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46.今夜は一緒に

「なるほど……そういうことだったのか」


 ここまでの経緯を説明すると、ラルは困ったように顔を歪めながらも納得してくれた。ラルは賢いから、理解も早い。


「勝手なことをして本当にごめんなさい……!」


 それより、まずは謝らないと。ラルに黙って王女を連れてきてしまったこと、それから嘘をついたことも。


「いや、エレアは悪くないよ。王女の頼みだ。断れなくて当然だ」


 呑気にベッドの上に転がって、私の本を読んでいる王女様を横目に、ラルは苦笑いを浮かべながら言った。


「ありがとう……本当にごめんなさい」

「うん。それより、いつまでいるつもりですか? 城で陛下が困っておられましたよ」


 私ににこりと笑みを浮かべると、ラルはフランカ様に向き直って息を吐きながら問うた。


「本当? お父様、ちゃんと困ってた?」

「ええ、もう十分だと思いますよ。送って行きますので、陛下としっかり話されてはいかがですか?」


 ラルの提案に、フランカ様は一瞬思案するように天井を仰いだけど、すぐに首を横に振った。


「もう少し困らせてやるわ。大丈夫。私たちの結婚を認める気になったら、連絡するように書いてきたから」


 そう言って、フランカ様はポケットから通信用の魔道具を取り出して見せた。手のひらに収まる、小型の水晶タイプのものだ。


「しかし、相手の男性に迷惑がかかるとは思わないのですか?」


 ラルが口にした疑問は、まっとうな意見だと思う。

 いくら他国にいるとは言え、我が国の王がその気になれば、国家間の問題にだってなり得るのだ。


「お父様が私の愛する人に酷いことするとは思えないわ」


 けれど、フランカ様はその質問には即答した。どうやらそれだけは自信を持って言えるようだ。

 案外、考えなしでやっているわけではないのかもしれない。とても計画的だし。


「……そうですか。では、ご自由にどうぞ。明日もこの部屋に朝食を運ばせますので、今夜はごゆっくりおやすみください」

「え?」


 行こう、と言って私の手を取るラルに、私の口から間の抜けた声が漏れる。


「今夜は王女様と同じベッドで寝るつもりだったのかい? それとも、まさか自分はソファで? フランカ様にこの部屋を使ってもらうのは構わないから、エレアは僕のところへおいで」

「え!?」


 当然のように語られた言葉に、私は素直に驚愕の声を上げる。


 ど、どうしてそうなるの!? これは言わば王女の我儘なのだし、女同士で一緒のほうが……


「そうね、そうしてもらえるかしら? 私、人がいると眠れないのよ」

「フランカ様……!」


 けれど、何かを察したようにラルの背中を押すようなことを言い始めるフランカ様。


 そんな話は初耳なんですけど!?


「ほら、王女もそう言っている。行くよ、エレア」

「え、あ……そんな……っ」


 少し強引に私の手を引いて部屋を出るラルに、私が敵うはずがない。


 部屋を出る前に一応フランカ様に頭を下げて、すぐ隣のラルの部屋へ向かう。



「……ラル?」


 本当に今夜は同じ部屋で寝るの?

 ラルの部屋に着いたけど、改めて口に出して確認する勇気が持てない私は、とりあえず窺うように彼の名前を呼んでみた。


「嬉しいな。今夜はエレアとずっと一緒だ」

「……」


 そしたら、答えが返ってきた。

 どうやら今夜は本当に同じ部屋で寝るらしい。

 ……まさか、ベッドも一緒?


「もう嘘なんてつく必要はないから、安心してここにいていいよ」

「それは本当にごめんなさい……」

「事情が事情だし、いいんだ。でも、少し寂しかったかな。エレアに避けられてると思ったから」


 言いながら、ラルは私の頰に手を添えた。


 やっぱりそうよね。ごめんね、ラル……。でも私も、本当に胸が痛かったのよ?


「嘘をついたお仕置、とは言わないけど、傷ついた僕を慰めてくれる?」

「慰めるって、どうやって?」

「それはエレアが考えてくれると嬉しいんだけど」


 そう言って、至近距離で私の顔を覗き込んでくるから、答えはもうわかってる。


「……恥ずかしいから、目を閉じて?」

「ん」


 きっとは彼は、先程できなかったキスを強請っている。


 だけどそんなに見つめられていたら、答えがわかっていてもさすがに私からするなんて無理。


 そう思ってラルには目を閉じてもらったけど、その綺麗な顔を改めて正面から見つめて、やっぱり私の鼓動はどくどくと大きく脈を刻む。


 ラルの唇に、私から口づけるの……?


「……」


 大人しく待ってくれているラルは、私のために少し屈んでくれている。それでもまだ私より背の高いラルの首に腕を回して背伸びをすると、私はそのなめらかな頰にちゅっと唇を押し当てた。


「嘘ついて、ごめんね?」

「……」


 ぱっと目を開いてしまったラルを見上げながら窺うように言えば、たちまちラルの頰が赤く染まっていった。


「……ごめん、可愛すぎる」

「え……っ」


 そしてそのままぎゅっと抱きしめられたと思ったら、耳元で甘い囁きが聞こえた。


「もう誰も見ていないから、いいよね?」

「ラル――」


 私が返事をする前に、彼はあっさりと私の唇を塞いでしまった。


 さっきはフランカ様がいたけど、今は二人きり。

 すごくドキドキするけれど、穏やかな気持ちで彼を受け入れられる。


「今夜は離さないからね」


 一度離れた彼の唇が動いてそう言葉を紡ぐと、今度はゆっくりと、私の目を見ながら近づいてくるラルの顔。


 それに合わせるようにまぶたを閉じれば、彼のあたたかい唇が降ってきて。


 深く、甘く私のそれと重なり合った。



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