No.21:鬼
物凄い剣戟を繰り広げる伊三郎と伊助。その戦いぶりは到底たどり着けない域とまで思わせるものだ。魔法と魔術を一切使わず、槍術と剣術を用いながらお互いの武器は火花を散らす。しかし決して互角ではなく、若干伊三郎の方が押されている。伊助は斬っても斬っても血は出ず、さらに再生する不死身といっていい体をしている。一方伊三郎は生身の体、斬られれば血は出るし動きも鈍くなっていく。それでも伊三郎は伊助に食らいつき方天戟で斬っていく。
伊三郎の斬撃は通じなかった。ついに伊三郎は息を切らし膝を地面についてしまった。
「あの伊三郎でも老いには勝てんか」
もはや言葉が出ない。伊助は膝をつく伊三郎のとなりに来て刀を上げた。
「その首、貰い受けよう。伊三郎」
刀が伊三郎の首めがけて振り下ろされようとした時だった。アーサーは黙って居られず神速と腕にエンチャントを付与し、間に入り結斬で受け止めた。
「なんの真似だ、異国の剣士よ」
「そうじゃ、これはわしとこやつの戦い。負けたのなら首を刎ねられるのは仕方ないことじゃ」
「何弱気になってるんですか。それにその常識、俺の国ではないので聞き入れるのは無理ですね。俺はまだ伊三郎さんには死んでほしくない。兼続もそれに将軍様も雷皇のみんなだってそうです。まだまだ教わらないといけないことだってあります。だから諦めないでください。俺も助太刀します」
アーサーはどんどん魔力を高めていき風の属性へと変換した。風の魔法はアーサーの周りに発生した。
「風よ!」
すると風は伊助を後方へと吹き飛ばした。アーサーは後ろを振り向き伊三郎に手を出した。
「立てますか」
「若いもんが諦めておらんのに年配が諦めるのは早かった。すまんのぉ、アーサー」
伊三郎はアーサーの手を取り方天戟を置いて立ち上がった。伊三郎は口元に付いている血を拭き取った。
「伊助に一矢報いることができる方法が1つある。じゃがそれは特殊な封印を解かねばならん。アーサー、お前さんは後方支援を頼む。わしは前衛をやる」
「はい、お任せください!」
アーサーはどんっと左胸を叩いた。伊三郎はもう一度伊助の前に立った。今度は方天戟ではなく。二刀の剣を携えた。
「まだそれを持っていたか」
「お前さんが死ぬ前に貰った夫婦剣、干将・莫耶。方天戟にはあれを発動させないために封印魔術を施しておる。それだけ言えばお前さんならわかるじゃろ」
「ああ、分かるとも。ならこれからが本番だ。そして最後の戦いだ」
2人同時に走り出し剣を交えた。さっきよりも激しく打ち合っている。以前変わらず伊助は斬られてもすぐに再生する。伊三郎も斬られているが最小限の傷にわざと斬られている節があった。アーサーはなぜそのようなことをしているかわからなかった。伊三郎が反応できない剣に向かって風の魔法を放ち斬らせないよう後方支援を徹底した。
伊三郎の体の至るところから血が流れ出ていた。しかし伊三郎の力は衰えるどころかどんどん強くなっていきより俊敏に動けている。伊助は突きを放ち伊三郎の左脇腹に当たった。その傷が原因なのか伊三郎からはオーラの様な何かがまとっていた。それだけではない。伊三郎の額から角が2本生えて目がいつもより獣の様に野生の目をしている姿になった。
「やっと出てきたか『鬼』よ」
『鬼』というワードが出てきたとき突然魔神ザガンが出てきた。
「ザガンいきなりどうしたんだ」
「いや、『鬼』が出てきたと聴こえてな」
「知っているのか?」
「『鬼』とはこの国、いやこの土地や人間の中にいる邪念。あれは具現化した姿だ。『鬼』は古来より負の象徴。いわばわしらと同じ部類の存在よ。その特徴は身体能力と自然治癒力の向上だ。しかしだな……」
「どうしたんだ、ザガン」
「その後は私から言おう。『鬼』はその精神と魔力を喰らう。下手をすれば生ける屍になるやもしれんがまぁどうでもいい。さて続きと行こうか、伊三郎」
「アーサー。後ろに下がってれ。俺があやつを殺す」
おそらくまだほんの少し意識があったのだろうか。一人称も『俺』となりほとんどを鬼に染まってきているのがわかる。アーサーは言われた通り後ろに下がり伊三郎を見つめる。両者睨み合い様子をうかがう。そして同時に動き出し剣を交え火花を散らした。これがこの戦いの最後となる瞬間になろうとしていた。




