第8話『暗闇と声』-2
「どうやって反撃すっかな……」
『灰色、爆破』
考えている時間はなかった。
この周辺で灰色といえば、崩壊したコンクリート。
「隠れるぞ」
「ふええー」
小さいアサヒを抱えて走った。
お店の通路側に展示されているガラスのショーケース、そのまま店舗の内側に転がり込む。
すぐそばで起こる爆発。砕け飛び散るガラスのショーケース。
灰色のコンクリートを声で爆破しやがった。
「メクリ、生きてるか!」
「近くのお店に避難しております」
「チャンスがあるまで突っ込むなよ」
「了解です」
マップで位置は把握できる。相手デバイサー、ミオンって奴はきわめて近くにいた。
「さっきの声、女の子だったよね?」
「ああ、だから武器を振り回して突撃ってタイプじゃない」
相手は一ブロック。しかもあの時ヨルコが気がついたように、同じ<ボイス>ってアプリをコピーしている。
普通なら俺のアプリと同じで、リキャストが発生して連続使用はできない。
一ブロックってことは……。
「最低でも五連発は来るぞ、これ」
「レンガ君、やめてよー」
「悪いの、俺じゃねえし!」
ミオンって子がどう攻めてくるとしても、俺とメクリなら一気に接近戦に持ち込める。
一応、サポートにアサヒもいる。
思い出せ。最初にミオンはなんと言った?
アプリ発動の時、まず『色』の指定をした。
白は俺たち学園の制服の色だ。当然この制服には白以外の色も混じっている。だから部分的な『発火』で済んだ。もし全身が真っ白ならとっくに大ヤケドだった。
次も同じパターンだ。色を指定して効果を命じる。それもミオンの声が届く範囲のみで実行される。
「どうするの、レンガ君?」
「相手が爆破系なら何とかなる。お前、お掃除アプリ持ってたよな」
「うん、なんでも吸い込むよー」
答えは出た。騒音アプリの<ノイズ>をインストール。
「俺が盾になって正面から行く。掃除機出す準備して後ろからついて来い」
周辺は真っ暗だ。とにかく動きづらい。
「どこのマンガでも出てくるんだよ、あいつみたいな爆破能力者が」
デバイスを見ながら距離と位置を確認する。
「聞こえてるよな? 参考までに教えてやるよ。とある爆弾魔は逃げ道を塞がれて叩き潰された。とある爆弾魔は不意の接近戦に持ち込まれ、術を発動する間もなく喉を食いちぎられた。爆破能力者を倒す方法なんていくらでもあるんだ」
『左の眼球、爆破』
一瞬だった。
「くっそおおおーっ!」
弾けた。
完全に視力がゼロになった。左目だけ何も見えない。
相手の効果を読み間違えた。発動条件は色だけじゃなかった。
おそらく相手が見えている場所も『指定』できるアプリだ。
つまり今、ミオンは俺の目の前にいる。ガレキの山を盾として使いながら。
片目を失った痛みに耐えながら叫ぶ。
「アサヒ、デバイスを見てくれ! ターゲットは!」
「すっごい近く!」
「やっちまえ!」
「<お掃除>発動!」
アサヒの持っている掃除機アプリが一気に周囲のガレキを吸い込んだ。
一切の障害物が消える。
次のボイスがくる。
「やらせるかよ、<ノイズ>発動!」
わずか五秒。
ザアアアーっという耳障りなノイズ音が大音量で周囲に広がった。
相手の声がこちらに届かなければ<ボイス>効果は発揮されない。
ここまで接近すれば、どれほどの暗闇でも相手の位置は分かる。




