第4話『ドラゴン襲撃』-3
「踏み潰せ、シャッコウ!」
巨大な前足が迫る。
「トリガーッ!」
潰される寸前でメクリに突き飛ばされた。
目の前で身代わりになったメクリ。踏み潰され一瞬で消滅する。
<アプリ/ブレイク>
即死は免れたがシャッコウの足先、鋭い爪に制服が引っ掛かった。とっさに動けない。
「死んだか、潰れたか、死んだか、あァ、オイ?」
余裕たっぷりキバが見下ろしてくる。
「うるっせえな、ここで俺が死んだら打ち切りだろうがあああーっ!」
「じゃあ、もっと足掻けよなァ、ザコが!」
「だから黙れっての。マンガも大事だが、それ以上に大事なモンがある。どんだけ情けない醜態を晒したっていいんだよ。俺は生きなきゃいけない。生きて生きて、柔らかおっぱい揉み倒すまで生きてやらあああぁぁぁーっ!」
「袋とじでも覗いてろ、ザコがァーッ!」
「盛り上がってるとこ邪魔するぜ、学生さん!」
トザンが発砲。残りの弾をありったけキバに撃ち込む。
が、そのすべてがことごとく不自然な軌道で逸れていった。
「こういうことかよ……」
至近距離で見てはじめて分かった。あのスキルがあるかぎりキバを傷つけることはできない。
「おい、オッサン。お前、圧倒的バカだろう。当たるわけねーだろうがッ!」
それまで俺がターゲットにされていたのに、刑事さんが目をつけられた。
「シャッコウのスキル条件は、オレとシャッコウが『触れて』いること。こうしてここにオレ様がいるかぎり、絶対回避は常に発動し続ける。制限時間はなァい」
完全にターゲットが変更した。
レッドドラゴンが動く。シャッコウに蹴り飛ばされて俺の身体はあっけなく吹っ飛ぶ。
道路に叩きつけられ全身が痛むが、おかげで爪から引き離された。
「弱い奴が死ぬ。それが最高のルールだァァァーッ!」
トザンが、目の前で喰われた。
シャッコウが首を伸ばし、地面もろとも丸かじりされた。
「まだ死ねない。まだ死ねないんだ!」
口の中から叫びが響いた。
「娘が病院に……」
鋭いドラゴンの牙。その隙間から必死に腕を押し出す。
「ユナに……会わせてくれ、頼む……」
使うことのできなかったデバイスが、トザンの片腕がシャッコウの口からはみ出した。
「……娘を、ユナを、頼む……」
「やれ、シャッコウ」
噛み砕いた。
血しぶきを飛ばし、ちぎれた腕が落ちる。
そして飲み込まれた。もうトザンの声はしない。
だが聞こえた。あの人の最期の言葉。最期の願い。
するとシャッコウが器用に落ちていた片腕を咥えて拾い上げた。
上にいたキバがその血だらけの腕を受け止め、無理やりデバイスを引き剥がす。
シャッコウの口から飲み切れなかった大量の血が溢れ出した。奴のアゴから信じられない量の命が滴り落ちる。
「ほらよ、プレゼントだ」
キバが放り投げてきたもの。
腕だけ。大量の血にまみれた片腕。
地上にこぼれ落ちた赤。
砕けたコンクリートに染み込む赤。
目の前で血の柱が吹き上がった。二本目の血槍が天に昇る。さらに封印が解けた。
「ザコ同士、仲良く握手でもしとけや」
残されたトザンの腕を抱きしめる。
託された思いがここにある。
「……あの人は、ただ家族に会いたかっただけだ。娘さんと一緒に逃げたかっただけだ。それなのに……お前は。……お前は!」
俺は泣いていた。
トザンはもう泣けない。
その分だけ、俺の涙は溢れた。
血だらけのトザンの腕を抱き、叫ぶ。
「受け取った。あんたの願い、確かに俺が受け取った!」
俺たちは今、可能性の上に立っている。
死なないという可能性。
生き残れない可能性。




