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神速の騎士王  作者: 天月 能
2章 倭国事件
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よりみち:椛の人生2〜新しい家族〜

 こうして椛はしし丸に連れて行かれた。場所は大和国の領土内にある小さな村。歩けば半日かかる所に椛は連れて行かれた。着いた時にはもう朝を迎えていた。しし丸はその村で代々守護者の役割を担っている。そのため大きな山も所有しているがその割に家はかなり質素そのものだった。

 家に着くとしし丸は椛を下ろし水とご飯の用意し始めた。出来上がると椛の座っている所の前に置いてしし丸も自分の分を食べた。


「お宅のとこよりはまずい飯かもしれんが食えよ。栄養失調で死んでしまうぞ」


椛は箸を持ちしし丸の作ったご飯に手をつけた。美味しかったのかパクパクと食べ全部食べきった。しし丸も食べ終わり御膳を下げた。そしてしし丸は椛に今後のことを話始めた。


「とりあえずだ。お前さんには二択の道がある。1つは普通にここで過ごす。もう1つは忍者になって力を制御出来るようになること。俺は後者を選んでくれっと嬉しいんだか。どうする?」


「力を制御してどうするのよ。制御しても意味ないかしら」


「制御する意味はある。お前さんの中にある龍を取り出す。その為には制御できねぇと無理なんだ。取り出すことができたら晴れてお前さんは普通の人間になれる。それに父親と母親の分まで生きたいのなら心も体も強くなる必要がある」


「父上と母上の分……」


「そうだ。残されたお前さんは父親と母親よりも長く生きなきゃならねぇ。その為にも強くなる必要があってだな。俺がお前さんに与えられるものが忍者としての力しかねぇから忍者なんだけど、まぁそういうことだよ」


「もみじは強くなれるかしら?」


「なれる。断言しよう。もみじ、お前は強くなる」


「わかったのよ。もみじ強くなって父上と母上よりも長く生きる」


しし丸はホッとした。これでなりたくないなんて言われたらあそこまでした意味がなくなるからだ。兎にも角にも椛の忍者にするため修行が始まった。

 あれから3年後。5歳の椛も8歳となった。椛は要領がとても良かった。魔力の操作も魔法や魔術、印の結びもすぐに会得。7歳の時にしし丸と共に依頼を完璧にこなしその頭角を現した。8歳となった今では龍の力を制御し自分の力に昇華できるまでになった。そしてついに体内の龍を取り出す時がやってきた。


「この山にこんな大きな穴があったなんて知らなかったのよ」


「この3年間必死になって掘ったんだよ。土の処理にかなり手こずったよ。とりあえずこの魔術陣の中心に座って服を脱げ」


「そんな趣味、もみじにはないかしら」


「違う、違う。肌に直接呪印を書かないとダメなんだよ。それにお前の裸は見飽きてるし」


「サイテーなのよ。畜生なのよ、師匠は。もう少し女に優しくてもいいかしら」


「じゃあもっと一端の女になってから言いなさい」


なかなか毒舌な性格に育ってしまった。しし丸もこんな性格に育つとは思わなかった。将軍になんて言おうかと日々考えている。そんなことを考えていると椛は服を脱ぎ終わり座った。しし丸も筆を椛の体にあてどんどん呪印を書き始めた。


「くすぐったいのよ」


「もう少しだ。我慢しろ」


しし丸は体の至る所に呪印を書いた。書き終えるとしし丸は距離を置き魔術を展開し始めた。


「椛、自分の体外に魔力を出すな! 持ちこたえろ。もう少しだ!」


椛は苦しそうにしている。体が焼けるように熱く自我が吹き飛びそうになった。そしてついに龍は椛から離れ1つの個体となって現れた。巨大な蛇のように長く手と足が2本ずつ、頭の部分には立派な鬣が生えている。肌は白く所々に赤やオレンジといった色もある。


「我は原初の龍。貴様(・・)の呼びかけに姿を晒した。」


「そんな貴様を強調しなくても……。とりあえず椛、服着なさい。んで原初の龍と言ったな、なんで椛の中にいた?」


「我は一度死んでいる。しかしその魂はこの娘に惹かれ産まれると同時に娘の体内へと入った。8年の年月を経て我は魂から肉体のある龍へと戻ったのだ。この娘の修行と努力のおかげだ。感謝する。では我はこれにて失礼する」


「待て待て待て。お願いがある。願いは2つ。1つ、椛の口寄せの契りを交わしてほしい。2つ、この土地の守り神となってほしい」


「うむ、我をここまで育ててくれたのだ。口寄せの契りを交わすくらいならよかろう。しかしこの娘の返答次第だ」


じっとしていた椛は口を開いた。口寄せの契りを交わすと龍の前で堂々と言った。龍は承諾し大きな顔を椛に近づけた。


「では口寄せの儀に移ろうか。やり方は簡単だ。我にに触れ我に名を与えよ。それが我とお前の契りとなる」


椛は少し戸惑った。名前をつけろと言われてもすぐには出てこなかった。椛は今までのことを思い出した。父と母の死、この3年間の修行の日々。この国のことやこの村であった事を走馬灯のようにどんどん頭の中で流れていった。椛はそっと龍に触れて言った。


「決めたのよ。名字は龍神、本姓は火之、諱は龍皇、大和国を守り安寧をもたらす事を誓え。龍神大和守火之龍皇。それがお前の名前かしら」


「よかろう、その名しかと受け取った。これより我の主人は椛とする」


「盛り上がってるとか悪いけど、守り神の件は……」


「それくらいなら別に構わん。しかしこんな穴蔵にずっといるのは退屈だ。条件として定期的に酒を持ってこい」


「それくらいならお安い御用だ」


こうして原初の龍、龍皇は椛の口寄せ龍となりさらに大和国の守り神となった。その後しし丸、龍皇、椛は帰還する1年を共に笑い、ご飯を食べて修行して暮らした。

 それからまた1年経ち椛は洛陽に帰る日となった。椛が帰り支度をしているとしし丸がやってきた。


「なぁ、椛。この4年間どうだった」


「楽しかったのよ。師匠にも龍皇にも出会えて良かったかしら」


「なら良かった。俺も頑張った甲斐あったよ」


そして龍皇にも別れの挨拶をしに行った。別れといっても口寄せでいつでも呼べる。しばしの別れといったところだろう。


「龍皇、もみじは帰るのよ。少しの間の別れだけど元気にしてるかしら」


「帰るというのなら洛陽まで送ろう。そっちの方が早い」


そう言うと龍皇は村とは反対側に大穴を開け、椛としし丸を乗せ飛びだった。

 一方洛陽では椛の帰還ということで宴の準備がされている。将軍は兵を連れて朝からずっと外で待っている。そして遠くの方から龍が現れた。兵は驚き魔法を放とうとしたが将軍はやめさせじっと待った。龍が真上に来ると椛としし丸が高いところから降りてきて綺麗に着地した。


「なぁ? 言っただろ。約束は守るって」


「ああ、信じていたぞ。だが随分と派手な帰還だ。もしやあれが椛の中にいた龍なのか?」


「そうだぜ。今では椛の口寄せ龍。細かいことは後で椛に聞きな」


「そうする。椛、もう大丈夫なのか?」


「大丈夫なのよ。父上と母上は死んでしまった。悲しいことだけど今は新しい家族が増えたかしら」


椛は上を向いて笑みを浮かべた。将軍はその笑顔に感激して涙を流した。悲しいのではなく嬉し涙。4年前の事を考えるとよく成長したと我が子のように嬉しかった。


「伯父上、1つ言うことがあるかしら」


「なんだ?」


「もみじの名前は土御門じゃないのよ。これからは日向もみじ、そう呼んでくれると嬉しいかしら」


「ああ、では日向もみじの帰還を祝して宴を始めようか」


これこそが椛出生から雷皇に入る前までの物語。その後椛はその年に雷皇の資格を得ることとなる。そして今はアーサーと出会い、難局を龍皇とともに乗り越えようとしている。



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