◆第74話:真剣なる刃の誓い◆
数日が過ぎた。
ライナとの訓練は順調に進み、木剣での模擬戦も徐々に高度なものとなっていた。
その日の朝、訓練場でセディオスがふと口を開く。
「今日は……真剣でやってみようか」
「えっ、いいの!? でも……危なくない?」
ライナが驚きつつも、目を輝かせる。
「お互い本気でぶつからなければ、見えないものもある。もちろん、殺し合いをするわけじゃない。
全力で技を交わし、限界を探る――そういう訓練だ」
「……うん、わかった! 僕、全力でいくね!」
◇
舞台は、訓練場から少し離れた平原へと移された。
風が緑を撫でる草原の中心で、ふたりは静かに向かい合う。
セディオスの手には、ティセラが管理する保管庫から取り出された『実剣――』だが、あくまで“普通の剣”だった。
一方、ライナは実戦仕様の《魔斧グランヴォルテクス》を手に、瞳を鋭く細める。
「いくよ……!」
「来い」
その一言が合図だった。
ライナが地を蹴り、雷の如き速度で駆ける。
鋼がぶつかる甲高い音が平原にこだまし、火花が散った。
アクロバティックで無軌道。
俊敏さと魔力による身体強化が生み出す連撃は、まさに嵐のごとし。
セディオスはそれを冷静に受け流そうとするが――
「……くっ」
応じる身体は、かつてのようには動かなかった。
雷鳴のような轟音とともに斧が振り下ろされ、地面をえぐる衝撃波が草原を震わせる。
その一撃が脇腹をかすめ、後退しながら体勢を立て直すも、息はすでに乱れていた。
(心は追いついている。だが身体が……っ。これが“代償”か)
(それでも……まだ、折れるわけにはいかない!)
「セディオス、大丈夫!? ……でも、僕、手加減しないよ!」
「……ああ、それでいい」
内心の焦りを押し殺しながら、セディオスは剣を握り直す。
だが、その手にはわずかな震えが走っていた。
近くで見守るエクリナとティセラ。
「……あのふたり、本気で打ち合ってますね」
「ええ。けれど……セディオス、少し辛そうです」
「無理もあるまい。身体はまだ、完全には戻っておらぬ……」
やがて剣戟が止み、沈黙が訪れる。
セディオスは荒い息を整え、剣を納めた。
ライナも魔斧を肩に担ぎ直し、満足そうに微笑む。
「……セディオス、またやろうね!」
「ああ。……次は、もっと動けるようになってみせる」
その言葉に、悔しさと、それでも折れぬ意志が宿っていた。
(この子は……もう、一人前の戦士の速さだ)
握られた剣――それは、かつての栄光ではなく、“これからの自分”を切り拓く誓いそのものだった。
次回は、『9月25日(木)20時ごろ』の投稿となります。
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