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神速の騎士王  作者: 天月 能
2章 倭国事件
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よりみち:Knight’s Memories1

 最初に言うとこれは俺アーサー・アルカディアの昔の話。思い出したくもないけど語ろうかな。あまり気負わないでいいよ。なんせ俺の話だからね。しばしの間お付き合いください。

 その日はパーティが行われようとしていた。これは1から6等までの貴族が一同に会する食事会みたいなものでアルカディア家も出席する予定だ。でも話はパーティのある前日から始まるよ。

 パーティ前日お母様はいつもじゃ見ないドレスの手入れをしていた。当時9歳だった俺はこう言った。


「お母様、お母様。どこかに行かれるのですか?」


「アーサーは初めて行くわね。明日パーティに呼ばれてるからその準備よ」


お母様はそう言って手入れを続けた。その日の夜お兄様とお姉様が帰ってきた。お兄様はケイ、お姉様はアイリーンて名前で16歳の双子。2人とも有名な商会に働いていて自慢の2人だよ。


「おかえりなさい。お兄様、お姉様。」


「おうアーサーか。元気だったか」


「はい、今も元気です。それと明日パーティがあるみたいです」


「パーティね。なら今から着る服準備しないと」


そう言ってお姉様は部屋に向かった。お兄様は男気がある性格でお姉様はさっぱりとした性格をしているんだ。双子でここまで性格が違うのも珍しいと思うよ。

 次の日パーティ当日になった。と言ってもパーティは夕方だからそれまで暇だから庭で1人遊んでいた。と思う。この辺の記憶があまりないんだよ。でも1人で遊ぶのは本当の話。だってこの時友達いないしね。

 夕方になるとお父様、お母様、お兄様にお姉様が見たことない服に着替えてきた。俺もお母様に言われるがまま服を着た。この時の俺は恥ずかしながら世間知らずでいつもお母様の後ろにくっついていたのを覚えてる。なんせこれまで何もせずのうのうと生きてきた。

 馬車で会場に着くとお父様達は色んな人に挨拶していた。俺はお母様について行ってた。会場の中に入るとキラキラ輝くシャンデリアや煌びやかな装飾がたくさんあった。それと食欲がそそられる美味しそうな料理。今思い出しても涎が出そうだよ。それくらい美味しそうだった。食べてないけど。そしてこの後に起きる事件が俺を騎士団に入るきっかけになったのさ。

 その時の俺はトイレに行きたかった。お母様達は話し込んでるから1人で行った。トイレを済ませ手を洗っていると鏡には知らない男が2人いたんだ。男達はナイフとロープそして大きいバッグを持っていた。俺は恐怖のあまり声を出せないでいた。されるがままロープで体と口を固定され大きなバッグへと入れられてどこかに連れ去られた。


 《ここから少しの間誰かに話し手を任せようか》


 アーサーが拐われたことも知らない家族。周りも子供が拐われているなんて気づいていなかった。ワイワイと賑わっていた会場に1つの魔術が発動された。


『騒がしなぁここは。まぁいいか。ここにいるお前らに言っておく。俺たちはギャレット家の子供を拐わせてもらった。返して欲しくばギャレット家の至宝を持ってこい。渡せば子供を返してやろう』


そう言うとブツりと音がなり魔術が消えた。ギャレット家の当主は子供を確認した。ギャレット家にはあのエリスとその弟がいる。2人は手を繋ぎ母親の所にいた。頭に『?』が浮かんだ。そんな中アーサーの母親はアーサーがいないことにようやく気づいた。色んな人に聞いても一同に知らないと首を振る。ギャレット家に聞いても知らないと言う。そしてあることが頭によぎった。


『拐われたのはギャレット家の子供ではなくアーサーじゃないか』と考えた。


そう思うと家族は全員で会場を探し回ったがどこにもいなかった。ギャレット家にも協力してもらったが結果は変わらない。


「お母様。俺急いで騎士団に捜索してもらえるよう頼んでくるよ」


「でも・・・」


「今の騎士団は昔と違う。今は平等に手を差し伸べてくれる。大丈夫、絶対に見つかる」


「わかったわ。お願いねケイ」


兄ケイは馬車に乗り騎士団のいる城へと向かった。

 数分後あたりがざわざわし始めた。そこにいた人は左右に避け道を作った。そこには騎士団団長と副団長がいた。


「アーサー・アルカディア君のご両親はいらっしゃいますか」


と団長フィリクスと言った。アーサーの父親は私ですと言い近づいて行った。


「事情はこの者から聞きました。今数名の騎士団員が国中を捜索しています。今しばらくここで待っていてください」


わかりましたとアーサーの父親は言い家族に伝えた。その間にパーティは中断されギャレット家とアルカディア家は残った。会場は閑散としていた。

 数分後シャルロットが声を出した。


「見つかったわ。誘拐犯は何人かいるらしいわ。その中には多少実力のある者もいるかもしれないだって。行くわよフィリクス」


「そういうことですのでしばしここで待っていてください。必ず助けてみせます」


そういうとシャルロットは転移魔術でその場から消えた。誘拐犯がいる場所はどうやら協会らしい。しかし普通の協会ではなかった。


「魔術がかかってるわね。入るとどこか別の場所に繋がっているといったところかしら」


さぁ入るわよとシャルロットが言うと団長フィリクスが待ってと言った。


「お腹痛いんだけど」


「さっきまで普通だったじゃない。トイレ行ってる暇なんてないわよ。とりあえず魔術で誤魔化しておくから我慢しなさい」


「ありがとう。マシになったよ」


シャルロットは扉を開けフィリクスと数名の騎士団は中に入った。入ると目の前には誘拐犯の仲間が立っていた。


「ギャレット家と思ったら騎士団の人たちが来たか。そうかそうかなら子供は殺してもいいんだな。ハハハハハ!」


男は甲高く笑った。


「ここは任せて先に行きなさい。どうやらこいつも魔術師ぽいし」


「わかったよ先行っておくよ」


フィリクス達は奥へと進んだ。進んで行くと広い空間へ着いた。また目の前には誘拐犯の仲間が3人立ちはだかっていた。


「ここは任せてください。あんなチンピラに負けるほど我々は弱くありません」


「ありがとう。無理はしないでよ」


フィリクスはまた奥へと進んだ。さらに奥へと進むと扉があった。押しても引いても開かないのでフィリクスは剣で斬った。扉の奥には誘拐犯が2人いた。


「ギャレット家の至宝は持ってきたか。さぁ早く渡せ!」


「悪いけど持ってないよ。君たちはここで終わりだ。一緒に来てもらうぞ」


フィリクスは2人を相手取った。

 俺はこの時のことを覚えているよ。目は涙で曇っていたけどその時だけははっきりと見えていた。団長の姿は美しい以外何も無い。血は飛び交っていたし男達の叫びも聴こえてきたけどそれでも美しいと思ったと同時にある感情が俺に芽生えさせた瞬間でもあった。2人を倒す頃にはシャルロットやその他の騎士団員も来て誘拐犯とその仲間達は連行されいた。俺はシャルロットに抱かれ外まで出た。


「この子すごく可愛いと思わない?お持ち帰りしようかしら」


「そんなことしたらシャルロットを連行するよ」


わかってるわよと言いシャルロットは転移魔術を発動した。会場に着くとお父様達が泣いて抱いてくれた。あまり泣かないお姉様も泣いていたしお兄様なんてあまりの嬉しさに声をあげていた。


「息子を助けてくださりありがとうございます。何かお礼をさせてください」


「お礼なんていりませんよ。それが私たちの仕事ですから」


団長はシャルロットの転移魔術とともにその場から消えた。その後ギャレット家のみんなを見送り帰ろうとしたけどその時口にした言葉を俺は一字一句覚えてるよ。


「お母様。僕は騎士団に入りたいです。入ってあの方達と共にいたいです」


もちろん家族全員が驚いた。今まで内気な性格でいつも親の後ろに隠れてた子がいきなり騎士団に入りたいと言い出したんだ。そりゃ驚くに決まってる。その後は剣をもらいひたすら自分を鍛えるため修行した。10歳の時に『神速』が発現して11歳の時はダイダラと契約を結んだ。12歳の時には剣魔祭に出場し勝ち抜いた。最後にはユリエルとも戦ってなんとか勝った。手強かったなぁ。その時の勝利の嬉しさの感覚は今でも鮮明に覚えてる。そうして俺は騎士団に入った。今では『神速の騎士王』とか言われるけど陛下を差し置いて王と呼ばれるのは良い気分じゃないなぁ。




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