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44.彼女たちの想い

 それからフランカ王女に言われた通り侯爵家の馬車で待っていると、王女は本当にやってきた。


 目立ってしまう銀色の髪はよくいるような茶髪のウィッグで隠し、眼鏡をかけて変装している。

 先ほどとは違う服に着替えているし、これではフランカ王女には見えない。


 彼女の本気がどの程度であったか改めて理解して、私は重たい気持ちを抱えながら変装したフランカ様と共にキルステン侯爵家に帰った。




「はぁ……なんとか気づかれずにここまで来られた……」


 侍女のメアリには、友人と二人きりで話をしたいからと伝え、私の部屋には誰も入れないようお願いした。


「ありがとう。貴女には本当に感謝するわ。この作戦が無事成功したら、何かお礼をさせてちょうだい」


 ウィッグと眼鏡を外し、安堵に気を緩めているフランカ様にはソファで休んでもらい、紅茶を淹れた。


「私の部屋の中は自由に使っていただいて構いませんが、部屋の外には出ないほうがいいと思います」

「そうね。貴女の部屋ってなんでも揃っているようだし……きっと不自由はしないわね」


 確かに、ラルやお父様のおかげで、この部屋にはシャワールームやお手洗いから、退屈しのぎの本まで、なんでも揃っている。

 食事も何か理由をつけて部屋まで運んでもらえば、何日でも問題なく暮らせてしまうと思う。


 そういうわけでその日の夕食は、「部屋でゆっくり勉強したいから部屋まで運んでほしいの。それから、とってもお腹が空いているから、いつもの倍の量でお願いしたいのだけど」と、言ってみた。


 私が勉強に励んでいることを知っているメアリは何も疑うことなく頷いてくれた。

 ちなみに王女が変装していた()()()()は、メアリがいない間に帰ったことになっている。



「――陛下は今頃、大慌てなんじゃないですか?」


 王女には私のベッドに隠れてもらい、二人分の食事を部屋まで運んでもらった。


 一人で食べると思われているから、食器はひとつずつだったので、私の部屋に置いてあったお皿に自分の分を取り分けた。


「そうだといいけど」


 王女様と二人でこんなふうに食事する日がくるなんて思わなかった。手紙を書いてきたと言っていたけれど、どんな内容を綴ったのだろうか。


 まさかこれって、王女を誘拐したことにはならないわよね?

 それに、結婚を認めてくれないから駆け落ちすると書いてきたなら、相手の家も心配だわ。


「貴女は、いつからラルフレットのことが好きだったの?」

「え――?」


 特に多く会話することなく、静かに食事をとっていたフランカ様が、ふと口を開いた。


「五年間、兄妹として過ごしていたのよね? もしかして、ずっと恋心を抱きながら一緒に暮らしていたの? それとも、好きになったのは最近?」


 フランカ王女は、いつもどこか冷めている印象のある人だった。

 だから、こんなことをしてまで一緒になりたいと思う相手がいるのも意外だったし、今私にそんな質問をしてきたのも意外だった。


「……五年……いえ、彼に出会った七年前から、好きでした」


 そして私も、この想いをラルと父以外の人に初めて打ち明ける。もちろん、友人にもメアリにも話したことはないのだから。


「そう……そんなに昔から。それじゃあ、婚約者ができたときはどう思った? すぐに受け入れられたの? 他に好きな人がいたのに」

「受け入れるしかないと思っていたので。兄妹になった日から、わかっていましたから。ラルとは結婚できないと」


 そう、私だって本当は嫌だった。辛かった。苦しかった。でも、自分の気持ちには気づかないようにしていたのだ。お父様が決めた相手と結婚するのだと、ずっと自分に言い聞かせてきたのだから。


「わかるわ。でも……、出会ってしまったら……どうしても一緒になりたい人と出会ってしまったら……それはとても難しいことだわ」

「……そうですね」


 フランカ様だって、当然、私よりもっと幼い頃から政略結婚を覚悟して生きてこられただろう。

 もしかしたら、彼女から出ている冷めたような雰囲気は、そのせいなのかもしれない。


 でも本当は、こんなに熱い方なのだ。


「私は、あの日私に結婚しようと言ってくれたラルに、とても感謝しています。彼もきっと勇気のいることだったはずですし、私一人ではそんな選択、思いつきもしなかったでしょう」


 それでも、ラルは迷いなく伝えてくれた。不安を抱える私に、いつでもまっすぐに想いを伝えて、安心させてくれた。

 だから私は、彼の胸に素直に飛び込むことができたのだ。ラルはいつでもどっしり構えて、私を受け止めてくれるから。


「ですから、彼にはとても感謝していますし、今は彼を絶対幸せにすると、私も心に誓っています」


 それを考えると、ラルとフランカ様は少し似ているところがあるのかもしれない。

 だから私は彼女を応援したいと思ったし、お相手の方がどんな気持ちでいるかも、わかるような気がする。


「……そう。そうよ。ラルフレットは正しいわ。そしてキルステン侯爵も二人のことを認めてくれた。……私だって……、上に姉と兄が三人もいるし、私一人くらい他国へ行ってもなんにも問題ないのよ! それどころか、むしろ他国とのいい縁になるかもしれない……いえ、必ずなってみせるわ!」


 熱くなってそう語るフランカ様は、やっぱりいつもの冷めた王女のイメージとは少し違うけど、私は今の彼女のほうが好きだと思った。


「ええ、そうですね。こうなったらとことん応援しますよ、フランカ様」

「頼りにしているわよ、エレア」


 ふふっと笑い合って、互いのぶどうジュースを高く掲げあった。



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