召喚方法
三人称です。今回も短めです。
*Side:???
リリアーナは不機嫌そうに、先日バスケットボールを召喚した部屋を歩き回っていた。
「何が悪いのかしらね。大体、代償が大きすぎるのよ!」
あの後、徐々に具合が悪くなったリリアーナは自室に戻ることになり、医師に診てもらったところ「魔力切れ」と診断されたのだ。この国の平均よりかなり多い魔力を持つ彼女は、必要と思われる魔力量の多さに身震いをした。
「あの変な球体が勇者様ってことはないから、よく考えてみれば失敗なのよね、あれ」
リリアーナは溜め息を吐くと、再び前回と同じ詠唱を開始した。
「前回ほど魔力が減っている感じもないし、失敗みたいね。でも、確かに繋がった感覚はあったわ。繋がった場所も前回と近いみたいだし。……きっと勇者様はその近くにいるんだわ」
少し機嫌が良くなったリリアーナは、声に出すことで考えをまとめ始めた。
「やっぱり、目下の問題は魔力量ね」
リリアーナは召喚の間を出て、国の宰相を務める人物を捜していた。
何か現状を打破出来る意見をもらえないかと思ってのことだった。
その時、目の前の廊下を見覚えのある制服が通った。白を基調として左肩部分に簡略化された召喚陣が描かれている。陣の色は紺で、円の中に一筆書の星が描かれたデザインである。
制服の色、肩に描かれているモチーフと色。これらの三つから、着ている人の所属や位が分かるようになっていた。
「貴方、宰相様の部下よね? 彼を呼んできていただけるかしら?」
疑問符はあるものの有無を言わせぬ口調に、声を掛けられた青年は背筋を伸ばし緊張が滲む表情になった。
「は、はいっ! 姫様はこちらでお待ち下さい」
言い終えるが早いか彼は走り出していた。
実は、この国の王は娘が欲しかったらしく、四人目にしてやっと産まれたリリアーナを物凄く甘やかしている。そのため、リリアーナのこととなると普段は厳格な王も途端にただの父親になってしまうのだ。
つまり、リリアーナに嫌われるということはこの国の王からも嫌われるということを意味する。
王は公私混同はしない人物だが、王に取り入りたい中流貴族が秘密裏に処理してしまうので結局のところ国を出ることになる。
先ほどの青年が緊張して慌てしまったのも当然と言えた。
青年が走り去ってから、五分もしないうちに黒い陣が描かれた白い制服を着た人物が現れた。
二十代後半位に見えるが、彼はもう十年以上宰相を務めているため見た目より実年齢はもっと上である。
「お呼びだとか。どうされましたか、姫様?」
「足りない分の魔力をどうするか相談しようと思ったの」
「……そうですね、私は詳しくないので分かりかねますが、何処からか魔力を借りたりは出来ないのでしょうか?」
少し考える様子を見せると、宰相は言った。
「……考えてもみなかったわ」
リリアーナは小さく呟くと、軽く礼を言って立ち去った。
次話、主人公目線に戻ります。