが壁際である以上、狙えるのは足下だけだ。大男が着けているプロテクターは、美姫の蹴りの一発二発程度ならば少し凹むくらいで済む。
そして大男は、親玉の名にふさわしい戦闘能力を持っている。動けない相手の蹴りを易々と受ける相手ではない。正に今の美姫は打つ手なし、八方塞がりな状態であった。
――そして、それは朱音にも言えることだ。
「ヒャハハハハハ!! 死ね死ね死ねぇ!!」
「おいおいおい、まだまだこれからだぜぇ? おらおらぁ!!」
「うぅっ……」
盗賊幹部2人の連撃を朱音は反応して岩を纏わせた両腕で受け続けるが、その顔には苦悶の表情が浮かんでいる。衝撃を殺し切れていないようで、限界が来るのは時間の問題だろう。
持っていた杖は既に粉々になって床に散らばっており、もう使い物にはならない。そしてこの場所には強力な、魔力を霧散させてしまう効果がある水晶球が隠されている。
これのせいで、朱音は十全の力を発揮出来なかったのだ。パーカーが無効化するのは魔法能力の低下であって、魔力の霧散ではない。
この時、龍聖が来なければ2人は『詰み』だった。為す術もなく盗賊達に捕まり、リオネル達と同じ扱いを受けることになったことは想像に難くない。
「フッ!!」
2人がピンチだと理解した瞬間、龍聖は扉を勢い良く開き、【ストレージ】からレナに渡した物とは別のナイフを下っ端の腕目掛けて投擲する。螺旋を描かないそれは風を切りつつ、吸い込まれるように下っ端の腕へと深く刺さる。
「痛ぇっ!!」
「ハッ!」
愉悦の顔を苦痛に歪めた隙に龍聖は部屋へ突入し、ペガサスシューズを使って空中でも加速する。そのまま部屋の奥へと瞬時に移動し、身体を後ろへ180度回転させ、本来の必要量の2倍魔力を込めた【斬岩脚】で、下っ端の顔面を刺し貫いた。
下っ端は悲鳴を上げる暇もなく意識を永遠の闇に葬られ、少女は解放されたのと同時に糸が切れたように気を失って倒れる。
魔法を解除し足を覆う岩を砂に戻し、崩れ落ちた死体の方には目もくれず、敵と認識した者に濃密な殺気を容赦なく浴びせる。
親玉と幹部達は怒鳴り散らそうとするが、その殺気が彼らの口を開かせるのを許さない。
「……俺の大切な仲間に、嗜虐目的で手を出すとは良い度胸だな、お前ら」
その殺気を浴びた者達はつい意識を龍聖へと向けるが、それが悪手だった。
「……! はぁっ!」
「ここっ!」
彼らの意識が逸れたのを見逃さず、朱音は幹部をはね除け、美姫は大男の斧を横に逸らして出来た隙間へ入り、壁際から抜け出して体勢を立て直し、龍聖の両隣に立った。
「先輩、助太刀感謝します!」
「いや、人質がいる以上、変な動きが出来なかったんだろ? 初経験なんだ、仕方がないさ」
「ううん、本当に助かったよ龍聖くん。ボクの武器も、そろそろ厳しかったみたいだし」
若干申し訳なさを感じながら、龍聖が来てくれたことに感謝する。龍聖は人質の少女の隣に立ち、2人が離れたのを確認すると、会話を途切れさせずにベスネリアで盗賊達を牽制する。
「この依頼が終わった後に渡すつもりだったけど、そんなことは言ってられなくなったな。朱音ちゃん、美姫、これを」
ベスネリアを持っていない手で、【ストレージ】から取り出されるは2人の新しい相棒。
美姫には少し反りがある白黒で1セットの双両刃剣。朱音には極彩丸のように、真っ直ぐな朱色の爪が腕の部分に収納された手甲が渡される。
それぞれ銘は【光闇双剣アポジット】、【地砕爪甲タウラス】。貴重な魔物の素材や鉱石、龍聖の魔力をふんだんに使って作られた逸品達である。
「うわぁ……パッと見ただけですごいって分かる武器ですね」
「今まで使ってた剣には悪いけど……これに比べると、ちょっと霞んじゃうね……」
それぞれ受け取って装備した武器を見て、素直な感想を溢す。今まで使っていた武器とは比べ物にならないオーラが、2人の手を包む。
「おっと、そろそろあちらも痺れを切らしてる。2人とも、いけるか? ……ちなみにアイツらの誘拐の動機は、人身売買だったみたいだ」
牽制だけで真面目に戦う気がない態度に、盗賊達が怒りで身体をワナワナと震わせ出したのを確認すると問い掛け、苛立ち気味にこの盗賊団の誘拐の動機を話した。
2人は同時に少し顔をしかめ、親玉達を睨む。
「……はい、当然です」
「ここまで至れり尽くせりな以上、やれなきゃ嘘だよ」
双方、準備万端なようだ。
その姿に満足したような顔で牽制射撃を止め、ベスネリアをレッグホルスターに収める。そして盗賊達に背を向け、2人の肩に手を置いた。
「じゃあ、ここからは2人の独壇場だ。君達の力、ここで見せてくれ」
そう言い残すと龍聖は少女を右腕で抱き上げ、部屋の端へ座った。
自分無しでどこまでやれるかを見るのもあるが、一番の目的は盗賊達の挑発だ。暗に「もうお前らごとき、自分が出るまでもない」と、盗賊達のプライドを逆撫でしたのである。
「てめぇこの野郎ぉ! ふざけんじゃねぇぞぉぉぉ!!」
「オレ達を舐めやがってぇぇぇえええ!!!」
「なぶり殺しにしてやる!!」
案の定激昂した親玉と幹部達は龍聖に飛びかかろうとするが、美姫と朱音の2人に阻まれてしまう。
「悪いけど、あなた達の相手はボク達だ」
「これまで何の罪もない子達を虐げた報いを今、受けてもらいますよ!」
美姫と朱音は劣勢が嘘であるかのように、自らに迫る攻撃を弾き飛ばした。
「よし、上手く使えそうだ」
「これなら……さっきよりはマシな戦いが出来ます!」
あちらが体勢を整えている間に、新しい相棒の性能を軽く素振りして確認する。そして、体勢が完全に直る前に奔った。
「さあ、大逆転だよ」
「私達の力、とくとご覧あれ!」
2人の戦乙女が宣戦布告をし、各々の武器を振りかぶった。




