No.72:アルナイルの夜明け
最終回となります。
かなり暴れたため国の中心部の街は派手に壊れている。それでもシャルロットの魔術を使えば1週間ほどで直る。本当に便利な魔術である。
先に街の復興を終え、後に城の修復がされた。元の姿形に戻っただけでなく強度も増したらしい。
全ての復興が終わりその日の夜。アーサーはフィリクスに呼び出された。場所は街を一望できる城と繋がっている塔。主に上から城へ入ってくる人を見る場所でもある。アーサーは急いでそこに向かった。
塔の頂上に着くとフィリクスがいる。当然ではあるがいつもと雰囲気が違った。
「団長、何ですか。こんな狭いところに呼び出して」
「ここならあまり人も居なさそうだからね。それよりその腕は大丈夫?」
「手袋をすればそんな目立たないし、騎士団の制服長袖なんで見えはしません」
「ならよかった。本当に悪い。本来であればアーサーが帰ってくる前に終わらさないといけないのに。結局こうなってしまった」
「いえ、そんなことは。久しぶりに帰ってきたら変わってたことがありすぎて混乱してましたけど、今はもうこれが現実と受け止めて前に進みます。これからもお願いします」
「あぁそのことだけど、僕とシャルロットとイーニアスは騎士団やめるよ。それと陛下も皇帝の座は降りるって言っていたよ」
アーサーの思考が止まった。すぐにフィリクスの言うことに対して頭に落とし込めなかった。
「いや、待ってください。やめるって言っても、次の団長は? 皇帝は? そんなすぐに見つかりませんよ。ならせめて一時的だけでも」
「それなら心配ないよ。皇帝はアーサーすればいいから」
「はぁぁぁぁぁ!? いやいや、意味不明ですから。俺が皇帝? 無理ですから。それにまだザガンとも別れたくない」
「大丈夫、アーサーには良い二つ名もらってるだろ? “神速の騎士王”って。王の名を冠してるし、ザガンの肩書き王と総裁だし、皇帝じゃないけど王様としての要素はちゃんとある。それにアーサーはファン多いからすぐに国なんてまとめ上げるよ」
アーサーにとってそんなことはどうでもよかった。二つ名も勝手に人が名付けたもので、ザガンとは波長が合っただけだ。ファンが多いなんてものはアーサーにとって関係ないのだ。
「そんなことよりも俺は団長と一緒に任務する方が好きなんです。騎士団に入ったのも団長に憧れたから。団長がかつて俺を救ってくれたあの姿に、あの剣に魅せられたから入った。王になることなんて俺は望んでません」
「アーサーが昔攫われたことは覚えてる。その時アーサーがどう思ったかわからないけど俺はそんな高尚な人間じゃない。アーサーの方がよっぽど偉い。10年前氷漬けにされた時、あんな行動は普通の人間じゃできないこと。それに陛下や騎士団のみんな、臨時政府も認めてる。アーサーなら問題ないってね」
「なら少し考えます」
フィリクスはその場を後にした。アーサーは髪の毛をくしゃくしゃと乱し、悩みに悩んだ。
次の日、起きると塔の上にいた。しゃがみながら悩んでいると寝てしまったようだ。
城の敷地内でボーッと歩いているとエリスと会った。
「次期王しての覚悟は決まった?」
何を言うのかと思ったら王の話。
「何で俺なんだ? 陛下の時みたいに民間か貴族から出せばいいのに」
「今回の行動は民を混乱させたのは事実で、やっと生活が戻り始めたのに王を決めるなんてものは無理なんだって。その混乱をさせたのは私たちだからこの落とし前は全て私たちがやらないとだめなの。そして誰を立てるかを決めるときに満場一致でアーサーが選ばれた。だからアーサーにやってほしいの」
「その会議出てないんだけど」
「アーサーが氷漬けの時にされたものだから知らないのも無理ないと思う。全てを押し付けることになるけどアーサーならきっとできると信じてみんなアーサーを王にしようとしてる」
「勝手だよ。ほんとみんなは勝手すぎる」
「かもしれない。でもこれはアーサーにしかできないことなの」
アーサーはみんなの身勝手さにさすがにがっかりした。なぜ自分なのか、もっとやれる人はいる。帰ってきて国は変わってきて、家族は殺されていて、やっと前に進もうとした矢先にこれだ。アーサーはエリスの言葉を無視し、敷地内から出た。
アーサーが向かった場所は学院祭が行われた会場。とても懐かしく感じる。広い会場のど真ん中に座り込みそのまま寝転んだ。
「なぜ王にならん。ワシなら喜んで引き受ける」
「ザガンか。いや何、つい最近まで下級貴族で、さらに氷漬けされてて、起きたら家族が殺されてて、反乱軍側で、終わったら王様になれとか、正直お腹いっぱいだよ。何でザガンは喜ぶの?」
「そりゃ王になれば他の奴らはワシより下、つまり72柱のトップに立てる。それほど気持ちがいいもんはないな」
「それ自分が有利なだけだろ」
「あぁその通りだ。王なんてものはそんなものだ。王が上でそれ以外は下。単純な話だ。ただし下の者の責任は王の責任だ。そして放つ言葉や行動も全てのしかかってくる。それ以外となると王は憧れの存在でいなければならないことだな。小僧があの男に憧れたのと同じようにな」
「憧れかぁ。まぁ憧れるのはわかる気がする」
「それにお前が王になればこの王制を廃止できると言うことでもある。お前らが言う真の平等に近づける一歩にもなるだろうな」
アーサーは横になっていた体を起こし立ち上がった。そして急いで会場を出た。
目的地はディオニスの所。ディオニスは現在私邸にて体を休めている。
アーサーはドアをノックした。ディオニスは扉を開きアーサーを中に入れた。
「陛下、私を次期皇帝として推薦していただきたい」
「いや、元よりその話なんだが、何かあったのか」
「私がなれば陛下が目指した平等を実現できるからでございます。それにエルネストの言っていたこの大地の裏側の事情も私なら出来ることでしょう。なので私に座を委ねていただきたい」
「元からそのつもりだが、アーサーの考えが聞けて良かった。では1週間後に戴冠の儀を執り行うとしよう。皆にはそう伝えておく」
この1週間が忙しすぎて忘れていた。アーサーは前皇帝の約束を守らなければならない。悩む必要はなかった。
1週間後戴冠の儀当日。アーサーは立派な鎧に身を包みマントを羽織っている。
「いやはや、なかなか決まっているな、アーサー」
「そうでしょうか。陛下ほど貫禄はありませんがしっかりとやりこなしてみせます」
「うむ。それと陛下ではなく皇帝代理」
アーサーは緊張しているが晴々とした気分だった。
ついに戴冠の儀が始まった。音楽隊の演奏とともに大きな扉がゆっくり開き、アーサーはレッドカーペットの上を堂々歩く。両脇には貴族、元政府関係者、騎士団員や来賓の方々など沢山の人が集まっている。
ディオニスに王冠を授けられ王としての誓いの言葉を言い、戴冠の儀は終えた。あとは全国民の前で宣言するだけとなった。
城の敷地内外、その周りには国民が沢山集まっている。
「緊張してきた〜」
「あとちょっとだから頑張って」
「そうです。終わればすぐに今後の方針を決めなければならないですが、とりあえず頑張ってください」
「エリスもリアも気楽だよな。さっきまでそんな緊張してなかったのに。団長がお腹痛くなる気持ち理解できそう」
「さぁ早く行って来なさい。早く済ませば楽だよ」
「わかったよ。じゃあ行ってくる」
アーサーは1呼吸、2呼吸してから一歩踏み出した。
見下ろせば沢山の人がいる。緊張で心臓が張り裂けそうだった。深呼吸し、声を発した。
「たっ、高い所から失礼。今回皆に集まってくれたことを感謝する。この度皇帝、いや騎士王として戴冠したアーサー・アルカディアだ。今回、私が王してなるにしたがい、ここで皆に2つ約束する。まず1つ、私の目指すものはここにいる皆が平等で、暮らせる国を造ること。そしていずれは貴族階級も消え、王制も無くなることだろう。けれどそれでいいと思っている。ここにいる民が国を動かし政治をする。今までの在り方とは全く別のもので困惑するかもしれないが、それがこの国のためと思っている」
話すと緊張が解けてきた。民も真剣にアーサーの声に耳を傾けている。
「もう1つは平和にすること。この国だけでなく、世界中を平和したい。そして世界中の国と繋がり争いのない世の中にしてみせる。私はまだまだ未熟ゆえ私1人ではおそらく事を成すことはできない。だからここにいる皆に手伝ってほしい。国と民が一緒に切磋琢磨しあえる国を私は造る。だからアルナイルの民よ、私を信じ付いてきてほしい。第1代騎士王として、そして最後の王してここに戴冠する事を宣言する」
とても静かだ。しかし1人2人と拍手しだすと全員に広がり歓声や拍手でその場は包まれた。
アーサーは振り返り鳴り止まぬ拍手と歓声を中、城の中へと戻った。
今ここから歴史が始まる。そして神速の騎士王は生涯最高の王としてアルナイルの民に記憶に残り永遠と称えられることだろう。
少しいつもより長いと思います。ですが今まで読んでくださった方々ありがとうございます。ソロモン王の魔神の数72、本編の話数も72。少し強引な部分もありましたが初期段階からの目標は達成しました。次回作も投稿する予定なのでこれからもよろしくお願いします。




