第4話『ドラゴン襲撃』-2
あいつがデバイスのマップを見た。今さら俺たちの存在に気がついたようだ。
「いよーう、レンガ君。さっきはガツンとやってくれたなァ! 新刊マンガ探して逃げたのかと思ったぜい」
「マンガをバカにするなよ。……俺はマンガの強さを信じてる!」
あいつを睨んだまま、すぐそばのヨルコに小声で告げた。
「先に逃げろ」
おそらく同じ戦法は通用しない。ヨルコのガードはリキャスト中。あの時、逆転に成功したフロートもリキャスト中。
「なに言ってんのよ、レンガ……」
ヨルコが苛立っている。顔を見なくても伝わるほどに。
「あいつの対処法は分かってる。メクリもいるし、俺一人ならなんとかなる」
「でも!」
「頼む。……探索アプリ、リキャスト解除までどれくらいだ?」
「あと数分で使える」
「それでアサヒとユウトの位置を再確認してくれ。まずあのメンバーと合流だ。アサヒもデバイス持ってるし、敵に遭遇しても逃げるくらいならできるだろ」
無言の数秒。たぶん、すげー怖い顔で睨まれている。危ないから隣りは見ない。
「死んだら、許さないからね」
「ヨルコさん、ご安心を。マイトリガーはワタシのおっぱいを揉むまで死にません」
「そう、そうね。……レンガのこと、お願い」
「承知しました」
よし、こうなったら時間稼ぎだ。
ヨルコの気配が離れていくのを確認して、キバを見上げる。
「なあ先輩、そんだけ体力余ってんなら冬眠中のクマでも探してこいよ」
「言ったな、壁無レンガ。だがなァ、今はセプテンバーな九月だぜい!」
バカやってるあいだにヨルコは逃げた。
とにかくデバイスを調べる。ここを切り抜けるための秘策アプリ……。
そういえば<かけ算>って使ったことなかったな……。
二の段しかできないゴミアプリ。キバとの会話で時間は稼げる。
まず<飲料水>を削除して、かけ算をインストール完了。
アイコンをタッチ。
『ターゲットを指定してください』
かけ算のターゲット……?
意味が分からなかった。
とりあえず場所を指定して近くの小石に設定。メッセージが表示された。
『ターゲットの強度が二倍になりました』
確かに二の段。一個の小石が二倍に強化された。
「待てよ……」
とんでもない事実に気がついた。
勝てるぞ。
たとえ二の段でも、このかけ算があれば……シャッコウに勝てる。
もう一度使おうとして、指が止まった。リキャスト中。待機時間は一時間。
メクリの<奥義>もリキャスト中、まだまだ時間はかかる。
ただ、この二種類のアプリがあればシャッコウを正面から潰せる。
だがどうやって、あと一時間も稼ぐ?
さすがに無理だ。この状況では前回のような時間稼ぎはできない。使えるアプリもない。
やっとまともにバトルできる戦法が見えたのに。
このままでは生き残れない。
「いくらザコでも生き残りデバイサーの人数、知ってるよな? オレはまだまだ殺すぜい、ザコはスッキリさせないとなァ。そう思うだろ?」
あれだけ大量に殺人を犯しておきながら、こいつの殺意はまったく薄れていない。悪意は衰えていない。
「まだ殺すつもりかよ」
「まだまだァ、当然だ。オレ様の視界をさえぎっただけで万死に値する。ゴミに生きる価値なんてないだろう?」
腹の底から湧き上がる怒り。脳天吹っ飛ぶほどの怒り。純粋なまでの俺の怒り。
犠牲になった人たちがどれほど苦しみ死んでいったか。
この男は何も理解していない。何も感じていない。
叫ぶ。
「このド百パーセント屑があああーっ!」




