第3話:貞操の危機(あっちの)
………………。
……………。
…………。
「……東條さん。トイレをお借りしてもいいですか?」
「いいよー。廊下を真っすぐ行って、突き当たりを右ね。……って大丈夫? 顔色悪いよ?」
「だ、大丈夫です。ありがとうございます。」
俺は早足でトイレへ向かった。
扉を閉める。
鍵をかける。
そして――
「おえええええええええええええええええっ!」
吐いた。
危機察知で見えた未来が最悪だったからだ。
最悪にもほどがある。
まさかあの義父が――。
いや、やめよう。
思い出したくない。
本当に思い出したくない。
とりあえず一つだけ言える。
絶対に許さない。
男としても。
人としても。
絶対に許さない。
俺は固く決意しトイレを出る。
そして何事もなかったかのようにリビングへ戻る。
「すみません。来て早々トイレなんて。」
「全然いいよー。生理現象だし。」
「お義父さんもすみません。」
「気にする必要はないさ。」
お前は気にしろ。
お前だけは気にしろ。
そして、人生を反省しろ。
俺は男同士もいいと思うが俺が突っ込まれるのは嫌だ。
しかも無理矢理なんて。
「ほら、座って。お茶でもどうだい?」
義父がお茶とクッキーをテーブルへ置いた。
その瞬間。
危機察知が反応する。
ビンビン反応する。
クッキー。
間違いない。
危機察知によれば睡眠薬入りだ。
「わぁ、美味しそうですね。」
俺は笑顔で受け取った。
そして、義父が目を離した隙に、食べたフリをしてポケットへ隠す。
もちろん東條さんには何も言わない。
ここで騒げばあいつに警戒される可能性がある。
俺は既にトイレから警察へ通報済みだ。
後は現行犯の証拠を押さえるだけ。
「あれ……?」
東條さんがふらつく。
「なんだか眠く……。」
来た。
俺も合わせる。
「あ、私も……ねむ……。」
そのままテーブルへ突っ伏した。
数分後。
「ふふ……ふははははは!」
義父の笑い声が響く。
「ついに上手くいった……!」
気持ち悪い。
本当に気持ち悪い。
「これでやっとできる。邪魔者はいない。」
俺は薄目で様子をうかがう。
義父は完全に油断していた。
東條さんへ近づく。
そして手を伸ばした。
――今だ。
俺は勢いよく立ち上がった。
「オラァ!!汚い手で東條さんに触れるな!」
渾身の蹴り。
狙う場所は一つ!
義父の股間!
クリーンヒットだった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
義父が床へ転がる。
「いっ……痛い! 痛い痛い痛い痛い!!」
床をのたうち回る義父。
俺はすぐに距離を取った。
これ以上はやらない。
相手は行動不能になった。
ここで追加で殴ったり蹴ったりしたら、過剰防衛になる可能性がある。
我慢だ。
非常に我慢だ。
本当はもう一発くらい入れたい。
かなり入れたい。
だが我慢だ。
その時。
『ウー、ウー』
外からサイレンの音が聞こえた。
警察だ。
俺はポケットのスマホを確認する。
録画は継続中。
証拠もばっちり。
後は任せよう。
◇◇◇
つ、疲れた……。
俺は家へ向かう夜道を歩いていた。
事情聴取が終わったばかりだ。
通報記録。
録画データ。
睡眠薬入りのクッキー。
現場の状況。
それらのおかげで事情の説明は比較的スムーズだった。
とはいえ何時間も話をしたので疲労感がすごい。
ちなみに女装についても聞かれた。
かなり聞かれた。
非常に恥ずかしかった。
本当に聞かれたくなかった。
だが、1番守りたい所は守れた。
東條さんに正体はバレていない。
そこが一番大事だ。
危機は回避。
正体も無事。
完璧である。
今日はぐっすり眠れそうだ。
そう思いながら俺は帰路についた。
◇◇◇
Side:東條彩乃
――かっこいいな。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
2話投稿します!
18時と21時に投稿します!
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