◆第76話:交錯する剣閃、試練の先◆
幾度も繰り返された模擬戦。
日を追うごとにライナの動きはさらに鋭く、そして無軌道なまでに華麗さを増していた。
この日もまた、セディオスはライナを平原へと誘っていた。
「今日もよろしくお願いしまーす!」
「……ああ、宜しく。今日は試したいことがあるが、いつも通りの模擬戦で頼む」
ライナは元気に頷き、《魔斧グランヴォルテクス》を肩に担いだ。
戦いが始まる。
ライナは魔力で身体を強化し、アクロバティックかつ猛スピードの連撃が嵐のように襲いかかる。
雷の如き斬撃が頬を掠め、熱を帯びた風が耳を切り裂いた。
(……ここまで速く、重くなったか。だが――まだ、譲れない)
押し寄せる連撃に翻弄されながらも、セディオスの表情に焦りはなかった。
むしろ――静かに、ある手応えを待っていた。
戦いが始まって数分。
近くで見守っていたエクリナが、小さく眉を寄せた。
「……おかしいな。ライナの動きはいつも通りだが……傷が、少しずつ……?」
そう、ライナの腕や脚に細かな擦過傷が浮かび始めていた。
一方、セディオスはいつもよりも傷が少ない。
そして――次の瞬間。
「うわっ……!」
ライナが吹き飛ばされた。
土煙を巻き上げ、平原の地に背中から転がる。
セディオスはわずかに息を切らせていたが、大きなダメージは見受けられなかった。
「えっ……? なんで……?」
ライナは驚きに目を見開きながら立ち上がる。
「おかしい……僕の動きが読まれてる? そんなはずないのに……」
動揺を隠せず、ライナは再び踏み込む。
セディオスは落ち着いた体捌きでそれを受け流し、切り結ぶこと数合。
互いに離れ、息を整える。
「だったら……これで!」
ライナは見てみたくなった、剣閃以外にも対応できるのかを。
魔力を凝縮させ、雷の刃を作り出す。その刃を勢いよくセディオスへと放つ。
閃光が一直線に走る――
だがセディオスは紙一重で身を捻り、足裏に草を裂く感触を残して避け切った。
「な、なんで……避けられたの……?」
「……動体視力と反応速度の強化。低級魔法で十分にできる。あとは――体捌きだ」
セディオスは静かに言った。
「ライナの突進力を、逆に利用しただけだ。お前の勢いを、別の方向に逸らせば……な」
ライナの胸中に、焦燥が広がる。
「じゃあ、これならどうだッ!」
《魔斧グランヴォルテクス》が変形し、巨大な斧に。
ライナは跳躍と同時に、一撃必殺の大技を振り下ろす。
だが、その隙を――セディオスは見逃さなかった。
低く構え、一気に踏み込むと、《魔斧グランヴォルテクス》の内側へ潜り込む。
そして、グランヴォルテクスが振り下ろされる寸前。
「っ……!」
刃を喉元へ――冷たい鉄がライナの肌に触れる。
「……っ負けた……」
唇を噛みしめ、悔しさに目を伏せる。だが次の瞬間には、誇らしげに顔を上げた。
「やっぱり……セディオスは、すごいよ」
遠くで見守っていたエクリナは、満足げに小さく頷いた。
ティセラもまた、安堵の笑みを浮かべていた。
風が平原を渡り、二人の汗を冷やしていく。
ただの勝敗ではない。
互いを高め合う証として刻まれた剣閃の記憶が、確かにそこに残った。
次回は、『9月28日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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