No.56:我らの時間
魔神ゴエティアがいる場所は城壁の外。神速を使い城壁内を駆け抜ける。
外に出ると禍々しい姿の魔神が遠くに見える。大和国の時と形が同じだがこちらは姿がはっきりしている。巨躯で黒い翼がある。
さらに近づくとソロモン王と魔神たちが攻撃をしている。しかし攻撃は周りにあるバリアのようなもので通っておらず効いていない。それにまだ完全に覚醒しきってない様にも見える。その間の防御手段と考える。
「ソロモン、状況は思わしくないようだけど」
「全く攻撃が通らないからね。それにまだ覚醒してないからその間に片付けたい」
気持ちはわかるがそう出来ないのも事実だ。71体の魔神の総攻撃すら通らないバリアとなると壊すのは不可能だ。
「なら覚醒を待とう。覚醒したらあのバリアも無くなる。そこを全力で攻撃してやるしかない」
「だけどあんなバリアをはる個体だ。相当な魔力量とみていい。そんな簡単にできるのか、アーサー?」
「やるしかないよ。これ以上無意味な攻撃は魔力の無駄になる。それにあの最強魔術あるから大丈夫だよ」
ソロモン王は承諾し魔神達にも伝えた。
刻々と時間が過ぎる。陽が真上に来た時ついに魔神ゴエティアは動き出した。バリアが消えていき閉じていた目を開き覚醒とともに奇声をあげる。
「始めようか。アーサーと魔神たちは全力で抑えてほしい」
魔神たちは「御意に」と声を揃えた。魔神たちは一斉に行動を開始した。ソロモンも準備をしだした。
「ザガン、こっちも行くか」
「そうするしかないようだしな」
「行くぞザガン、80パーセントだ!」
「使い方をわかっておるようだな」
いつもは右半身にしか出ていない紋様は左にもいき体のほとんど侵食した。その力は凄まじく本来の魔神の力を8割を発揮できる。アーサーと魔神たちはゴエティアの暴走を止めるため攻撃した。
一方ソロモン王は、地面に魔術を構築していた。これは神と意思疎通を図るための魔術。アーサーの時代では魔力の質と量の違いのために使用ができない貴重な魔術だ。
「万軍の神よ、私に力を。イラーフ・デレット」
光り出し扉が現れひとりでに開いた。ソロモン王はその中に手を入れた。
「万軍の神よ、あれを倒せるだけの魔術を」
ソロモン王は扉から手を抜いた。そしてイラーフ・デレットも閉じた。
ソロモン王は詠唱を始めた。ソロモン王を中心に次々と地面に魔術が構築されていく。
最後の一節が終わり詠唱を完了した。あとは放つだけだ。ソロモン王は魔神たちを呼び戻した。アーサーも同時にその場を撤退した。
「じゃあ、やろうか。これで無理だったら一緒に死のう」
「縁起でもないこと言うもんじゃないよ。ダメだったら最後まで足掻くだけだ」
「僕にはない考えだ」
「どういう……」
「万軍の神の下消え去るといい。インフィニート・ディオ・ソルダード」
ソロモン王の放った魔術は魔神ゴエティアに直撃した。しかしそれだけではなかった。その魔術は段々と広がっていきアーサー共々巻き込まれた。
目を開けるとそこは真っ白な世界。立っているという感覚はなく浮いているに近い。歩こうと思っても進んでいる気がしない。そもそも歩けているのかさえわからない。
「やぁ、アーサー」
振り向くとそこにはソロモン王がいた。だが同じソロモン王だがアーサーの知るソロモン王とは違う。
「あなたはソロモン王なのですか?」
「そう、僕はソロモン。君が疑問に思っていることを答えよう。君がこの4年間接してきたソロモンは僕が作った偽物だ。もしソロモン王にあのような友人がいたらどういう人生を歩んだかのIFの物語。だけど僕は僕だ。いつも通りに接してくれたら嬉しいかな」
「そういうわけにはいかない。ソロモン王よ、なぜあのようなことを」
「言っただろ、もし友人がいたらの話だ。僕の本当の人生はあのように綺麗なものじゃない。もっと過酷で酷い人生だった。だけどこれらを変えることはできない。なら自分で作り上げようとしたんだ。それこそ僕が生涯最後に構築した魔術、“記憶に刻まれし我らの時間”」
「我ら、ソロモン王とその周りの人ではなくソロモン王とその友人の物語というわけですか」
「そう、でも大方の話はほとんど変わらない。父上が亡くなり僕が継いで国を作った。その過程に友人がいたらの話が今回君が体験したんだ」
ソロモン王は少し暗い顔をしている。友人がいない、つまり頼れる人がいない。アーサーには考えられないことだ。暗闇の中で1人苦心し疲労しても前を見続け国を繁栄させていった。
ソロモン王は友人がほしかっただけの男だった。何も変わらない1人の人間。それだけのためにあの本を作った。アーサーはその願いに応えれたのかわからない。親しやすさを演じていた内心は自国の王として尊敬していた。アーサーにとって友人ではなくかつての偉大な王としていつも見ていた。
アーサーの手や足体が段々透けてきた。もう時間のようだ。
「楽しかったよ、アーサー。もう会えないから言うけど国のことを頼んだ。君の時代とは違うかもしれないがいつまでも繁栄していってほしい」
「はい、仰せのままに」
「最後くらいは友人のようにしてほしかったな」
アーサーはソロモン目をしっかりみて最高の笑顔を見せた。
「じゃあな、ソロモン」
「あぁ、さよならだ」
アーサーは体はその場から消え去った。ソロモン王もその空間もなくなった。
懐かしい声が聞こえる。この声はエリスだ。体を揺らされ何回も呼びかけられた。
ようやく目覚めた。場所は図書館の地下、薄暗く光っている。横を向くとエリスがいた。
「こんな所で寝てたらダメでしょ。早く帰ろ」
「戻ってきたんだ」
「何が?」
「何でもない」
アーサーはエリスと一緒に図書館を出た。外はもう暗くなっている。現実に起きていたことなのにあの出来事が夢のようだ。けれど明確に覚えている。忘れてなんかいない。生涯忘れることはないだろう。アーサーとソロモン王の時間を。
4章本編は終了します。この章の最後はknight's Memoriesで終わります。




