No.58:絶対氷結魔術
ラヴレンチが見せてくれた氷の魔術はオフィーリアのそれとは全く別種のものだった。通常は凍らせるだけで凍らされた者の意識はそのままだ。しかしこれはそんな生温いものではない。意識、魂すら凍らせ殺すこと出来る。
「傀儡の魔術を知っておるか?」
「はい、今ではそのあり方が歪かつ非人道的だとして禁止になってますね」
「うむ、この魔術はそのために作った魔術でな。傀儡は死んだ人から作る。傀儡の条件は死んで間もない魂がまだある死体とされておる。それを防ぐための魔術がこの絶対氷結魔術」
「生きてる人に使えば即死なんじゃ」
「うむ、それ故に今まで秘密にしておった」
そんな魔術を教えてもらっていいものかとアーサーは思った。使い所が少なすぎるのもそうだが、今まで以上に簡単に人を殺せる魔術の危険性を感じている。ラヴレンチはどうしても教えたがっているから無下にもできない。
実はというとソロモン王からもらった魔眼は健在だ。あの時は弱点を知るものだと考えていたがそうではなかった。本来は流れている魔力を読み取ることがメインで副次的なものとして弱点がわかる。ラヴレンチが使った時の魔力の流れ、頭の中で教えてもらった術式の構築、あとは真似をするように放つだけ。
「さすがは魔眼持ち、あっさりとものにしおったわい。だが威力が足りん。あとは反復するだけじゃ」
とりあえずは成功だがラヴレンチほど巨大な氷塊はできていない。
少し感覚が掴めたところでその日の練習を終わりにしフィリクスとエリスと合流した。ちょうど地下の調査を終えたところだ。ラヴレンチは家に戻り3人はフィールドワークに入った。
「地下のことだけどやっぱり氷が溶けてきていたよ。それは地面踏んでたらわかることだけど」
ここに来てから地面が少しぬかるんでいる。何十年前の記録によるとこんな状態ではなかったらしい。
ラヴレンチが言っていた凍っている海に着いた。本当に凍っていて見える範囲は全て氷だ。その氷の上を見ると水が流れ出ている。
「これ全部溶けたらここら一帯海になるんじゃ」
「可能性は大いにある。もう溶けて始めているのは確実だ。出来るだけ早く帰って報告して何とかしないと」
「今帰らないんですか?」
「アーサーの魔術があるからそれが終わったら帰ろうかなと思って」
「いや、俺のこといいんで先帰ってくれても」
「そういうわけでもいかないだろう」
フィリクスはそう言って2人とともにラヴレンチの所まで戻った。
戻るとラヴレンチに状況を説明した。今の状況は氷が溶け始めていて何十年もしたら確実に氷が溶けて水が流れてくる。とりあえず3人には永久に凍らせる魔術を持ち合わせていないため一度帰りシャルロットにそういった魔術を作らせる必要があると進言した。ラヴレンチも了承しこの場はそれで終わった。
今回の調査とは別にアーサーの氷結魔術習得もあるためとりあえずそれを終わらせて帰ることにした。
習得は意外と早く終わりそうだ。ひたすら反復しコツを掴み今はラヴレンチよりほんの少し威力が弱いところまできた。
「アルキミスト、いるか?」
「何や、あの老人はどこ行った?」
「ラヴレンチさんは家の方にいるよ。それよりこの魔術どう思う」
「どう思うと聞かれると、これは相当危なっかしい魔術であることは変わらん。恐らくやけどこんなん使われたら悪魔でも即死、けれど魔神様たちなら耐える」
「そうか」
アルキミストは消えた。アーサーは立ち上がりまた反復を始めた。
その日の練習は終わりラヴレンチの家に戻るとよくわからない人たちがいた。気になり近づいた。
「わしの考えは変わらん。あの魔術を教えるわけにはいかん」
「そうか。ならまた来ることにする。その時までに決めておけ。次は手段を選ばない」
よくわからない人たちは立ち去った。
「あの人たちは?」
「なんでも、氷結魔術を提供してほしいとか言う奴らじゃ。何年も前からここに来ておる。わしが我慢しておることにも気付かずよく来るわい」
「そうですか。団長たちは?」
「あいつらなら海の方へ見回りに行っておる」
アーサーは家の中に入り一足先にくつろいだ。海の方に見に行くこともできるが魔力を使い切っているため体がクタクタだ。フィリクスたちも戻ってきて夕飯を食べてその日は寝た。




