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初投稿です。
ぜひ感想などお気軽に書いていただけると嬉しいです。
時計塔の針が一五時五分前を指すころ、鐘の音が鳴らさなくなった時計塔の代わりに下校時間を知らせる電子音が深い森に囲まれた町に響いた。
森から赤いレンガ道を歩いていくと町の中央の広場に音が鳴らないポンコツ時計塔が建っている。
活気のある市場でただ中央にある時計塔だけが静かに黙っていた。
今日もずれた時間を指しているその時計塔は、町の住人に役立たずだと呼ばれている。
学校から開放された元気な子供たちのはしゃぐ声が時計塔の中の男の耳にも聞こえてきた。軋んだ音を鳴らす錆びた大きな歯車の下で、毛羽立った毛布にくるまった男が身動ぎをした。
男は毛布を被ったまま、窓から外を気だるそうに覗いてひどい寝ぐせがついた黒髪を搔きむしった。
小窓から入り込んだ強い風が男の服を揺らす。
バサバサと布がこすれる音がした。
コツコツ。黒板に文字を書く音を聞きながら、ノートの隅に鉛筆をはしらせる。
視界に入った栗色のふわふわした邪魔な髪の毛を耳にかけた。
齧りつくようにノートに顔を近づける。
森を強くてカッコいい恐竜の背に乗り、駆け抜けた先には広い草原に広がっている。抱き着いた恐竜の手触りはつるつるしているのか、ザラザラしているのかどっちなんだろう。
楽しいことを想像すると自然と口角が上がってくる。
爽やかな風が吹く草原はどこまでも広がる青空があって、空飛ぶ鯨に乗って旅をする。
パパが寝る前に読み聞かせてくれた話みたいな冒険がしてみたいな。
先生が教科書を読み上げるだけの退屈な授業を遠くに聞きながら、すみっこだけで我慢出来ずノートの右半分に冒険をする自分の絵を大きく描く。
いつかこのふわふわした邪魔な髪の毛も身長が低いことも、変わってカッコいいパパみたいな大人になれるはずだ。
「あっ、これもやりたいかも」
上手く描けた自分の絵をみてニヤニヤと満足していると、クラスメイトが椅子を引く音がして慌てて立ち上がる。気づかないうちにチャイムがなっていたらしい。
「起立、礼」
号令にワンテンポ遅れて、頭を下げる。鋭い視線を感じて、ゆっくり顔を上げて先生を見るとばっちり目があってしまった。
そっと、目をそらす。授業の内容を二行しか書いていないノートを静かに閉じた。
「カリスト、荷物をしまったら先生のところまで来るように」
「は、はい。先生」
騒がしい教室でもよく通る先生の声に、小さく返事をした。
「カリスト、また絵を描いてたの?先生にまた怒られるぞ」
鉛筆や教科書をだらだらと片付けていると、前の席のハイメが呆れたように声をかけてきた。
「もう怒られるの確定してるよ」
愚痴でも言わなきゃやってられない。口を尖らせて続ける。
「つまらない授業する先生が悪い所と思うんだけど」
「まぁ、そうだね」
ハイメが宥めるように、相槌をうってくれたおかげで少し苛立ちが落ち着いた。
「そんなことよりノート写させて、黒板消されちゃった」
嫌そうな顔をするハイメに、バンッと両手を勢いよく合わせて頭を下げる。はぁというため息が聞こえて、ちらっとハイメを上目遣いで見る。
「お願いっ」
「いい加減授業聞きなよ。これで最後にしてね」
「ありがとう、ハイメ」
ハイメが鞄から取り出したノートを両手で受け取る。冗談でハグをしようとハイメに近づくと、するりと避けられてしまった。残念だが、危機管理能力が高いのは良いことだ。
「あれ?ハイメもう帰るの」
鞄を肩にかけて帰ろうとするハイメに声をかけた。いつの間に片付けたんだろう。
「うん。今日は父ちゃんの手伝いをしなきゃいけないからさ」
ハイメのお父さんは町でレストランをしている。熊のような見た目からは想像もつかない程、とてもおいしいグラタンを作るのだ。
ハイメの家へ遊びに行った時に、食べたご飯は頬っぺたがとろけるほどおいしかった。ハイメはそんなお父さんのような料理人になるのが夢らしい。
具体的な夢をもっているなんてハイメは大人だなと思う。
「え~今日遊べないのか」
「ごめん、早く帰らなきゃ」
「そっか、今日誕生日だから遊びたかったのに」
「ごめんね、明日なら遊べるよ」
おいしいご飯を作る人のためなら、今日は遊べなくてもしょうがないか。
「分かった、明日は絶対遊ぼうね」
「うん、じゃあまた明日。いつもの場所で」
教室を早足で去っていくハイメに手を振った。
気づくとクラスメイトが半分くらい帰っていた。
普段はまとめて掴んで入れる鉛筆を意味もなく、一本ずつ筆箱に入れる。
ノートや教科書も一冊ずつ丁寧に鞄へ入れる。
「カリスト、早く荷物をもって来なさい」
先生の大きな声で呼ばれて、肩がビクッと跳ねた。
わざとゆっくり荷物を片付けていることに気づかれていたらしい。さっきまで他のクラスメイトと楽しく話していたじゃないか。つくづく教師って奴は視野が広い。
「はい、先生」
小さく呟いた僕の声は、勉強から解放されたクラスメイト達のはしゃぐ声にかき消された。
先生の鋭い視線を感じながら、慌てて荷物を鞄に投げ入れる。
「また怒られてるよ」そんなクラスメイトのささやき声に、身を小さくしながら扉の前にいる先生のもとに重い足どりで向かった。
コツコツと鳴らして歩く先生の後ろを小走りで着いていく。
教室から少し離れた陽が当たらない廊下で、ピタリと先生が止まって振り返った。急に止まるから危うくぶつかりそうになった。
今日は職員室じゃないんだ。職員室のあのコーヒーの匂いが苦手だからありがたい。
「カリスト、呼ばれた理由は分かるか?」
少し現実逃避をしていると先生が口を開いた。もちろん分かっている。
「授業を聞いてないから、です」
何回怒られたと思っているんだ。怒られることに関して僕はプロだ。
「そんな自慢気に言うな。分かってるならちゃんと授業を聞こうな」
「はい、先生」
小さく返事をすると、さっきまで眉を吊り上げていた先生の表情が少しだけ和らいだ気がした。
「次授業中に他事したらお母さんにも連絡するからな」
今日は説教が早く終わりそうだ。窮屈な学校から解放される、そう思うときつく結んだ口元が緩んだ。
「反省してないな、カリスト。罰として反省文を書いてきなさい」
気が緩んだことに先生が気づかれたのだろう。
先生は溜息を吐いて、手元のバインダーから一枚の反省文を差し出してきた。
反省文は嫌いだ。書いていて意味があるのかわからない。
「今日、誕生日なのに」
思わず呟いてしまった。
「この反省文が先生からの誕生日プレゼントだ。嫌なら次から授業中に他事をしないこと、分かったな」
反省文を免除してくれる気配は先生から感じられない。仕方なく片手で奪い取るように先生から紙を受け取る。
「はい、先生」
不満を滲ませた声色で返事をしてしまう。
目があった先生を思わず睨むと、また溜息を吐かれた。
「明日はちゃんと授業を聞くんだぞ。じゃあ気を付けて帰れよ」
これで話は終わりだと、先生は歩き出す。
みんなの騒ぐ声が遠くに聞こえる暗い廊下で、先生の足音がいつもより大きく聞こえた。
「クソッ」
小さく吐いた僕の声が静かな廊下に響いた気がした。遠くにいる先生の耳に入ったかもしれない。
怖くなって早足でその場から離れた。




