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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第一章:それでも、主の傍に

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8/201

◆第6話:ライナの冒険(朝から夕方編)◆

朝――

陽の光が差し込む頃、ライナは勢いよくベッドから飛び起きた。

静かな館に賑やかさが生まれる。


「よ~っし! 今日も元気に出撃だ~!」

寝癖全開、寝間着姿のまま厨房へ直行。


「王さま~っ! 朝ごはん食べたら森へ食材取りに行ってくるねっ!」

「寝間着のまま叫ぶな! まず着替えよ!」


エクリナの怒号を背に、ライナは慌ててひっつかむように着替える。パンを口にくわえたまま森へ駆け出した。

足取り軽く、今日も元気に快活に今を楽しむライナだった。


昼――

森の中を軽快に走り回る。木の実を摘み、キノコを見つけ、小動物の足跡を追う。

「おっ、これは食べられるやつ! こっちは毒キノコ!……わかってるもん!」


昼が過ぎ、木陰に腰を下ろして空を見上げる。

ライナは背中を大木に預け、汗ばんだ額をぬぐう。


「ふふん、あの頃よりずっと平和になったなぁ……」

「……ほんと、あの時は……」

涼しい木陰。休憩のはずが、うたた寝を始めてしまった。


 ◇ ◇ ◇


ライナは夢を見る――それは思い出したくもない記憶。


魔哭神の居城。目を覚ますと、そこは石造りの牢だった。

手には枷がはめられ、鎖で壁に繋がれていた。

牢内は底冷えがするほど寒かった。


「ズズっ……ここ……なんなの……」

鼻が垂れるのをすすり上げ、自分の体をぎゅっと抱きしめるライナ。

腕をこすり、震えながら寒さに耐えていた。


これがライナに与えられた、初めての世界だった。

鉄の匂いと湿った石の冷たさだけが、世界のすべてだった。


寒い牢が、嫌いだった。

魔哭神の『実験』が、嫌いだった。

一人が……嫌いだった。


いつしか、寒さも実験も、一人きりの時間も――

すべてを嫌悪するようになった頃、ライナは戦場へと送られた。


そこでは、赤毛の少女が勇ましく戦っていた。

炎を操り、人属軍を焼いていた。

そのせいか、彼女の周りは暖かった。


ライナも《魔斧グランヴォルテクス》を振るい、雷を起こし、人属を亡き者にしていく。

神の命令のままに戦場を駆け、紫電をほとばしらせる日々だった。

赤毛の少女は『ルゼリア』という名だと、自我の薄い兵士たちから聞かされた。


「ルゼ……リア……」

「あのの近くは、暖かくて……好き?かも?」

赤毛の少女の名を口にし、想うライナであった。


それからはルゼリアと共にいることが多くなった。

いくつもの戦場で共闘し、いつの間にか『リア姉』と呼ぶようになった。

会話はあまりできなかったけれど、ルゼリアは暖かく、ライナの心も熱くなっていた。


だが、その刻は長くは続かなかった。

ライナは慢心していた、油断していた。

まさか、罠があるとは思っていなかった。


戦場に隠されていた魔法陣を踏んだ――その瞬間、足が凍りつき、動けなくなった。

そのまま氷がふくらはぎから太腿、腹へと這い上がってくる。

抵抗するも侵食は早く、あっという間に下半身が氷漬けとなり、さらに胸元へと迫っていった。

肌の感覚は奪われていくのに、骨の芯だけがきしむように痛い。


「リア姉……」

弱々しい声しか出せないライナ。


(冷たい……嫌だ……嫌だ……)

氷の冷たさは、かつての石牢の寒さをありありと思い出させた。


駆け寄ろうとしたルゼリアは、彼女の名を叫んだ。

ライナは助けを期待した。すぐに助けてもらえると思っていた。

その瞬間、人属の魔導士に吹き飛ばされるルゼリアが見えた。


(!! リア姉!)

既に口まで氷が来ており、姉の名を声に出すことはできなかった。

ルゼリアが倒れるのを見ながら全身が氷漬けになった。


それでも意識があるライナはルゼリアを見守っていた。

三人の人属を相手に奮戦し、右手を斬り飛ばされ、胸を貫かれていた。

辛くも撃退し、地に伏す姉が遠くにいた。


(僕が罠に掛かったから……僕に気を取られたから……)

自責の念に駆られるライナ。助けたいのに、泣きたいのに、声を出したいのに、すべて思い通りにならなかった。


やがて戦場には魔哭神の兵が増援としてなだれ込み、戦況は制圧されていった。

回収されるルゼリアが見える。氷柱のライナも兵士に担がれていく。


(良かった! これでリア姉が……僕も助かる!)


だが、拠点に戻るやそのまま放置される。

氷の冷たさで意識が朦朧とする中、ライナは思う。


(なんで……出してくれないの……?)


周囲から微かに聞こえる声があった。

「弱い」「想定を下回った」「捨て置けと指示があった」

神に造られた兵器の末路は無常であった。


瞼さえ凍りついて、涙もこぼれない。

(そうなんだ……捨てられるんだ……)


意識が遠のく中、絶望を感じるライナ。

(もう、眠ってしまおう……僕、寒いの嫌いだな……)

そうしてライナは、静かに眠りについた。


しばらくして――


(暖かい……声が聞こえる……)


ライナが目を開けると、二人の少女が目の前に立っていた。

片方は冷たい光を宿した銀髪の少女、もう片方は柔らかな気配をまとった金髪の少女だった。


(あ……リア姉の声だ。……助かったんだ。良かったぁ~)


「うっ、頭が……ッ!」

額を押さえ、走る頭痛を必死にこらえるライナ。

銀髪の少女は、エクリナというらしい。そして、自らを『魔王』と名乗っていた。


(ま、魔王?……僕を選んでくれた……)

(なら、今度こそ……捨てられずに済むのかな……)


「……王さま……って、呼んでもいい……?」

ライナが新しい居場所を得た瞬間であった。


 ◇ ◇ ◇


「は! 寝ちゃってた!」

程よい陽気に流され、大木に身を預けてうたた寝をしていたらしい。

「なんか……懐かしい……何だっけ?」

目をこすりながら、さっきまで見ていた夢を思い出そうとするが、もう細部は霞んでいた。


「まあいいか! いっぱい取ったし帰ろう!」

自らの居場所を再認識した雷娘は、元気よく館の方へと駆けていった。


夕方――

両手いっぱいの戦利品を抱えて館へ帰還。

「たっだいま~っ! シカも取ってきたよ! ちょっと重いけど大丈夫~っ!」


ふらつく彼女を裏口で迎えたエクリナが、ため息まじりに支える。

「……我がいなければどうなっていたか。まったく、目が離せぬ」

けれど口元にはかすかな笑みを見せる。


「王さま、今晩は蜂蜜たっぷりのジビエシチューにしようよっ!」

「また甘味全開か!……しかし、うぬが選んだ食材ならば、腕を振るわねばな」


夕暮れの厨房に、ライナの元気な声とエクリナの鋭いツッコミが響き渡る。

騒がしくも温かなその時間こそ――雷娘が、ようやく手に入れた、何気ない一日という日常だった。

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