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女神な彼女  作者: なつみかん


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最終話 女神な彼女

「いやー、満員御礼! 大繁盛!

 今年の降臨祭も、大・成・功っすね!」

夢野がコーラをがぶ飲みし、弾んだ声で言った。


今年の巫女ドルステージも大盛況だったので

気分がいいんだろうな。

いつも高いテンションが更に上がっている。


あれから一年、

去年の祭りで知名度が上がり、

『華那古命降臨祭』は今や街の一大イベントだ。


そして俺たちは今、

駅前のファミレスで打ち上げ中。


「でさ、今年はどうする?

 またお疲れ会で海に行くのか?」

来人が早くも海水浴の計画をぶち上げてきた。

祭りの激務が終わったばかりだというのに、

相変わらずのバイタリティだ。


「君は懲りないな。去年は僕たち、

 うさちゃんに砂浜へ埋められたのを忘れたのかい?」

天道が、ブラックコーヒーを啜りながら、

呆れたように来人をたしなめる。


「……青春の現地調達だろ?

 今年も天道には期待してるよ」

俺も、あれから一年経って

これくらいの軽口を叩けるようになっていた。


「おっ、太郎もなかなか言うじゃん!

 まあ、俺たちには最終兵器・天道がいるからな!」


「なんだよ、君たちは結局、僕頼みかい?」

天道は肩をすくめて見せたが、

その表情はどこか誇らしげだ。


「結局、あんたら揃いも揃って、

 またナンパするつもりなんすね。

 去年、あんなにお姉様に怒られたのに、

 本当に懲りないっすねー」

夢野が、呆れながらも笑っている。


「お姉様、か……ひなた先輩、

 マジで綺麗になってたよなー」

来人が、うっとりと呟いた。


ひなたは今年から大学生になり、

県外で一人暮らしをしている。


祭りのためにわざわざ帰省し、

当日は手伝いまでしてくれた。


髪を伸ばし、控えめな化粧を覚えた彼女は、

たった一歳しか違わないとは思えないほど、

大人びた雰囲気をまとった

「綺麗なお姉さん」になっていた。


「はぁ♡ やっぱ美子のお姉様は、現世の至宝っす!

  太郎くん。

 正直なところ、『あー、失敗したなー』とか

 思ってないっすかぁ?」

夢野が、ニタニタ笑いながら覗き込んできた。

……本当に意地の悪い巫女だ。


みんな、俺とひなたのことは、

なんとなく察しているらしい。


一年前、ひなたは『黄泉返り』をした。


……その時には、もうハナコさんの姿は

どこにもなかった。

すべての事情を知ったひなたに、

泣きながら何度も謝られたけれど。


いいんだ。これは、俺が決めたことだから。


ひなたは自分のためにハナコさんが

消えてしまったことを、周囲のみんなに伝えていた。


一年前のパレード。

実体のある本物の女神様が神輿に座っていた。

あの光景は、今も語り草になるほど好評だった。

コスプレパレードだったから、

誰も「本物」だなんて疑いもしなかったけれど。


今年は……ハナコさんがいない。

代わりにひなたに女神様役を

やってくれないかと頼んでみたが、

「……私には、ハナコさんの代わりはできないよ」と、

ひなたは、はっきりと、寂しげに断った。


大学でもソフトボールを続けている彼女は、

一年生ながら早くもピッチャーとして活躍している。

ひなたはもう、自分自身の力で、

新しい場所を見つけているんだ。


「いいんだよ。ひなたは俺にとって、

 ずっと憧れのヒーローなんだから」


ひなたには、眩しいほどの未来が待っている。

俺はこの場所で、神主として、

ハナコさんがいた証を守り続けていくんだ。


先のことはまだ分からない。

けれど、今はそれでいいと思えた。


海への予定を立てて解散し、家路につく。

帰り道……ハナコさんやひなたと、

何度も一緒に歩いた夜道を一人で歩く。


夜はすっかり更けていた。

玄関を開けると、父さんも母さんも

すでに眠りについていて、

家の中はしんと静まり返っている。


自分の部屋のドアを開けても、

明かりは消えたままだ。

……当たり前のことなのに。


「……やっぱり、強がりだよな。こんなの」


部屋を見渡せば、

ハナコさんとの思い出が、鮮明に溢れ出してきた。


ピンクのパジャマ姿で笑っていたハナコさん。

ひどい寝相で布団を飛ばしていたハナコさん。

神器をドヤ顔で自慢していたハナコさん。

幸せそうにショートケーキを頬張っていたハナコさん。


視線を動かすたび、

彼女の面影が浮かんでくる。

笑い声も、香りも、

この部屋のあちこちに残っていた。


……気づけば、視界が滲み、涙が頬を伝っていた。


いつまでもメソメソしていたら、

きっとハナコさんに「モテないよぉ」って

笑われてしまう。


俺は手の甲で乱暴に涙を拭い、

誰もいない暗闇の中で、もう一度だけ前を向いた。


「おいーっす!」


不意に、聞き覚えのある軽い声が響いた。

壁をすり抜けて現れたのはウズメさん。

その後ろから、はんなりと微笑むコノハさんが続く。


「こんにちはえ、太郎さん。元気にしてはりました?」


「えっ……!? ウズメさん、それにコノハさんも!」

あまりに突然の訪問に、

驚きと喜びでいっぱいになる。


一年ぶりの再会だ。


「あれ? たろっち、

 もしかして泣いてた? 目が赤いけど」

ウズメさんが意地悪そうに俺の顔を覗き込んできた。


「い、いや! そんなことないよ。

 めちゃくちゃ元気にしてたって!」

俺は慌てて目を擦り、必死に誤魔化した。

そんな俺を見て、ウズメさんは

ケタケタと愉快そうに笑った。


「……あの。ハナコさんに、会いましたか?

 元気にしてますか……?」

一番聞きたかった問いが、口を突いて出た。


幽閉されているはずのハナコさん。

せめて、穏やかに過ごしていてほしい。

今の俺の願いは、それだけだった。


「今日は、そのことで来たんどすえ」

コノハさんが、慈愛に満ちた笑顔で静かに告げた。


「メソメソしてるハナっちを放っておけなくてさ!

 あーしらでスサノオのオヤジに

 ガッツリ話をつけてきたし!」

……話をつける?  何の?


「ほんまに、あのお方はしょーもない頑固者どすなぁ。

 ……不潔どすし。

 おかげで一年もかかってしまいましたえ」

コノハさんが心底嫌そうな顔をして、溜息をつく。

……今の言葉、どういう意味だ?


「ま、結果オーライだし!

 たろっち〜、この一年で浮気とかしてない?

 大丈夫〜?」


「浮気も何も……! 俺なんか、全然モテないし……」


「まぁまぁ、太郎さん。

 そんなにご自分を卑下せんでもよろしおす。

 ちょーっとばかし、冴えへんだけどすえ?」

クスクスと笑うコノハさん。

……あれ、この人、こんなキャラだっけ?


「大奥様も、あの一件で太郎さんのこと

 たいそうお気に入りになられたんどすえ。

 おかげでハナコさん、連れ出しやすうなりましたんえ」

手の火傷跡を見る。あの時の光景が頭に浮かんだ。


「つまりね、ハナコ、

 これからここに来るから! また仲良くやんなよ?」

ウズメさんの言葉で衝撃が走った。


「……え? 本当に……?」

喉の奥が熱くなり、

堪えていた涙がまた溢れ出しそうになる。


「ほらほら、泣いたらあきまへん。

 笑顔でハナコはんを迎えたげておくれやす」


そうだ!ハナコさんに最初に見せるのは、

情けない顔じゃなく、笑顔がいい!

俺は慌てて手の甲で涙を拭った。


「ハナコ、もう屋根の上にいるし。

 アイツも恥ずかしがって、モジモジしてるよー」

……え? 俺は思わず天井を見上げた。


「ほな、うちらはこの辺で失礼しますえ。

 お邪魔虫になってしまいますさかい」

二人は軽やかに壁へと向かって歩き出す。


「あ、そうだ。たろっち」

ウズメさんが、最後にいたずらっぽく振り返った。


「な、なんですか?」

呼吸を整え、必死に声を絞り出す。


「気をつけなよー。今のハナコは、

 正真正銘の『女神な彼女』だし!」


足の古傷がズキッと疼く。

そうか、今のハナコさんは

女神として神通力も使い放題なんだな。


笑いながら、二柱の女神は夜空へと消えていった。


静寂が戻った部屋。


ハナコさん……本当に、そこにいるのか?


早く会いたい。


言いたかったことが、山ほどあるんだ。


――パンパカパーン♪


軽快なラッパ音が鳴り響く


屋根をすり抜けてフェミニンな

神々しいお姉様が降りてきた。


背中の羽も、頭の輪っかもない。


けれど、彼女は紛れもなく俺の女神様で……

一年前にお別れした、大好きな元カノだ。


「ただいまぁ……」


照れくさそうに、そして少しだけ不安そうに、

ハナコさんは、そっと床に降り立った。


まだまだ、夏は終わらない。


彼女に伝える言葉は、もう決まっていた。


「……俺の、彼女になってください」

最終回まで書けましたー

良かったら褒めてください。

次回作も考え中です

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