1話 隆信、死す
何故、こうなったのだ!
有馬の愚か者が、島津如きの走狗になったのがこの戦の発端だが、こちらの兵も多く、勝てるはずの戦だったはずだ。
信生は島津如きを高く評価し、油断すべきではない、この度は戦うべきではないと口うるさく言い続けた。
援軍を送り、島津と交渉して有馬を討つべきとほざいたが、餓狼の如き島津がそんな交渉を受けるはずはない。まして、大友に勝ち勢いに乗って北上してくる状況では、こちらが譲歩しなければならいのは信生も分かっていたはずだ。
そして、安富親子を見捨てることは、土豪や豪族立ちが離反する恐れもある。分かっていて、進言してきたことにいら立ちしかない。
信生の進言に従えば、大半の領土と配下を失い危険性が高い。だからこそ、信生を別の場所に配置したのだが、間違っていたか。
そもそも軍勢も倍以上あるのだぞ!
確かに、沖田畷はぬかるみもあるが、そのようなもの兵数で押せば勝てるはずだぞ!
前線に清内をやったとたん、先陣が突撃しだして崩れ始めた、何故だ!
清内は何をやったんだ!
くそ、清内については、信生は近くに置くべきではないと言っていたが…
「清内はまだもどらんか!」
「はっ、未だ戻っておりません」
ばきっ!
くそが、手に持っていた扇をへし折っても気分がおれんわ!
ええい、崩れた雑兵が乱れておる。
「家利はまだもどらんか!」
「周囲をまとめる為に離れております」
家利であっても混乱はおさえれぬかもしれん。
「殿!」
「信俊か、どうした」
「浜手から島津、有馬の軍勢が押し入ってきております!このままでは本陣へ攻め込まれます!」
ちっ、浜手の家種、家信では荷が重すぎたか。
やはり信生を身近に置いておくべきだったか。
今更詮無いことを考える。
「仕方あるまい、いったん退いて態勢を立て直すぞ!」
「はっ」
ん、なんだ騒ぎが近いな…くそ、近くまで攻め込まれていたのか!
「駕籠を」
ちっ、徒士を呼び戻そうとしたが、島津の連中がここまで来たのか、間に合わんな。
「ここには近づけぬ!」
信俊の声だな、ここまで来たか。
「皆の者!耐えよ!周囲の者共が駆けつけてくるまで!」
「そこにいるのは、大将か!」
「黙れ下郎!」
「その首もらい受ける!」
「ふん!雑兵ごときがわしの首を得れると思うな!」
ふう、ふう、何人斬ったか分からん。
槍も折れ、刀も血のりでまともに斬れぬか。
敵も雑兵ばかり、腕の立つものもおらんのが救いだが、敵勢が多すぎる。
ここまで浸透されていたとはな、だが、味方の軍勢の歓声も聞こえてきている。
耐えれば、勝てる兵はこちらが上だ!
「ぐっ!?」
油断したか、脇に槍を刺されるとは!
「下がれ下郎!」
「ぎゃ!」
切り捨てたが、この傷では!
くそ、膝が崩れる…
「ごめん、その首もらい受ける」
「ふん、雑兵ごときの下郎では、名乗りも挙げれぬか」
「これは…島津義久の臣川上忠堅」
「名乗りをあげるか、若輩ごときが…討てるものなら討ってみよ!我は、五州二島の太守龍造寺!山城守隆信である!見事討てたなら我が脇差をくれてやる!」
負けぬ、負けぬぞ……
天正十二年三月二十四日 肥前国沖田畷にて、肥前の熊と言われ九州にて、大友、島津とならぶ強国となった梟雄龍造寺隆信、討ち死にす。
清内…吉田清内
家利…石井家利
信俊…倉町信俊
家種…江上家種
家信…後藤家信
信生…鍋島信生※後の鍋島直茂




